講演情報

[T11-O-3]海洋-堆積物間のNd質量収支モデルに基づくレアアース泥生成の支配因子の検討:高品位レアアース泥の成因に対する示唆★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*松波 亮佑1、安川 和孝1、中村 謙太郎1,2、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学工学系研究科、2. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)
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キーワード:

レアアース泥、ネオジム、質量収支、ボックスモデル、海底堆積物

レアアースに富む深海堆積物である「レアアース泥」は,新規レアアース資源として開発が期待されている [1].これまでの研究において,レアアース泥の品位や分布にはバリエーションが認められており,こうしたバリエーションを生じさせている環境因子を理解することは,今後の開発に向けた有望海域を推定する上で重要な手掛かりとなると考えられる.現在の海底に分布するレアアース泥の組成バリエーションは,堆積速度や魚類の生産性といった海洋環境の長期変動とそれに伴う海洋-堆積物間の物質収支の変動により生じてきたことが示唆されている [2, 3].これらの知見はいずれも,様々な海域の堆積物試料に対する鉱物学的・地球化学的分析に基づいて得られてきた.その一方で,これらの因子がレアアース泥の生成にもたらす影響について広域的かつ定量的に議論を行うには,数理モデルを用いた理論的アプローチが有効であると期待される.
そこで発表者らは,太平洋全域を対象とする海洋-堆積物間のNd質量収支ボックスモデルを構築し,レアアース泥の生成に関連する環境因子について定量的検討を行なった [4].その結果,大陸縁辺域から海洋へのレアアースの流出および堆積速度がレアアース泥の品位に対して大きな影響を与えること,またダストフラックスの変動によって新生代を通じたレアアース泥の品位変動を概ね再現できることが明らかとなった.一方,バックグラウンドの環境因子に着目したこのモデルでは,海洋の生物生産性に起因すると考えられる実試料データの一時的なレアアース濃度ピークが再現されないという課題があった.
そこで本研究では,先述のモデルにアップデートを加え,堆積物中でレアアースを濃集する生物源リン酸カルシウム (Biogenic calcium phosphate, BCP) の影響を検討した.レアアースを取り込むBCPが海底面付近の堆積物中に多量に存在すれば,海水-堆積物境界から海洋へのレアアース流出フラックスを抑制する効果が生じると考えられる.これを考慮した数値実験の結果,堆積物の総レアアース濃度は上昇したものの,5000 ppmを超えるような超高濃度レアアース泥の生成には至らないことが分かった.このことから,非常に高品位なレアアース泥の生成には,堆積物から海洋へのレアアース流出フラックスの減少だけでなく,海洋から堆積物へのレアアースの流入を促進する要素が必要であることが示唆される.
[1] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.[2] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.[3] Mimura (2021) The University of Tokyo, Ph. D. thesis.[4] Matsunami et al. (submitted).

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