講演情報

[G-P-19]細菌叢解析(環境DNA)を用いた地下水流動検討

*森 啓悟1、改田 行司1、万木 純一郎1、畠中 与一1、和田 茂樹1、水野 貴文2、山崎 智美2、棟方 有桂2 (1. 株式会社建設技術研究所、2. 株式会社環境総合リサーチ)
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キーワード:

地下水流動、細菌叢解析、環境DNA、次世代シーケンサー、主座標解析

1.はじめに
 微生物は多種多様な環境に生息しており、地下水においても存在が報告1)されている。細菌叢解析は、地下水に含まれるDNAから生息する細菌を検出・分類手法であり、地下水の流動経路・混合率等を把握する先端技術として発展が期待されている。本稿では、地すべり対策工事が予定されている2地区を研究フィールドとし、周辺地下水を対象に細菌叢解析を用いて地下水流動や水質分類を検討した事例を紹介する。
2.地下水環境に配慮した地すべり対策工事の効果検証
 当該地区には生活利水井戸が多数存在し、地すべり対策工事(地下水排除工)の実施に際しては、地下水環境に留意する必要がある。地すべり土塊に作用する地下水には、崖錐堆積物中の自由地下水と岩盤の被圧地下水が存在し、このうち横ボーリング工等により岩盤の被圧地下水を低下させる対策工事が段階的にすすめられている。地すべり対策工事の効果を確認するため、自由地下水や被圧地下水を対象に主要イオン分析および細菌叢解析を実施した。
 主要イオン分析の結果、地すべりブロックAでは被圧地下水と自由地下水の間に濃度や水質に顕著な違いが認められたが、Bブロックでは明瞭な違いが認められず、両者の区別は困難であった。続いて細菌叢解析を行い、細菌叢の門レベルでの相対存在量を比較した。その結果、ブロックに関わらず被圧地下水ではProteobacteriaとBacteroidotaが約50%以上を占め、大部分を構成しているのに対し、自由地下水では多様な門種が確認され、両者の細菌叢パターンに明瞭な違いが認められた。また、自由地下水の細菌叢パターンは生活利水井戸と類似していた。以上より、被圧地下水と自由地下水はブロックに関わらず区別され、崖錐堆積物と岩盤は明瞭に異なる帯水層であることが確認された。このため、岩盤の被圧地下水を対象とした対策は効果的であり、また生活利水井戸への影響は小さいと評価した。
3.季節変動を考慮した水質分類事例
 地すべり対策予定地の上流に位置する池水には特徴的な細菌の存在が報告されている。細菌叢の季節変動の有無や、季節変動が水質分類する上で与える課題について検討するために、池水や周辺井戸水および地すべりブロック内の地下水観測孔に対して時期を変えて細菌叢解析を実施した。複数回の採水実施した地点は、池水と一部の井戸で令和5年3月、5月、8月、11月の四季分析を行った。
 細菌叢解析の結果、池水の細菌叢において門レベルの相対存在量に季節変動が認められ、主要な細菌叢の季節変動が確認された。また周辺の井戸についても同様な傾向が確認された。続いて、次元圧縮方法の一つである主座標解析により、詳細な水質分類を試みた。この結果、池水の第1主成分得点は季節に関わらず概ね一定であるのに対し、第2主成分得点に季節変動が認められた。地点毎の第1主成分得点の関係性は、地下水等高線図から推定される地下水流動方向と調和的であり、かつ季節変動に左右されないことから、池水の寄与を反映していると考えられ、一方の第2主成分得点は季節変動を反映していると評価した。以上より、細菌叢の季節変動が確認されたとしても、水質分類は依然として可能であると考えられる。
4.まとめ
 地下水中の細菌叢を詳細に分類することにより、地下水流動や水質分類の検討に適用可能であることが示された。また本研究では、池水や井戸水中の細菌叢に季節変動が確認されたが、季節変動成分は、主座標解析等の統計処理により抽出可能であり、地下水流動等の季節変動の影響を受けにくい成分と区別可能であることが示された。今後、同様の細菌叢解析が数多く実施され、知見が更に蓄積されることで、有用な地下水流動検討手法として確立されることが期待される。

文献
杉山歩、辻村真貴、加藤憲二 2020 地下水流動系という視点からみる微生物動態研究の課題と展望 地下水学会誌 第62巻第3号p431~448

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