講演情報
[T11-O-9]南部フォッサマグナの斑岩銅鉱床型変質帯再訪
*宮下 敦1、村上 浩康2、矢野 萌生3、林 歳彦4 (1. 成蹊大学理工学部、2. 早稲田大学教育学部、3. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、4. 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)
キーワード:
斑岩銅鉱床、変質帯、南部フォッサマグナ、磁鉄鉱系花こう岩類、鮮新世
これまで,鉱床学では日本列島には斑岩銅鉱床は胚胎されないという意見が強く,その原因となるテクトニクスの特徴なども提案されていた(例えば,Sillitoe, 2018). しかし.共著者のうち林は,高岡秀俊氏から山梨県甲府市西沢渓谷上流の変質帯調査結果(高岡, 1971MS)が斑岩銅鉱床型の特徴を持つことを聞き,2015年に同地域の予備調査を行った.これを受けて,今回,この地域の資源地質学的な再訪調査を行ったので,その結果を報告する.
調査地域は,秩父多摩甲斐国立公園内に位置する西沢渓谷上流で北からアザミ沢,京の沢,本谷沢,大南窪沢の4本の沢を含む地域である.この地域では,中新世(SHRIMPジルコンU-Pb年代: 14.0Ma, Saito et al., 2007)の甲府花崗岩類が広く分布し,これに中新世末から鮮新世の小楢山安山岩類(全岩K-Ar年代6.1-4.5Ma; 柴田ほか,1984)と小烏花崗閃緑岩類(黒雲母K-Ar年代4.4-4.3Ma; 柴田ほか,1984)が貫入している.小烏花崗閃緑岩帯の帯磁率は,最大で50×10^-3 SIに達する極めて高い値を示し,磁鉄鉱系花崗岩類(Ishihara, 1977)に分類される(佐藤・石原,1983).
変質帯は,これらの3つの岩体中に,北西-南東方向もしくは東西性の裂罅に沿って発達している.京の沢下流部と本谷沢中流部にみられるデュモルチエライトや苦土フォイト電気石などの希産鉱物(Hawthorne et al., 1999)を伴う珪化帯の部分が変質が最も強く,珪化帯から離れた調査地域周縁部分では緑泥石変質帯に移化する.珪化帯と緑泥石変質帯の間には,珪化帯に近い4本の沢の合流部附近に,前述の裂罅系に伴ってカリ長石を指標鉱物とするカリ長石変質帯が,それから離れた部分には,セリサイト,カオリナイト,ミョウバン石,パイロフィラライト,ダイアスポアなどで特徴づけられるセリサイト変質帯が分布する.高岡 (1971MS)はセリサイト変質帯でズニ石や自然硫黄も報告している.今回,セリサイト帯のセリサイト2試料から5.4-4.3 MaのK-Ar年代を得ており,変質作用は小烏花崗閃緑岩類によるものであることは明らかである.珪化帯 - カリ長石帯 - セリサイト帯 - 緑泥石帯という変質帯の配列は,典型的な斑岩銅鉱床にみられるものに一致する.
また,カリ長石帯では,脈幅最大1~1.5cm程度のカリ長石-黒雲母脈が観察される.この脈と花崗閃緑岩との境界は不規則・不明瞭で,マグマが未固結時の可能性が考えられ,Gustafson and Hunt (1975)による細脈ステージ区分では,A脈に相当すると考えられる.また,地域全体で,様々な方向の直線状の裂罅に沿って左右対称のハロを持つD脈と考えられる粘土化脈も発達する.
この地域について数値標高モデル(DEM)地形解析では,調査地域内では標高の低い珪化帯部分から酸性変質帯にかけて緩傾斜の領域が抽出される.これは潜在的な花崗閃緑岩類の分布と,それに伴う変質帯の輪郭を示すものと考えられる.
調査地域全体を通じて,変質帯中に見られる硫化物の量は少ないが,カリ長石帯の一部では花崗閃緑岩中に緑青の風化帯を伴って鉱染状の黄鉄鉱が認められる.高岡 (1971MS)は,前述のカリ長石脈に伴う黄銅鉱を報告している.また,大南窪沢では,戦前に硫砒銅鉱を鉱種とする黒金鉱山が稼行していた実績があり,銅鉱化作用の兆候がある.
このような特徴は,調査地域の変質帯が,斑岩銅鉱床に関連している可能性を強く示唆するものである.
・引用文献
Gustafson and Hunt,(1975), Econ. Geol., 70, 857-912.
