講演情報
[G-P-25]島根県松江市玉湯町周辺の青めのう(碧玉)脈の産状と母岩の安山岩溶岩の変質作用
*大平 寛人1、中里 瑠花2、丸山 諒1 (1. 島根大学、2. 島根大学(現:㈱日本インシーク))
キーワード:
碧玉、安山岩溶岩、熱水変質作用、セラドナイト、玉髄
はじめに
島根県松江市玉湯町の花仙山(かせんざん)周辺で採掘される青めのう(碧玉)は古くから勾玉や装飾品材料として利用されてきた.採掘跡は100か所以上あり弥生時代から昭和50年代まで採掘が行われたとされる(松江市教育委員会,1978).玉造温泉街近傍のめのう公園には小さな採掘跡が保存されている.花仙山周辺には白めのう(玉髄)も産出し,碧玉や玉髄は中期中新世の大森層に相当する安山岩溶岩中に,脈状あるいは気孔を埋めるように産する.安山岩溶岩に由来する揮発成分が碧玉や玉髄の形成に関与したと考えられるが,それらの詳しい産状や薄片に関する報告は少ない.そこで今回主に青めのう(碧玉)脈の産状を報告するとともに,薄片観察,XRDによる変質鉱物の同定,EPMAによる反射電子線像の観察・分析を行ったので報告する.あわせて母岩の安山岩溶岩の変質についても検討した.
安山岩溶岩と青めのう(碧玉)採掘坑跡の分布
安山岩溶岩は花仙山を中心として松江市佐草町から同市玉湯町にかけて分布し層厚は最大500m以下とされる(鹿野ほか,1994).花仙山西麓の玉湯町付近では溶岩の層厚が薄くなり下位の大森層の砂岩を直接覆う.採掘坑跡は花仙山西麓の複数の地域に偏在しており(松江市教育委員会,1978),そのような場所で碧玉や玉髄の形成に関与する熱水が発達しやすい地質条件があったものと考えられる.
青めのう(碧玉)脈と母岩安山岩の産状,鏡下での特徴
めのう公園の主要な青めのう(碧玉)脈は厚さが最大約20cm,濃緑色〜淡緑色(一部は灰白色)を呈する不均質な産状で,複数の分岐細脈(厚さ数cm)を伴う.鏡下での特徴は濃緑色部と淡緑色〜灰白色部ではやや異なる.前者は全体に淡緑色を呈し珪長質隠微晶質でまれに微細な柱状鉱物(仮像)や不透明鉱物を伴う.後者は灰白色で部分的に淡緑色の領域を伴い,珪長質隠微晶質で,微細な石英や長石片(約0.1mm)および変質した褐色の有色鉱物を含む場合がある.青めのう(碧玉)脈周囲の安山岩溶岩は淡黄灰色に変質し脆く崩れやすい.鏡下では石基および有色鉱物の粘土化が著しく,まれに斜長石の一部が残存する.めのう公園からやや離れた安山岩露頭においては,未変質に近い試料から強変質試料,また微細な白めのう(玉髄)脈を伴う試料まで多様な産状が確認できる.岩石全体に気孔が発達する特徴があり,変質した試料では不定形〜扁平な気孔を淡褐色葉片状の粘土鉱物が埋めている.また白めのう脈と接する試料では微細粒状石英や,板状の沸石様鉱物が気孔を埋める場合がある.
XRDによる鉱物の同定
青めのう(碧玉)脈を,灰白色部,淡緑色部,濃緑色部に分け,XRDで検討したところ,灰白色部では石英+沸石類,淡緑色部および濃緑色部では石英+セラドナイトが検出され,濃緑色部ほどセラドナイトのピークが明瞭である.青めのう(碧玉)脈と接する変質安山岩から取り出した20μmと2μmの水ひ定方位試料では,前者ではスメクタイト+斜長石が,後者ではスメクタイト+ハロイサイト+黄鉄鉱が確認できる.スメクタイトはエチレングリコール処理や300℃加熱時のピーク挙動からも確認した.一方めのう公園からやや離れた変質安山岩の水ひ定方位試料(20μmと2μmのフラクション)ではスメクタイトやクリストバライトのピークが確認できる.これらの変質鉱物も碧玉や玉髄を形成した熱水が関与し一部はその後の風化作用により形成したものと考えられる.
EPMAによる反射電子線像
青めのう(玉髄)の濃緑色部の薄片では,まれに存在する微細孔隙(径約10μm)を満たすように,柱状・針状の自形セラドナイト(長径約1μm)の集合体が成長している.それ以外の平滑な基質部の組成は不均質で,SiO2に富む暗灰色の領域(SiO2が約90%)に,微細な明灰色柱状のセラドナイトが取り込まれ同化しているように見 える.淡緑色部の薄片の基質部は,よりSiO2に富み(約98.5%),石英成分がセラドナイトを覆うようにオーバープリントしている様子が確認できる.微細孔隙の内部の壁面には自形柱状の石英(長径約5μm)が成長しており,まれに葉片状の粘土鉱物が微細孔隙を埋める場合もある.
まとめ
玉湯町周辺の安山岩溶岩には気孔が発達し,変質した試料はスメクタイト,クリストバライト,石英,黄鉄鉱などの変質鉱物を含む.青めのう(碧玉)脈は主に石英とセラドナイトからなり,反射電子線像では石英成分がセラドナイトを覆うように発達する様子が確認できる.玉湯町の安山岩溶岩に碧玉や玉髄を形成するような熱水が発達した地質条件や熱水の温度などについてさらに検討する必要がある.
