講演情報
[G-P-16]山形県鮭川村観音寺露頭の光ルミネッセンス年代
*林崎 涼1、中田 英二1、福地 亮2、谷口 友規3、相山 光太郎1 (1. 電力中央研究所、2. エイエフコンサルタント、3. (株)セレス)
キーワード:
光ルミネッセンス(OSL)年代測定、活断層、観音寺露頭、河成段丘構成層
1.はじめに
断層の活動性評価では,放射性炭素年代測定法が上載層の堆積年代の測定に用いられている.しかしながら,放射性炭素年代測定法では,約5万年より古い年代値を求めることができない.このため,約5万年より古い上載層の堆積年代を直接求める手法の開発が必要となっている.
光ルミネッセンス(OSL)年代測定法は,地層中に含まれる石英や長石から,数十万年前までの上載層の堆積年代を求めることができる手法である(田村,2021).今回,観音寺露頭の上載層における長石のOSL年代測定例を報告する.
2.調査地点
調査地点は,山形県北部の鮭川村庭月に位置する観音寺露頭である.観音寺露頭では,基盤の鮭川層(守屋ほか,2008)が,最大層厚約4 mの河成段丘構成層の礫層に不整合で覆われる.この礫層上面は断層活動により鉛直に約2 m変位している(中田ほか,2024).下盤側では,礫層が層厚約1mの斜交層理を伴う河成段丘構成層の砂層に覆われる.さらに,砂層は層厚約50 cmの黄灰色~黄褐色シルト層に覆われ,このシルト層は層厚約1 mの褐色シルト層に覆われる.断層は,礫層を覆う砂層に加えて黄灰色~黄褐色シルト層も変位させている.河成段丘構成層は,空中写真判読による段丘区分から,低位(松浦,2003)もしくは中位(澤ほか,2001)の構成層と推測されている.
3.分析方法
試料は,下盤側の上載層である砂層(OSL1~6),黄灰色~黄褐色シルト層(OSL7,8)と褐色シルト層(OSL9)で採取した(図1).試料採取は,直径3 cm,長さ25 cmのステンレスパイプを打ち込んで実施した.OSL測定には,180-250 µmで密度2.53~2.58 g/cm3のカリ長石に富む粒子を用いた.長石のOSL年代測定はpIR200IR290法(Li and Li, 2012)の測定条件で実施した.年代値は,8個の試料台の等価線量の平均値と標準誤差を年間線量率で除して求めた.年代値の若返りの有無を判断するg2days値は,年代測定に用いた8個の試料台から求めた.
4.結果
表1に長石によるOSL年代測定結果を示す.g2days値は,年代値の若返りが起きていないと判断できる1.0~1.5%/decadeもしくはそれ以下の値(Buylaert et al., 2012)であった.砂層のOSL1~6では9.1±1.2~11.5±1.1万年前の年代値が得られた.黄灰色~黄褐色シルト層のOSL7とOSL8では6.5±0.8~7.3±1.2万年前,褐色シルト層のOSL9では5.2±0.4万年前の年代値が得られた.
5.考察
OSL年代値は,地層累重の法則に従い,下位から上位の地層に向かって若くなる傾向が認められる.斜交層理を伴う砂層の年代値は約10万年前を示す.これは,河成段丘構成層が中位の構成層であることを明らかにしている.斜交層理を伴う砂層中には,断層活動を示唆するイベント堆積物は認められない.観音寺露頭の活断層は,砂層を覆う黄灰色~黄褐色シルト層を変位させているため,約7万年前以降に少なくとも1回は活動したと判断できる.長石のOSL年代測定法は,上載層を用いた断層の活動性評価に役立つ手法であると考えられる.
【引用文献】
澤 祥, 宮内崇裕, 佐藤比呂志, 八木浩司, 松多信尚, 越後智雄, 丹羽俊二(2001) 1:25,000都市圏活断層図「新庄」,国土地理院.
田村 亨 (2021) 光ルミネッセンス(OSL)年代測定法. RADIOISOTOPES, 70, 107-116.
中田英二, 林崎 涼, 相山光太郎, 福地 亮 (2024) 山形県鮭川村観音寺の活断層露頭. 地質学雑誌, 130, 87-88.
松浦旅人 (2003) 山形県新庄盆地西部に分布するFlexural-slip断層とその活動時期. 活断層研究, 23, 29-36.
守屋俊治, 鎮西清高, 中嶋 健, 檀原 徹 (2008) 山形県新庄盆地西縁部の鮮新世古地理の変遷-出羽丘陵の隆起時期と隆起過程-. 地質学雑誌, 114, 389-404.
Buylaert, J.-P., Jain, M., Murray, A. S., Thomsen, K. J., Thiel, C., and Sohbati, R. (2012) A robust feldspar luminescence dating method for Middle and Late Pleistocene sediments. Boreas, 41, 435-451.
