講演情報
[G-P-27]北海道中新世望来層中のメラノフロジャイト産出報告と深海メタン冷水湧出過程の考察
*髙橋 慶多1、沢田 輝2、小松 一生1、狩野 彰宏1、門馬 綱一3 (1. 東京大学、2. 富山大学、3. 国立科学博物館)
キーワード:
メラノフロジャイト、クラスレート、メタン、冷水湧出帯、中新世
メラノフロジャイトは, シリカからなる結晶骨格の中にメタンや二酸化炭素などのガス分子を含むシリカクラスレート鉱物の一つである。しかし, シリカクラスレート鉱物は不安定で, 多くの場合二次的に石英化してしまうため, 産出報告は稀である。本邦では千葉県木更津市と南房総市の新第三紀堆積岩中のシリカ脈から報告されている(門馬ほか, 2011; Momma et al., 2020)。本発表では, 新たに北海道石狩市望来海岸から未変質のメラノフロジャイトを発見したので報告する。
北海道石狩市望来海岸には, 新第三紀中新世後期の珪質堆積物からなる望来層が露出している。望来層中にはシロウリガイなどの化学合成生物群集の化石を含む炭酸塩ノジュールが報告されており(Amano, 2003), 深海の冷水湧出帯で形成された堆積物であると考えられている。その炭酸塩ノジュールの中から, 化学合成二枚貝化石の殻が溶脱するなどして空隙になった部分に, 方解石・ブドウ状の玉髄・オパール・石英・およびメラノフロジャイトが見出された。空隙を充填する鉱物は玉髄や石英の結晶が最も多く, メラノフロジャイトは空隙の最も内側に, 一辺最大 3 mm に達する無色透明の立方体結晶としてわずかに産した。立方体の表面は平滑なものが多いが, らせん状の成長線や骸晶になったものも見られる。また, 元々メラノフロジャイトだったと思われる立方体仮晶の石英も見られた。未変質のメラノフロジャイトを含んでいた炭酸塩ノジュールは, 珪藻化石・石英・斜長石・海緑石などを粒子として含んでいるほか, 炭酸塩鉱物+シリカ鉱物からなる脈が無数に見られた。
ラマン分光分析を行ったところ, 2901cm-1 に鋭いピークが確認され, ゲスト分子はほとんどメタンのみであることが示された。上記のメタンのピークは 2910cm-1 に分裂しており, メラノフロジャイト中の 2 種類のケージの両方にメタンが包有されていることが示唆された。また, X線回折データを測定したところ, 正方晶系 P42/nbc に属すること分かった。光学的には等方体であったが, 正方晶系のメラノフロジャイトが非肉眼スケールの双晶をなしていると考えられる。精密化した格子定数は, a = b = 26.796(4) Å, c = 13.366(1) Åと計算された。さらに炭素酸素同位体比を測定したところ, メラノフロジャイトを含むノジュールのマトリクス部の炭素同位体比は+11.87~+13.04‰, 酸素同位体比は+2.04~+4.02‰であった。また, 方解石からなる二枚貝の殻の炭素同位体比は+10.26 ‰, 酸素同位体比は+3.62‰であった。
以上の観察と分析から, 望来層のメラノフロジャイトおよびその母岩である炭酸塩ノジュールの形成過程を以下のように考察する。メラノフロジャイトを含むノジュールの炭素同位体比はすべて+12‰程度の正異常を示すことから, 硫酸還元帯におけるメタン酸化に伴うものではなく, メタン生成帯におけるメタン発酵によって発生した炭酸イオンからノジュールが形成されたと考えられる。有機物のメタン発酵によってメタンと二酸化炭素が発生し, この二酸化炭素が由来となって周囲の珪質な堆積物を取り込みながら炭酸塩ノジュールが形成された。その後, pHの上昇によって, シリカ・メタン・炭酸イオンを含む冷湧水から方解石・カルセドニー・メラノフロジャイトが晶出したと推測される。シリカの由来としては, 周囲の珪質な堆積物(珪藻化石や放散虫など)が考えられる。また, メラノフロジャイトに成長線や骸晶が観察されることから, この晶出は比較的速いプロセスであったことが示唆される。一方で多くのメラノフロジャイトは石英粒子やカルセドニーに置換されており, 準安定なメラノフロジャイトは形成後すみやかに仮晶化したと考えられる。
引用文献
Amano(2003) Veliger, 46, 90–96. 門馬ほか(2011) 日本鉱物学会2011年度年会講演要旨集, 129. Momma et al.(2020) Mineralogical Magazine, 84, 941-948.
