講演情報
[T11-O-6]化学浸出と酸化還元反応の効率化による海底堆積物中の海水由来Os同位体分析手法の改良★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*森 駿介1、大田 隼一郎1,2、安川 和孝1、中村 謙太郎1,2、藤永 公一郎2,1、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学大学院工学系研究科、2. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)
キーワード:
遠洋性粘土、深海堆積物、Os同位体、年代決定、化学浸出法
深海堆積物は,地球表層における環境変動や物質循環の記録媒体として重要である.深海堆積物中に含まれる情報を読み解くことによって,当時の古気候・古海洋学的な記録を復元することができる [1].また,深海堆積物の一部は産業上必要不可欠なレアアースを濃集していることが知られており,有望な新資源としても期待されている [2,3].
古気候・古海洋環境の復元や,効率的な資源探査に向けたレアアース濃集機構の解明に向けて重要な情報となるのが堆積年代である.しかしながら,石灰質・珪質微化石に乏しく,古地磁気記録も不明瞭な遠洋性粘土については,年代決定が困難であるという課題がある.この遠洋性粘土に対して有効な堆積年代の推定手法の1つが,オスミウム (Os) 同位体比層序に基づく年代決定法である.海水のOs同位体比は,大陸,マントル,宇宙からのOs流入量のバランスが変化することに伴って変動する.したがって,堆積物試料に記録された海水のOs同位体比を,様々な先行研究によって得られた海水Os同位体比をコンパイルした経年変動曲線と対応させることによって,堆積年代を制約することができる [1].堆積物中から海水由来Osを抽出する手法として,従来は逆王水を試料とともにガラス管に密封し,高温で加熱する方法が広く用いられてきた.これに対して近年,堆積物中で海水のOs同位体比を記録した鉄酸化水酸化物をより選択的に溶解する手法として,希塩酸を用いた化学浸出法が提案された [4].塩酸を用いた化学浸出法によって従来手法よりも砕屑性成分による影響を低減でき,海水のOs同位体比をさらに正確に読み取ることができると考えられる.しかし,両手法により浸出反応が起こる相の違いや,同位体比が実際の海水の値と一致するかについての検証は未だ十分でなかった.そこで本研究では,遠洋性粘土と生物源炭酸塩試料を用いて,塩酸による化学浸出法および逆王水分解法に基づくOs抽出実験を行った.同位体分析および化学組成分析の結果について,両手法を比較検討することにより,浸出反応の違いを考察した.
また,Os同位体測定のためには,Osを完全に酸化する必要があるが,分析効率の向上に向けて,Os酸化手法の改良も重要である.耐熱性・耐圧性に優れた特注のガラス容器であるカリアスチューブを用いた現行のOs抽出・酸化法は,高温・高圧で密閉された環境下でOsを十分に酸化させつつ,揮発性の高いOsO4のロスを防ぐことができる.しかしながら,その処理においてはカリアスチューブの先端開口部を溶融変形させて密閉する作業が必要となり,分析試料数が制限されることによる実験効率の低下や高圧になった容器を扱う作業中の安全性確保,処理中の容器破損によるデータ損失の可能性といった課題が存在する.そこで,一般的な市販品であるテフロンバイアルを用いたOsの完全酸化を目標とした実験も実施した.本発表では,一連の実験的検討の結果について報告する.
[1] Ohta et al. (2020) Scientific Reports 10, 9896. [2] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539. [3] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. [4] Dunlea et al. (2021) Chemical Geology 575, 120201.
古気候・古海洋環境の復元や,効率的な資源探査に向けたレアアース濃集機構の解明に向けて重要な情報となるのが堆積年代である.しかしながら,石灰質・珪質微化石に乏しく,古地磁気記録も不明瞭な遠洋性粘土については,年代決定が困難であるという課題がある.この遠洋性粘土に対して有効な堆積年代の推定手法の1つが,オスミウム (Os) 同位体比層序に基づく年代決定法である.海水のOs同位体比は,大陸,マントル,宇宙からのOs流入量のバランスが変化することに伴って変動する.したがって,堆積物試料に記録された海水のOs同位体比を,様々な先行研究によって得られた海水Os同位体比をコンパイルした経年変動曲線と対応させることによって,堆積年代を制約することができる [1].堆積物中から海水由来Osを抽出する手法として,従来は逆王水を試料とともにガラス管に密封し,高温で加熱する方法が広く用いられてきた.これに対して近年,堆積物中で海水のOs同位体比を記録した鉄酸化水酸化物をより選択的に溶解する手法として,希塩酸を用いた化学浸出法が提案された [4].塩酸を用いた化学浸出法によって従来手法よりも砕屑性成分による影響を低減でき,海水のOs同位体比をさらに正確に読み取ることができると考えられる.しかし,両手法により浸出反応が起こる相の違いや,同位体比が実際の海水の値と一致するかについての検証は未だ十分でなかった.そこで本研究では,遠洋性粘土と生物源炭酸塩試料を用いて,塩酸による化学浸出法および逆王水分解法に基づくOs抽出実験を行った.同位体分析および化学組成分析の結果について,両手法を比較検討することにより,浸出反応の違いを考察した.
また,Os同位体測定のためには,Osを完全に酸化する必要があるが,分析効率の向上に向けて,Os酸化手法の改良も重要である.耐熱性・耐圧性に優れた特注のガラス容器であるカリアスチューブを用いた現行のOs抽出・酸化法は,高温・高圧で密閉された環境下でOsを十分に酸化させつつ,揮発性の高いOsO4のロスを防ぐことができる.しかしながら,その処理においてはカリアスチューブの先端開口部を溶融変形させて密閉する作業が必要となり,分析試料数が制限されることによる実験効率の低下や高圧になった容器を扱う作業中の安全性確保,処理中の容器破損によるデータ損失の可能性といった課題が存在する.そこで,一般的な市販品であるテフロンバイアルを用いたOsの完全酸化を目標とした実験も実施した.本発表では,一連の実験的検討の結果について報告する.
[1] Ohta et al. (2020) Scientific Reports 10, 9896. [2] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539. [3] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. [4] Dunlea et al. (2021) Chemical Geology 575, 120201.
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