講演情報
[G-P-28]茨城県岩船閃緑岩の起源物質
*山崎 陽生1,2、江島 輝美1,2、昆 慶明2、荒岡 大輔2 (1. 信州大・理、2. 産総研)
キーワード:
閃緑岩、起源物質、岩船地域、西南日本
西南日本と東北日本との境界である棚倉構造線周辺には,白亜紀から古第三紀にかけて活動した深成岩類が分布しており,この地域の深成岩類の形成過程を明らかにすることは,西南日本と東北日本の深成岩類の火成活動場の連続性といった,東アジア縁辺部の深成岩類の形成過程を理解するうえで重要である。研究対象である岩船閃緑岩の北部には,前期白亜紀の八溝深成岩類の閃緑岩および斑れい岩1,2が,南部には後期白亜紀から古第三紀の筑波深成岩類3,4が分布しており,岩船閃緑岩は年代の異なる深成岩類の境界に位置している。そのため,岩船閃緑岩の火成活動年代と起源物質は,西南日本東部の火成活動境界および起源物質の年代による相違を明らかにする上で重要である。
岩船閃緑岩の火成活動年代は,ジルコンU-Pb年代測定の結果から,筑波深成岩類と同時期の火成活動年代をもつことが明らかになった5。一方,岩船閃緑岩の起源物質については報告されていない。岩船閃緑岩は主に閃緑岩から構成されることが報告されているが6,本研究の地質調査では,閃緑岩と比較して苦鉄質鉱物を多く含む,斑れい岩質閃緑岩を確認した。斑れい岩質閃緑岩は,すでに報告されている閃緑岩と比較して,未分化な組成である可能性が高い。そこで,本研究では,岩船閃緑岩中の閃緑岩および斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSr同位体初生値(SrI)を用いて,岩船閃緑岩の起源物質を明らかにする。
今回新たに報告された斑れい岩質閃緑岩組成を含む岩船閃緑岩5試料と,基盤岩である八溝層群の堆積岩3試料について,全岩元素組成およびSr同位体分析を行った。その結果,斑れい岩質閃緑岩(SiO2:54.75–54.90 wt.%,SrI:0.70925-0.70938)は,主岩相である閃緑岩(SiO2:56.99–58.61 wt.%,SrI:0.70996-0.71023)と比較して未分化で枯渇した組成を示す。AFCモデルによるマスバランス計算により,斑れい岩質閃緑岩から岩船閃緑岩主岩相までの主成分・微量元素およびSr同位体組成変化を説明することができた。
そのため,斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSrIを未分化な岩船閃緑岩マグマの組成と仮定して,岩船閃緑岩の起源物質を議論する。 岩船閃緑岩マグマの起源物質の候補として,玄武岩質海洋地殻,下部地殻およびマントルかんらん岩が挙げられる。
岩船閃緑岩マグマと,玄武岩質海洋地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成7とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生成する温度圧力条件は高い地温勾配の条件(8-27kbar,1000-1150℃)であることが示された。同様に岩船閃緑岩マグマと玄武岩質下部地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成8とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生じる部分溶融度は47 %であり,数値計算により示唆される下部地殻の部分溶融度の最大値(38%)9よりも高い値を示す。このことから,玄武岩質海洋地殻および玄武岩質下部地殻の部分溶融では,岩船閃緑岩マグマの生成を説明できない。
従って,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが予想される。岩船閃緑岩と筑波深成岩類は同時期に形成し3–5,共に八溝層群の堆積岩に貫入しているため,両者の地下には類似したマントルかんらん岩が存在していたと推測される。岩船閃緑岩の形成時のマントルかんらん岩のSr同位体比は,マントルかんらんの部分溶融に由来する筑波深成岩類の斑れい岩4のSrI(0.70875-0.70977)10と類似していたと考えられる。本研究により新たに報告された未分化な岩船閃緑岩マグマのSr同位体比(0.70925)は,マントルかんらん岩のSr同位体比の範囲内であることから,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが明らかになった。
引用文献
1. Ejima et al., 2018, Arc 27, e12222.
2. 江島ほか, 2019, 日本地球惑星科学連合大会要旨.
3. Koike & Tsutsumi, 2018, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci. Ser. C 44, 1–11.
4. Wang et al., 2021, Int. Geol. Rev. 64, 2339–2358.
5. 山崎ほか, 2021, 日本地球惑星科学連合大会要旨.
