講演情報
[T11-O-7]深層学習を用いたAUV MBESデータからの海底熱水シグナルの高精度検出手法の開発★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*玄田 貴之1、見邨 和英2、中村 謙太郎1,3、中谷 武志4、北田 数也4、安川 和孝1、加藤 泰浩1,3 (1. 東京大学大学院工学系研究科、2. 産業技術総合研究所、3. 千葉工業大学、4. 海洋研究開発機構)
キーワード:
海底熱水鉱床、深層学習、AUV、マルチビーム音響測深機(MBES)、海底探査
中央海嶺や島弧-背弧系の海底には,海底下のマグマで熱せられた高温の熱水が噴出する熱水噴出孔が存在する.この熱水噴出孔の周辺には,ベースメタルや貴金属,レアメタルが熱水から析出・沈積して生じた海底熱水鉱床が分布し,新たな金属資源として注目されている [1-3].先行研究により,船上からマルチビーム音響測深機 (Multi-beam echo sounder, MBES) を用いて探査することで,海水中の音響異常として熱水噴出の兆候を捉えることができることが示されている [4-6].さらに,近年この探査が物体検出モデルを用いて自動化できる可能性が示され [7],注目が高まっている.こうしたMBESデータからの熱水噴出を示すシグナルの自動検出が実現すれば,より広域を効率よく探査することが可能となる.これにより,経済的価値の高い新しい熱水鉱床の発見や,さらにはまだ達成されていない海底熱水鉱床の商業的な開発の実現につながると期待される.
しかしながら,実際の熱水活動探査ではシグナルがデータにほとんど含まれていない.例えば,事前調査により熱水噴出孔の存在が有望なエリアを絞って探査を行った本研究の対象データにおいても,熱水シグナルを含むMBESデータは全体の約1.7%しか含まれない.そのため,シグナルを含む画像のみで評価された先行研究の物体検出モデルをそのまま適用すると,検出精度の十分に高いモデルであっても大量の偽陽性の発生を避けられず,実用的な検出手法となり得ないという致命的な問題が存在した.そこで本研究では,シグナルがほとんど含まれない不均衡データにおいて,偽陽性を減少させ,実際の探査に利用できる真に高精度な海底熱水シグナルの検出システムを開発することを目的とした.
誤検出パターンを分析した結果,時間的に不連続なノイズの誤検出が多く発生していることが分かった.そこで発表者らは,従来手法の物体検出モデルの出力に対してシンプルな時系列解析を加えることを試みた.物体検出モデルにはYOLOv8l [8] を利用し,AUV で得た時系列 MBES データから熱水シグナルの検出を行った.この際,出力結果である信頼度スコアに対して5項の移動平均を適用し,あるフレームにおいて熱水シグナルが含まれるかどうかの2値分類を実施した.13回の潜航データでクロスバリデーションを行った結果,従来手法に比べて,誤検出の少なさを示すprecisionが,画像1枚単位 (フレーム単位) による評価で0.425から0.582に,熱水シグナルを検出したフレームのうち,そのフレーム間隔が一定値以内のものを1つにまとめた熱水イベント単位による評価で0.142から0.541に向上した.本研究では,熱水イベント単位での評価方法を構築することによって,何回探査機を海底に降ろすか,そしてそのうち何回熱水鉱床を発見できるか,という実際の熱水探査の成否を決める重要な因子を考慮した評価を可能にし,より実際の探査での実用性を適切に評価できるようになった.以上の結果から,本研究で提案する,移動平均を基に観測データの時系列情報を利用したアルゴリズムは,実際の熱水探査にも有効である可能性が示された.
[1] Hannington et al. (2011) Geology, vol. 39, no. 12, pp. 1155–1158. [2] Hein et al. (2012) Ore Geol. Rev., 51, 1–14. [3] Nozaki et al. (2021) Sci. Rep., 11(1), 1–11. [4] 棚橋ほか. (2014) 物理探査. 67, 17-24. [5] Nakamura et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 579–596 (2015). [6] Kasaya et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 597–602. [7] Mimura et al. (2023) IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN APPLIED EARTH OBSERVATIONS AND REMOTE SENSING. VOL.16, 2703-2710. [8] Jocher. https :/ / github . com / ultralytics / ultralytics.
しかしながら,実際の熱水活動探査ではシグナルがデータにほとんど含まれていない.例えば,事前調査により熱水噴出孔の存在が有望なエリアを絞って探査を行った本研究の対象データにおいても,熱水シグナルを含むMBESデータは全体の約1.7%しか含まれない.そのため,シグナルを含む画像のみで評価された先行研究の物体検出モデルをそのまま適用すると,検出精度の十分に高いモデルであっても大量の偽陽性の発生を避けられず,実用的な検出手法となり得ないという致命的な問題が存在した.そこで本研究では,シグナルがほとんど含まれない不均衡データにおいて,偽陽性を減少させ,実際の探査に利用できる真に高精度な海底熱水シグナルの検出システムを開発することを目的とした.
誤検出パターンを分析した結果,時間的に不連続なノイズの誤検出が多く発生していることが分かった.そこで発表者らは,従来手法の物体検出モデルの出力に対してシンプルな時系列解析を加えることを試みた.物体検出モデルにはYOLOv8l [8] を利用し,AUV で得た時系列 MBES データから熱水シグナルの検出を行った.この際,出力結果である信頼度スコアに対して5項の移動平均を適用し,あるフレームにおいて熱水シグナルが含まれるかどうかの2値分類を実施した.13回の潜航データでクロスバリデーションを行った結果,従来手法に比べて,誤検出の少なさを示すprecisionが,画像1枚単位 (フレーム単位) による評価で0.425から0.582に,熱水シグナルを検出したフレームのうち,そのフレーム間隔が一定値以内のものを1つにまとめた熱水イベント単位による評価で0.142から0.541に向上した.本研究では,熱水イベント単位での評価方法を構築することによって,何回探査機を海底に降ろすか,そしてそのうち何回熱水鉱床を発見できるか,という実際の熱水探査の成否を決める重要な因子を考慮した評価を可能にし,より実際の探査での実用性を適切に評価できるようになった.以上の結果から,本研究で提案する,移動平均を基に観測データの時系列情報を利用したアルゴリズムは,実際の熱水探査にも有効である可能性が示された.
[1] Hannington et al. (2011) Geology, vol. 39, no. 12, pp. 1155–1158. [2] Hein et al. (2012) Ore Geol. Rev., 51, 1–14. [3] Nozaki et al. (2021) Sci. Rep., 11(1), 1–11. [4] 棚橋ほか. (2014) 物理探査. 67, 17-24. [5] Nakamura et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 579–596 (2015). [6] Kasaya et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 597–602. [7] Mimura et al. (2023) IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN APPLIED EARTH OBSERVATIONS AND REMOTE SENSING. VOL.16, 2703-2710. [8] Jocher. https :/ / github . com / ultralytics / ultralytics.
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