講演情報

[T11-O-10]新潟県佐渡島鶴子銀山鉱石の鉱物学的・地球化学的特徴

*村上 慶介1、小笠原 瑞姫1、大田 隼一郎1,2、安川 和孝1、中村 謙太郎1,2、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学、2. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)
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キーワード:

鶴子銀山、佐渡金銀鉱床、銀鉱物、SEM-EDS、ICP-MS

佐渡金銀山は江戸時代から1989年までの約400年間にわたり操業し,日本の金山で第2位の産出量を誇る.しかしながら,その成因は未だ十分に明らかとなっていない.佐渡島にはおよそ30の鉱山が分布しているが,鉱床成因に関する地球化学的な検討の対象は,島内最大の金山である相川金銀山に限定されてきた [1].そこで本研究では,新たな観点から佐渡島の金銀鉱床の成因を検討するため,相川金銀山に近接する鶴子銀山の鉱物学的・地球化学的特徴に着目した.鶴子鉱床は相川鉱床から約3㎞の距離に位置し,脈のつながりや鉱化作用域の重複は見られないとされている[2].
 本研究では,佐渡市から提供を受けた鶴子鉱床の鉱石試料を分析に用いた.9つの鉱石試料から11枚の研磨片を作成し,反射顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて鉱物同定,産状の把握と元素マッピングを行った.その中から7枚の研磨片を選定し,産状ごとに計28のセクションに分割した.各セクションと対面する部分を鉱石試料から切り出して粉末化と酸分解 [3] を行い,誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で全岩化学組成分析を行った.
 偏光顕微鏡観察では,濃紅銀鉱,黄銅鉱,黄鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,銅藍,石英が確認された.SEM-EDS観察では,これらに加えて輝安銀鉱,輝銀鉱と氷長石が確認された.ICP-MSによる全岩化学組成分析では,Agの濃度の最大値と中央値はそれぞれ389 ppmと21.9 ppmであり,Auの濃度の最大値と中央値はそれぞれ28.7 ppmと0.203 ppmであった.親石元素にNiとAsを加えた計10種類の元素濃度は,Agの濃度と相関がみられなかったため,脈石鉱物を特徴づけている元素群であると考えられる.一方,親鉄・親銅元素からNiとAsを除いた計11種類の元素濃度は,Agの濃度と相関がみられ,Agを含む硫化鉱物の存在を示す元素群であると考えられる.これら11種類の元素の濃度とAgの濃度の散布図では,11種類すべての元素において,2つのトレンドが見られた.1つは銀の濃度が増加するとともに各元素の濃度も増加するトレンドで,本研究において「相関トレンド」と称する.もう1つは銀の濃度と無関係に各元素の濃度が増加するというトレンドで,本研究において「独立トレンド」と称する.同一の研磨片において両方のトレンドに属するセクションを有する研磨片では,明確な白色石英部分と黒色硫化鉱物部分に分かれているという産状が見られ,かつ白色石英部分は相関トレンドの低濃度部分,黒色硫化鉱物部分は独立トレンドにそれぞれ対応することが観察された.加えて相関トレンドの高濃度部分は黒色硫化鉱物部分が対応し,低濃度部分とは明確に構成鉱物が異なることから,以下のように考察できる.(i) 相関トレンドの低濃度部分は石英による希釈を示す.(ii) 相関トレンドの高濃度部分は,銀の濃集を伴う硫化鉱物を沈殿させた鉱化作用を示す.(iii) 独立トレンドは,銀の濃集を伴わない硫化鉱物を沈殿させた鉱化作用を示す.したがって、鶴子銀山を形成した鉱化作用には、銀の濃集を伴う(ii)と銀の濃集を伴わない(iii)が存在していると考えられる。

[1] 鹿園・綱川秀夫. 鉱山地質 32, 479–482, 1982.
[2] MITI (1987) Report of regional geological survey, Sado Region.
[3] Kato et al. (2005) Geochem. Geophys. Geosyst. 6, Q07004.

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