講演情報
[T11-O-4]画像解析技術を用いたレアアース泥の粒度組成定量分析法の開発
*伊地知 遼行1、安川 和孝1、中村 謙太郎1,2、見邨 和英3、大田 隼一郎1,2、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学大学院工学系研究科、2. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、3. 産業技術総合研究所)
キーワード:
レアアース泥、画像解析、粒度組成、SAM、Visual estimation法
海底堆積物の粒度組成と鉱物組成は,対象海域に供給される物質のフラックスや底層流の強度の変動などを反映しており,物理的な堆積環境を復元する上で重要な手がかりとなる [1,2].レアアース泥が堆積した当時の環境を復元することは,レアアース (REE) 濃集機構を解明するための鍵となると考えられており[1,2],その粒度組成及び鉱物組成の詳細なデータを蓄積することが求められている.これまで,海底堆積物の粒度の決定及び鉱物組成の決定は,観察者が鏡下観察で目視によって行うVisual Estimation法 [3] が世界的な標準手法として用いられてきた.しかしながら,この手法の精度や効率は観察者の熟練度に依存し,得られるデータの量や客観性に限界がある.
そこで本研究では,堆積物の顕微鏡観察に画像解析を応用することで,粒度組成や構成成分の量比を定量的かつ効率的に測定する手法を開発することを目的とする.本発表では,特にレアアース泥の粒度組成を画像解析によって決定する手法の検討結果について報告する.
本研究では,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域内で採取された,総REE濃度が5000 ppmを超える超高濃度レアアース泥を含む海底堆積物コア試料を対象とした.粒度組成の決定には,通常の手法で各層準のバルク堆積物試料を封入したスミアスライドを,偏光顕微鏡を使って撮影した顕微鏡画像を使用した.粒度組成は,堆積物中の粒子サイズ分類にもとづいて,sand(>63 µm),silt(4–63 µm),clay(<4 µm)サイズの各粒子群の相対量比で決められる.粒径が4 µm以上のsandおよびsilt粒子の構成割合については,2023年にMeta社が公開したSegment Anything Model(SAM)[4] というセグメンテーションモデルを使用し,個別粒子の検出と粒径の測定を行うことで算出した.SAMによる検出が困難である4 µm未満のclay粒子の構成割合については,顕微鏡画像から粒子が存在する部分と存在しない部分(背景部分)をピクセルのRGB値によって区別し,粒子の塊が作る輪郭の内外を識別することで算出した.そして,粒子と判断された色を持つピクセルが顕微鏡画像に占める割合を,その画像中で粒子が占める全体の割合とみなし,SAMで算出したsiltサイズ以上の粒子の割合を差し引くことで,clayの構成割合を算出した.RGB値による識別で粒子として識別されたピクセルの存在領域を可視化したところ,モヤのように見える微粒子を含めた粒子の存在範囲全体を概ね識別出来ていることを確認した.
本研究の結果と従来のVisual Estimation法による粒度組成推定結果 [5] との比較を行ったところ,45枚のスミアスライドのうち23枚で堆積物の岩相の主要名が一致した.主要名が異なっていたスミアスライドについて個別に確認を行ったところ,うち7枚は目視でも観察者によって意見が割れると考えられ,結果の正誤判断が困難なものであった.今後,Visual Estimation法以外の客観的な評価手法 (視野内に設定した各座標に存在する個々の粒子を数え上げるポイントカウンティング法など) も組み合わせることで、より正確な精度評価を行い、本提案手法の確立と適用可能性の検証を進める.
[1] Ohta, J. et al., Scientific Reports, 10, 9896 (2020). [2] Ohta, J. et al., Geochemical Journal, 50(6), 591-603 (2016). [3] Rothwell, R. G. Minerals and Mineraloids in Marine Sediments: An Optical Identification Guide. (1989). [4] Kirillov, A. et al. Segment anything. Proceedings of the IEEE/CVF International Conference on Computer Vision pp.3992-4003 (2023). [5] 小田裕太: 修士学位論文, 東京大学 (2023).
そこで本研究では,堆積物の顕微鏡観察に画像解析を応用することで,粒度組成や構成成分の量比を定量的かつ効率的に測定する手法を開発することを目的とする.本発表では,特にレアアース泥の粒度組成を画像解析によって決定する手法の検討結果について報告する.
本研究では,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域内で採取された,総REE濃度が5000 ppmを超える超高濃度レアアース泥を含む海底堆積物コア試料を対象とした.粒度組成の決定には,通常の手法で各層準のバルク堆積物試料を封入したスミアスライドを,偏光顕微鏡を使って撮影した顕微鏡画像を使用した.粒度組成は,堆積物中の粒子サイズ分類にもとづいて,sand(>63 µm),silt(4–63 µm),clay(<4 µm)サイズの各粒子群の相対量比で決められる.粒径が4 µm以上のsandおよびsilt粒子の構成割合については,2023年にMeta社が公開したSegment Anything Model(SAM)[4] というセグメンテーションモデルを使用し,個別粒子の検出と粒径の測定を行うことで算出した.SAMによる検出が困難である4 µm未満のclay粒子の構成割合については,顕微鏡画像から粒子が存在する部分と存在しない部分(背景部分)をピクセルのRGB値によって区別し,粒子の塊が作る輪郭の内外を識別することで算出した.そして,粒子と判断された色を持つピクセルが顕微鏡画像に占める割合を,その画像中で粒子が占める全体の割合とみなし,SAMで算出したsiltサイズ以上の粒子の割合を差し引くことで,clayの構成割合を算出した.RGB値による識別で粒子として識別されたピクセルの存在領域を可視化したところ,モヤのように見える微粒子を含めた粒子の存在範囲全体を概ね識別出来ていることを確認した.
本研究の結果と従来のVisual Estimation法による粒度組成推定結果 [5] との比較を行ったところ,45枚のスミアスライドのうち23枚で堆積物の岩相の主要名が一致した.主要名が異なっていたスミアスライドについて個別に確認を行ったところ,うち7枚は目視でも観察者によって意見が割れると考えられ,結果の正誤判断が困難なものであった.今後,Visual Estimation法以外の客観的な評価手法 (視野内に設定した各座標に存在する個々の粒子を数え上げるポイントカウンティング法など) も組み合わせることで、より正確な精度評価を行い、本提案手法の確立と適用可能性の検証を進める.
[1] Ohta, J. et al., Scientific Reports, 10, 9896 (2020). [2] Ohta, J. et al., Geochemical Journal, 50(6), 591-603 (2016). [3] Rothwell, R. G. Minerals and Mineraloids in Marine Sediments: An Optical Identification Guide. (1989). [4] Kirillov, A. et al. Segment anything. Proceedings of the IEEE/CVF International Conference on Computer Vision pp.3992-4003 (2023). [5] 小田裕太: 修士学位論文, 東京大学 (2023).
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