引用文献
鹿野和彦ほか(1994)松江地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1 地質図幅),地質調査所,126 p.
松江市教育委員会(1987)玉作関係遺跡.島根県生産遺跡分布調査報告書Ⅵ,61p.
島根県松江市玉湯町の花仙山(かせんざん)周辺で採掘される青めのう(碧玉)は古くから勾玉や装飾品材料として利用されてきた.採掘跡は100か所以上あり弥生時代から昭和50年代まで採掘が行われたとされる(松江市教育委員会,1978).玉造温泉街近傍のめのう公園には小さな採掘跡が保存されている.花仙山周辺には白めのう(玉髄)も産出し,碧玉や玉髄は中期中新世の大森層に相当する安山岩溶岩中に,脈状あるいは気孔を埋めるように産する.安山岩溶岩に由来する揮発成分が碧玉や玉髄の形成に関与したと考えられるが,それらの詳しい産状や薄片に関する報告は少ない.そこで今回主に青めのう(碧玉)脈の産状を報告するとともに,薄片観察,XRDによる変質鉱物の同定,EPMAによる反射電子線像の観察・分析を行ったので報告する.あわせて母岩の安山岩溶岩の変質についても検討した.
安山岩溶岩と青めのう(碧玉)採掘坑跡の分布
安山岩溶岩は花仙山を中心として松江市佐草町から同市玉湯町にかけて分布し層厚は最大500m以下とされる(鹿野ほか,1994).花仙山西麓の玉湯町付近では溶岩の層厚が薄くなり下位の大森層の砂岩を直接覆う.採掘坑跡は花仙山西麓の複数の地域に偏在しており(松江市教育委員会,1978),そのような場所で碧玉や玉髄の形成に関与する熱水が発達しやすい地質条件があったものと考えられる.
青めのう(碧玉)脈と母岩安山岩の産状,鏡下での特徴
めのう公園の主要な青めのう(碧玉)脈は厚さが最大約20cm,濃緑色〜淡緑色(一部は灰白色)を呈する不均質な産状で,複数の分岐細脈(厚さ数cm)を伴う.鏡下での特徴は濃緑色部と淡緑色〜灰白色部ではやや異なる.前者は全体に淡緑色を呈し珪長質隠微晶質でまれに微細な柱状鉱物(仮像)や不透明鉱物を伴う.後者は灰白色で部分的に淡緑色の領域を伴い,珪長質隠微晶質で,微細な石英や長石片(約0.1mm)および変質した褐色の有色鉱物を含む場合がある.青めのう(碧玉)脈周囲の安山岩溶岩は淡黄灰色に変質し脆く崩れやすい.鏡下では石基および有色鉱物の粘土化が著しく,まれに斜長石の一部が残存する.めのう公園からやや離れた安山岩露頭においては,未変質に近い試料から強変質試料,また微細な白めのう(玉髄)脈を伴う試料まで多様な産状が確認できる.岩石全体に気孔が発達する特徴があり,変質した試料では不定形〜扁平な気孔を淡褐色葉片状の粘土鉱物が埋めている.また白めのう脈と接する試料では微細粒状石英や,板状の沸石様鉱物が気孔を埋める場合がある.
XRDによる鉱物の同定
青めのう(碧玉)脈を,灰白色部,淡緑色部,濃緑色部に分け,XRDで検討したところ,灰白色部では石英+沸石類,淡緑色部および濃緑色部では石英+セラドナイトが検出され,濃緑色部ほどセラドナイトのピークが明瞭である.青めのう(碧玉)脈と接する変質安山岩から取り出した20μmと2μmの水ひ定方位試料では,前者ではスメクタイト+斜長石が,後者ではスメクタイト+ハロイサイト+黄鉄鉱が確認できる.スメクタイトはエチレングリコール処理や300℃加熱時のピーク挙動からも確認した.一方めのう公園からやや離れた変質安山岩の水ひ定方位試料(20μmと2μmのフラクション)ではスメクタイトやクリストバライトのピークが確認できる.これらの変質鉱物も碧玉や玉髄を形成した熱水が関与し一部はその後の風化作用により形成したものと考えられる.
EPMAによる反射電子線像
青めのう(玉髄)の濃緑色部の薄片では,まれに存在する微細孔隙(径約10μm)を満たすように,柱状・針状の自形セラドナイト(長径約1μm)の集合体が成長している.それ以外の平滑な基質部の組成は不均質で,SiO2に富む暗灰色の領域(SiO2が約90%)に,微細な明灰色柱状のセラドナイトが取り込まれ同化しているように見 える.淡緑色部の薄片の基質部は,よりSiO2に富み(約98.5%),石英成分がセラドナイトを覆うようにオーバープリントしている様子が確認できる.微細孔隙の内部の壁面には自形柱状の石英(長径約5μm)が成長しており,まれに葉片状の粘土鉱物が微細孔隙を埋める場合もある.
まとめ
玉湯町周辺の安山岩溶岩には気孔が発達し,変質した試料はスメクタイト,クリストバライト,石英,黄鉄鉱などの変質鉱物を含む.青めのう(碧玉)脈は主に石英とセラドナイトからなり,反射電子線像では石英成分がセラドナイトを覆うように発達する様子が確認できる.玉湯町の安山岩溶岩に碧玉や玉髄を形成するような熱水が発達した地質条件や熱水の温度などについてさらに検討する必要がある.
引用文献
鹿野和彦ほか(1994)松江地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1 地質図幅),地質調査所,126 p.
松江市教育委員会(1987)玉作関係遺跡.島根県生産遺跡分布調査報告書Ⅵ,61p.
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