北海道石狩市望来海岸には, 新第三紀中新世後期の珪質堆積物からなる望来層が露出している。望来層中にはシロウリガイなどの化学合成生物群集の化石を含む炭酸塩ノジュールが報告されており(Amano, 2003), 深海の冷水湧出帯で形成された堆積物であると考えられている。その炭酸塩ノジュールの中から, 化学合成二枚貝化石の殻が溶脱するなどして空隙になった部分に, 方解石・ブドウ状の玉髄・オパール・石英・およびメラノフロジャイトが見出された。空隙を充填する鉱物は玉髄や石英の結晶が最も多く, メラノフロジャイトは空隙の最も内側に, 一辺最大 3 mm に達する無色透明の立方体結晶としてわずかに産した。立方体の表面は平滑なものが多いが, らせん状の成長線や骸晶になったものも見られる。また, 元々メラノフロジャイトだったと思われる立方体仮晶の石英も見られた。未変質のメラノフロジャイトを含んでいた炭酸塩ノジュールは, 珪藻化石・石英・斜長石・海緑石などを粒子として含んでいるほか, 炭酸塩鉱物+シリカ鉱物からなる脈が無数に見られた。
ラマン分光分析を行ったところ, 2901cm-1 に鋭いピークが確認され, ゲスト分子はほとんどメタンのみであることが示された。上記のメタンのピークは 2910cm-1 に分裂しており, メラノフロジャイト中の 2 種類のケージの両方にメタンが包有されていることが示唆された。また, X線回折データを測定したところ, 正方晶系 P42/nbc に属すること分かった。光学的には等方体であったが, 正方晶系のメラノフロジャイトが非肉眼スケールの双晶をなしていると考えられる。精密化した格子定数は, a = b = 26.796(4) Å, c = 13.366(1) Åと計算された。さらに炭素酸素同位体比を測定したところ, メラノフロジャイトを含むノジュールのマトリクス部の炭素同位体比は+11.87~+13.04‰, 酸素同位体比は+2.04~+4.02‰であった。また, 方解石からなる二枚貝の殻の炭素同位体比は+10.26 ‰, 酸素同位体比は+3.62‰であった。
以上の観察と分析から, 望来層のメラノフロジャイトおよびその母岩である炭酸塩ノジュールの形成過程を以下のように考察する。メラノフロジャイトを含むノジュールの炭素同位体比はすべて+12‰程度の正異常を示すことから, 硫酸還元帯におけるメタン酸化に伴うものではなく, メタン生成帯におけるメタン発酵によって発生した炭酸イオンからノジュールが形成されたと考えられる。有機物のメタン発酵によってメタンと二酸化炭素が発生し, この二酸化炭素が由来となって周囲の珪質な堆積物を取り込みながら炭酸塩ノジュールが形成された。その後, pHの上昇によって, シリカ・メタン・炭酸イオンを含む冷湧水から方解石・カルセドニー・メラノフロジャイトが晶出したと推測される。シリカの由来としては, 周囲の珪質な堆積物(珪藻化石や放散虫など)が考えられる。また, メラノフロジャイトに成長線や骸晶が観察されることから, この晶出は比較的速いプロセスであったことが示唆される。一方で多くのメラノフロジャイトは石英粒子やカルセドニーに置換されており, 準安定なメラノフロジャイトは形成後すみやかに仮晶化したと考えられる。
引用文献
Amano(2003) Veliger, 46, 90–96. 門馬ほか(2011) 日本鉱物学会2011年度年会講演要旨集, 129. Momma et al.(2020) Mineralogical Magazine, 84, 941-948.
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