講演情報
[T11-O-8][招待講演]海洋Fe–Mn酸化物研究の最新トレンド:微小領域化学分析と統計解析の組み合わせによる情報抽出
*浅見 慶志朗1 (1. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)
地球表層では様々な環境でFe–Mn酸化物が形成している1.本発表では,その中でも特に,深海に分布するFe–Mnクラスト・ノジュールや熱水性のFe–Mn酸化物に関する研究の最新トレンドを紹介する.Fe–Mnクラスト・ノジュールは1970年代からCo等の資源として期待され始め,化学組成のバリエーションやそれを生む形成プロセスの違いに着目した研究がなされた.その結果,海洋Fe–Mn酸化物の起源が海水起源・続成起源・熱水起源の3種類に分かれる事が明らかになった2.2000年代以降は,古海洋環境記録媒体としての性質が着目され,Fe–Mnクラストに含まれる様々な元素の濃度や同位体組成から古海洋環境の復元を試みる研究がなされた.しかし,Fe–Mnクラスト・ノジュールの成長速度は百万年に数mm程度であることに加え,年代決定法に乏しい事から,時間分解能と年代軸の信頼性において海洋堆積物に劣るという課題があった.
近年は,分析技術・機器の発達により,Fe–Mnクラスト・ノジュールの微小領域化学分析が容易となり,化学組成の変動を高空間分解能で(すなわち高時間分解能で)明らかにできるようになった.さらに,微小領域化学分析で得られる膨大な地球化学データに統計解析を実施する事で,データが持つ情報を客観的に抽出する事ができる.また,複数の年代決定法に基づく形成年代と,不確実性をもつデータ群から統計的により尤もらしい結果を推定するMCM(マルコフ連鎖モンテカルロ)ベイズ推定を組み合わせる事で,年代軸の信頼性を高める試みがなされている3.本発表では,発表者がこれまで行ってきた研究を例に,微小領域化学分析と統計解析の組み合わせによる情報抽出や,MCMCベイズ推定を適用した形成年代について紹介する.
今や大規模データに対する統計解析や深層学習はありとあらゆる分野で実施されているが,解析によって得られる結果は数値データのみであり,その数値データを現実にあわせて解釈する事で初めて大規模データから正しい情報を引き出すことができる.発表者が実施している元素マッピングデータに対する独立成分分析は,解析結果を試料の分析面と空間的に対応させることができるため,解析結果の解釈が容易であるだけでなく,試料の形成プロセスなどを視覚的にとらえる事ができる4,5.
地球科学分野において,MCMCベイズ推定は年代が一意に決まらない場合がある14C年代に基づく泥炭堆積物の年代軸構築に用いられていたが6,その汎用性の高さから,近年は海洋堆積物や洪水玄武岩にまで適用されている.Fe–Mnクラスト・ノジュールの年代決定に用いられる海洋Os同位体層序年代も年代が一意に決まらない場合があり,対応する年代を恣意的に決める他なかった.しかし,MCMCベイズ推定を適用する事で,統計的に尤もらしい年代軸を構築する事が可能となった.
海洋Fe–Mn酸化物の研究で近年用いられるこれらの手法は,様々な地質試料にも適用可能であり,その形成プロセス解明に有用である可能性がある.
引用文献
1. Azami et al., J. Asian Earth Sci.: X 8, 100127 (2022).
2. Hein et al., Handbook of marine mineral deposits 239–281 (1999).
3. Josso et al., Chem. Geol. 513, 108–119 (2019).
4. Azami et al., Comm. Earth & Envi. 4, 191 (2023).
5. Azami et al., Mar. Geol. 463, 107117 (2023).
6. Blaauw & Christen, Bayesian Anal. 6, 457–474 (2011).
近年は,分析技術・機器の発達により,Fe–Mnクラスト・ノジュールの微小領域化学分析が容易となり,化学組成の変動を高空間分解能で(すなわち高時間分解能で)明らかにできるようになった.さらに,微小領域化学分析で得られる膨大な地球化学データに統計解析を実施する事で,データが持つ情報を客観的に抽出する事ができる.また,複数の年代決定法に基づく形成年代と,不確実性をもつデータ群から統計的により尤もらしい結果を推定するMCM(マルコフ連鎖モンテカルロ)ベイズ推定を組み合わせる事で,年代軸の信頼性を高める試みがなされている3.本発表では,発表者がこれまで行ってきた研究を例に,微小領域化学分析と統計解析の組み合わせによる情報抽出や,MCMCベイズ推定を適用した形成年代について紹介する.
今や大規模データに対する統計解析や深層学習はありとあらゆる分野で実施されているが,解析によって得られる結果は数値データのみであり,その数値データを現実にあわせて解釈する事で初めて大規模データから正しい情報を引き出すことができる.発表者が実施している元素マッピングデータに対する独立成分分析は,解析結果を試料の分析面と空間的に対応させることができるため,解析結果の解釈が容易であるだけでなく,試料の形成プロセスなどを視覚的にとらえる事ができる4,5.
地球科学分野において,MCMCベイズ推定は年代が一意に決まらない場合がある14C年代に基づく泥炭堆積物の年代軸構築に用いられていたが6,その汎用性の高さから,近年は海洋堆積物や洪水玄武岩にまで適用されている.Fe–Mnクラスト・ノジュールの年代決定に用いられる海洋Os同位体層序年代も年代が一意に決まらない場合があり,対応する年代を恣意的に決める他なかった.しかし,MCMCベイズ推定を適用する事で,統計的に尤もらしい年代軸を構築する事が可能となった.
海洋Fe–Mn酸化物の研究で近年用いられるこれらの手法は,様々な地質試料にも適用可能であり,その形成プロセス解明に有用である可能性がある.
引用文献
1. Azami et al., J. Asian Earth Sci.: X 8, 100127 (2022).
2. Hein et al., Handbook of marine mineral deposits 239–281 (1999).
3. Josso et al., Chem. Geol. 513, 108–119 (2019).
4. Azami et al., Comm. Earth & Envi. 4, 191 (2023).
5. Azami et al., Mar. Geol. 463, 107117 (2023).
6. Blaauw & Christen, Bayesian Anal. 6, 457–474 (2011).
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