Hawthorne et al., (1999), Canad. Mineral., 37. 1439-1443.
Ishihara, (1977), Mining Geol., 27, 293-305.
Saito et al., (2007), J. Petrol., 48, 1761-1791.
佐藤・石原, (1983), 地調月報, 34, 413-427.
柴田ほか,(1984),地調月報, 35,19-24.
Sillitoe,(2018), Resouce Geol., 68, 1-19.
高岡秀俊, (1971), 秋田大鉱山学部卒論MS, 54頁.
調査地域は,秩父多摩甲斐国立公園内に位置する西沢渓谷上流で北からアザミ沢,京の沢,本谷沢,大南窪沢の4本の沢を含む地域である.この地域では,中新世(SHRIMPジルコンU-Pb年代: 14.0Ma, Saito et al., 2007)の甲府花崗岩類が広く分布し,これに中新世末から鮮新世の小楢山安山岩類(全岩K-Ar年代6.1-4.5Ma; 柴田ほか,1984)と小烏花崗閃緑岩類(黒雲母K-Ar年代4.4-4.3Ma; 柴田ほか,1984)が貫入している.小烏花崗閃緑岩帯の帯磁率は,最大で50×10^-3 SIに達する極めて高い値を示し,磁鉄鉱系花崗岩類(Ishihara, 1977)に分類される(佐藤・石原,1983).
変質帯は,これらの3つの岩体中に,北西-南東方向もしくは東西性の裂罅に沿って発達している.京の沢下流部と本谷沢中流部にみられるデュモルチエライトや苦土フォイト電気石などの希産鉱物(Hawthorne et al., 1999)を伴う珪化帯の部分が変質が最も強く,珪化帯から離れた調査地域周縁部分では緑泥石変質帯に移化する.珪化帯と緑泥石変質帯の間には,珪化帯に近い4本の沢の合流部附近に,前述の裂罅系に伴ってカリ長石を指標鉱物とするカリ長石変質帯が,それから離れた部分には,セリサイト,カオリナイト,ミョウバン石,パイロフィラライト,ダイアスポアなどで特徴づけられるセリサイト変質帯が分布する.高岡 (1971MS)はセリサイト変質帯でズニ石や自然硫黄も報告している.今回,セリサイト帯のセリサイト2試料から5.4-4.3 MaのK-Ar年代を得ており,変質作用は小烏花崗閃緑岩類によるものであることは明らかである.珪化帯 - カリ長石帯 - セリサイト帯 - 緑泥石帯という変質帯の配列は,典型的な斑岩銅鉱床にみられるものに一致する.
また,カリ長石帯では,脈幅最大1~1.5cm程度のカリ長石-黒雲母脈が観察される.この脈と花崗閃緑岩との境界は不規則・不明瞭で,マグマが未固結時の可能性が考えられ,Gustafson and Hunt (1975)による細脈ステージ区分では,A脈に相当すると考えられる.また,地域全体で,様々な方向の直線状の裂罅に沿って左右対称のハロを持つD脈と考えられる粘土化脈も発達する.
この地域について数値標高モデル(DEM)地形解析では,調査地域内では標高の低い珪化帯部分から酸性変質帯にかけて緩傾斜の領域が抽出される.これは潜在的な花崗閃緑岩類の分布と,それに伴う変質帯の輪郭を示すものと考えられる.
調査地域全体を通じて,変質帯中に見られる硫化物の量は少ないが,カリ長石帯の一部では花崗閃緑岩中に緑青の風化帯を伴って鉱染状の黄鉄鉱が認められる.高岡 (1971MS)は,前述のカリ長石脈に伴う黄銅鉱を報告している.また,大南窪沢では,戦前に硫砒銅鉱を鉱種とする黒金鉱山が稼行していた実績があり,銅鉱化作用の兆候がある.
このような特徴は,調査地域の変質帯が,斑岩銅鉱床に関連している可能性を強く示唆するものである.
・引用文献
Gustafson and Hunt,(1975), Econ. Geol., 70, 857-912.
Hawthorne et al., (1999), Canad. Mineral., 37. 1439-1443.
Ishihara, (1977), Mining Geol., 27, 293-305.
Saito et al., (2007), J. Petrol., 48, 1761-1791.
佐藤・石原, (1983), 地調月報, 34, 413-427.
柴田ほか,(1984),地調月報, 35,19-24.
Sillitoe,(2018), Resouce Geol., 68, 1-19.
高岡秀俊, (1971), 秋田大鉱山学部卒論MS, 54頁.
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