6. 柴田ほか, 1973, 地調月報. 24, 19-24.
7. Rapp & Watson, 1995, J. Petrol. 36, 891–931.
8. Rudnick & Fountain, 1995, Rev. Geophys. 33, 267–309.
9. Wolf & Wyllie, 1994, Contrib. Mineral. Petrol. 115, 369–383.
10. Petford & Gallagher, 2001, Earth Planet. Sci. Lett. 193, 483–499.
11. Arakawa & Takahashi, 1989, Contrib. Mineral. Petrol. 101, 46–56.
岩船閃緑岩の火成活動年代は,ジルコンU-Pb年代測定の結果から,筑波深成岩類と同時期の火成活動年代をもつことが明らかになった5。一方,岩船閃緑岩の起源物質については報告されていない。岩船閃緑岩は主に閃緑岩から構成されることが報告されているが6,本研究の地質調査では,閃緑岩と比較して苦鉄質鉱物を多く含む,斑れい岩質閃緑岩を確認した。斑れい岩質閃緑岩は,すでに報告されている閃緑岩と比較して,未分化な組成である可能性が高い。そこで,本研究では,岩船閃緑岩中の閃緑岩および斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSr同位体初生値(SrI)を用いて,岩船閃緑岩の起源物質を明らかにする。
今回新たに報告された斑れい岩質閃緑岩組成を含む岩船閃緑岩5試料と,基盤岩である八溝層群の堆積岩3試料について,全岩元素組成およびSr同位体分析を行った。その結果,斑れい岩質閃緑岩(SiO2:54.75–54.90 wt.%,SrI:0.70925-0.70938)は,主岩相である閃緑岩(SiO2:56.99–58.61 wt.%,SrI:0.70996-0.71023)と比較して未分化で枯渇した組成を示す。AFCモデルによるマスバランス計算により,斑れい岩質閃緑岩から岩船閃緑岩主岩相までの主成分・微量元素およびSr同位体組成変化を説明することができた。
そのため,斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSrIを未分化な岩船閃緑岩マグマの組成と仮定して,岩船閃緑岩の起源物質を議論する。 岩船閃緑岩マグマの起源物質の候補として,玄武岩質海洋地殻,下部地殻およびマントルかんらん岩が挙げられる。
岩船閃緑岩マグマと,玄武岩質海洋地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成7とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生成する温度圧力条件は高い地温勾配の条件(8-27kbar,1000-1150℃)であることが示された。同様に岩船閃緑岩マグマと玄武岩質下部地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成8とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生じる部分溶融度は47 %であり,数値計算により示唆される下部地殻の部分溶融度の最大値(38%)9よりも高い値を示す。このことから,玄武岩質海洋地殻および玄武岩質下部地殻の部分溶融では,岩船閃緑岩マグマの生成を説明できない。
従って,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが予想される。岩船閃緑岩と筑波深成岩類は同時期に形成し3–5,共に八溝層群の堆積岩に貫入しているため,両者の地下には類似したマントルかんらん岩が存在していたと推測される。岩船閃緑岩の形成時のマントルかんらん岩のSr同位体比は,マントルかんらんの部分溶融に由来する筑波深成岩類の斑れい岩4のSrI(0.70875-0.70977)10と類似していたと考えられる。本研究により新たに報告された未分化な岩船閃緑岩マグマのSr同位体比(0.70925)は,マントルかんらん岩のSr同位体比の範囲内であることから,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが明らかになった。
引用文献
1. Ejima et al., 2018, Arc 27, e12222.
2. 江島ほか, 2019, 日本地球惑星科学連合大会要旨.
3. Koike & Tsutsumi, 2018, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci. Ser. C 44, 1–11.
4. Wang et al., 2021, Int. Geol. Rev. 64, 2339–2358.
5. 山崎ほか, 2021, 日本地球惑星科学連合大会要旨.
6. 柴田ほか, 1973, 地調月報. 24, 19-24.
7. Rapp & Watson, 1995, J. Petrol. 36, 891–931.
8. Rudnick & Fountain, 1995, Rev. Geophys. 33, 267–309.
9. Wolf & Wyllie, 1994, Contrib. Mineral. Petrol. 115, 369–383.
10. Petford & Gallagher, 2001, Earth Planet. Sci. Lett. 193, 483–499.
11. Arakawa & Takahashi, 1989, Contrib. Mineral. Petrol. 101, 46–56.
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