Li, B., and Li, S.-H. (2012) A reply to the comments by Thomsen et al. on “Luminescence dating of K-feldspar from sediments: A protocol without anomalous fading correction”. Quaternary Geochronology, 8, 49-51.
断層の活動性評価では,放射性炭素年代測定法が上載層の堆積年代の測定に用いられている.しかしながら,放射性炭素年代測定法では,約5万年より古い年代値を求めることができない.このため,約5万年より古い上載層の堆積年代を直接求める手法の開発が必要となっている.
光ルミネッセンス(OSL)年代測定法は,地層中に含まれる石英や長石から,数十万年前までの上載層の堆積年代を求めることができる手法である(田村,2021).今回,観音寺露頭の上載層における長石のOSL年代測定例を報告する.
2.調査地点
調査地点は,山形県北部の鮭川村庭月に位置する観音寺露頭である.観音寺露頭では,基盤の鮭川層(守屋ほか,2008)が,最大層厚約4 mの河成段丘構成層の礫層に不整合で覆われる.この礫層上面は断層活動により鉛直に約2 m変位している(中田ほか,2024).下盤側では,礫層が層厚約1mの斜交層理を伴う河成段丘構成層の砂層に覆われる.さらに,砂層は層厚約50 cmの黄灰色~黄褐色シルト層に覆われ,このシルト層は層厚約1 mの褐色シルト層に覆われる.断層は,礫層を覆う砂層に加えて黄灰色~黄褐色シルト層も変位させている.河成段丘構成層は,空中写真判読による段丘区分から,低位(松浦,2003)もしくは中位(澤ほか,2001)の構成層と推測されている.
3.分析方法
試料は,下盤側の上載層である砂層(OSL1~6),黄灰色~黄褐色シルト層(OSL7,8)と褐色シルト層(OSL9)で採取した(図1).試料採取は,直径3 cm,長さ25 cmのステンレスパイプを打ち込んで実施した.OSL測定には,180-250 µmで密度2.53~2.58 g/cm3のカリ長石に富む粒子を用いた.長石のOSL年代測定はpIR200IR290法(Li and Li, 2012)の測定条件で実施した.年代値は,8個の試料台の等価線量の平均値と標準誤差を年間線量率で除して求めた.年代値の若返りの有無を判断するg2days値は,年代測定に用いた8個の試料台から求めた.
4.結果
表1に長石によるOSL年代測定結果を示す.g2days値は,年代値の若返りが起きていないと判断できる1.0~1.5%/decadeもしくはそれ以下の値(Buylaert et al., 2012)であった.砂層のOSL1~6では9.1±1.2~11.5±1.1万年前の年代値が得られた.黄灰色~黄褐色シルト層のOSL7とOSL8では6.5±0.8~7.3±1.2万年前,褐色シルト層のOSL9では5.2±0.4万年前の年代値が得られた.
5.考察
OSL年代値は,地層累重の法則に従い,下位から上位の地層に向かって若くなる傾向が認められる.斜交層理を伴う砂層の年代値は約10万年前を示す.これは,河成段丘構成層が中位の構成層であることを明らかにしている.斜交層理を伴う砂層中には,断層活動を示唆するイベント堆積物は認められない.観音寺露頭の活断層は,砂層を覆う黄灰色~黄褐色シルト層を変位させているため,約7万年前以降に少なくとも1回は活動したと判断できる.長石のOSL年代測定法は,上載層を用いた断層の活動性評価に役立つ手法であると考えられる.
【引用文献】
澤 祥, 宮内崇裕, 佐藤比呂志, 八木浩司, 松多信尚, 越後智雄, 丹羽俊二(2001) 1:25,000都市圏活断層図「新庄」,国土地理院.
田村 亨 (2021) 光ルミネッセンス(OSL)年代測定法. RADIOISOTOPES, 70, 107-116.
中田英二, 林崎 涼, 相山光太郎, 福地 亮 (2024) 山形県鮭川村観音寺の活断層露頭. 地質学雑誌, 130, 87-88.
松浦旅人 (2003) 山形県新庄盆地西部に分布するFlexural-slip断層とその活動時期. 活断層研究, 23, 29-36.
守屋俊治, 鎮西清高, 中嶋 健, 檀原 徹 (2008) 山形県新庄盆地西縁部の鮮新世古地理の変遷-出羽丘陵の隆起時期と隆起過程-. 地質学雑誌, 114, 389-404.
Buylaert, J.-P., Jain, M., Murray, A. S., Thomsen, K. J., Thiel, C., and Sohbati, R. (2012) A robust feldspar luminescence dating method for Middle and Late Pleistocene sediments. Boreas, 41, 435-451.
Li, B., and Li, S.-H. (2012) A reply to the comments by Thomsen et al. on “Luminescence dating of K-feldspar from sediments: A protocol without anomalous fading correction”. Quaternary Geochronology, 8, 49-51.
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