講演情報
[T1-O-13]日高変成帯の熱履歴とテクトニクス
*志村 俊昭1、KEMP Anthony2、槇納 吏袈1,3、長久保 恵美 (1. 山口大学、2. 西オーストラリア大学、3. (株)建設技術研究所)
キーワード:
日高変成帯、グラニュライト相、ジルコンU-Pb年代、デラミネーション、胆振東部地震、TTG
日高変成帯は東上位の島弧地殻の衝上断片とされ,東側から西側へI帯(弱変成岩~緑色片岩相低温部)・II帯(緑色片岩相~角閃岩相漸移部)からなる上部層と,III帯(角閃岩相)・IV帯(グラニュライト相)からなる下部層に変成分帯されている(Osanai et al., 1991など).そしてその地殻変成岩層に多様な深成岩類が貫入している.ジルコンU-Pb年代により,その変成・火成イベントには37 Ma頃と19 Ma頃の,2回の熱パルスの存在が初めて示された(Kemp et al., 2007).その後,この2回の熱パルスの存在はさらに明瞭になってきている(Takahashi et al., 2021; Zhang et al., 2022及びそれらの中の文献を参照).
上部層と下部層とは,日高変成帯に広域的に連続するデコルマ面を境に重なっており,下部層では19 Maの変成岩層に19 Maの深成岩が貫入している.上部層では,37 Maの変成岩層に37 Maの深成岩が貫入し,さらに19 Maの深成岩が貫入している.前述のデコルマ面は,19 Maの深成岩によって切られている.したがって,
① 37 Ma頃の熱イベントで上部層の変成地温勾配が形成された.
② 大規模なデコルマ面を境に,下部層の源岩の上に上部層が乗り上げた.
③ 19Ma頃の熱イベントで下部層の変成地温勾配が形成された.上部層の一部は19 Ma頃に2度目の変成作用を被った.
という時系列が考えられる.
①の37 Ma当時の下部地殻は地表に露出していない.一方,変成帯南部の37 Maの閃緑岩体中から,37 MaのジルコンU-Pb年代を示すグラニュライトゼノリスが発見された(槇納ほか, 2018).そしてその中のザクロ石斑状変晶中から,ナノ花崗岩が発見された(槇納ほか, 2019).そのナノ花崗岩の化学組成は,37 MaのSタイプ花崗岩の化学組成と一致する.Shimura et al. (2023)のGASP地質圧力計・GASpP地質圧力計の適用結果もふまえると,このゼノリスは地表に露出しなかった37 Ma当時の下部地殻岩石と考えられる.また,多量の19 MaのSタイプ花崗岩の存在などから,19 Maの下部層よりもさらに深部の最下部地殻の存在も予想されるが,それも地表には露出していない.
志村ほか(2006)は,日高変成帯の19 Ma以後の冷却史とテクトニクスを検討した.日高地殻はデュープレックスを形成しながら右横ずれ衝上運動を伴って日高変成帯として地表に露出した.一方,最下部地殻はデラミネーションにより地表に露出しなかったと考えた.
2018年9月6日に,北海道胆振東部地震が発生した.Iwasaki et al. (2019)は,マントルトモグラフィーの検討と胆振東部地震の震源域の検討から,北海道中央部の上部マントルに,西傾斜の庇状の低速度域がある事を示した.この部分は,志村ほか(2006)が予測した,デラミネーションを起こした日高地殻の再下部層に対応すると考えられる.
日高変成帯よりも西側の神居古潭帯内に,小規模なトロニエム岩体が点々とみられる.この岩石のK-Ar年代は約15 Maで,神居古潭帯の変成作用とは無関係である(中川, 1992).長久保・志村(2006)によると,この岩石の全岩化学組成は高いSr/Y比と著しく低いY量を示し,太古代TTGによく似た組成を示す.また,高いMg#からマントルとの反応が示唆される.Sr-Nd同位体比は日高変成帯の岩石によく似ている.このことから,前述の①~③のイベントに続き,
④ デラミネーションを起こしマントルに落下し始めた日高変成帯の最下部地殻が再融解し,15 Maのトロニエム岩体を形成した.
というイベントが考えられる.
日高変成帯の熱履歴とテクトニクスは,(1)北米プレートとユーラシアプレートの衝突,(2)背弧海盆の拡大とアセノスフェアの上昇,(3)変成帯の右横ずれ衝上運動と同時に,最下部地殻のデラミネーションと再融解がおきた,という時系列によって説明することができる.
文献
Iwasaki et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71, 103.
Kemp et al. (2007) Geology, 35, 807–810.
槇納ほか (2018) 地質学会演旨, R4-P17.
槇納ほか (2019) 地質学会演旨, R4-P2.
長久保・志村 (2006) 地団研第60回総会資料集, 144–145.
中川 (1992) 地調月報, 43, 467.
Osanai et al. (1991) JMG, 9, 111–124.
志村ほか (2006) 地雑, 112, 654–665.
Shimura et al. (2023) JMPS, 118, S008.
Takahashi et al. (2021) Island Arc, 30, e12393.
Zhang et al. (2022) JMG, 41, 425-448.
上部層と下部層とは,日高変成帯に広域的に連続するデコルマ面を境に重なっており,下部層では19 Maの変成岩層に19 Maの深成岩が貫入している.上部層では,37 Maの変成岩層に37 Maの深成岩が貫入し,さらに19 Maの深成岩が貫入している.前述のデコルマ面は,19 Maの深成岩によって切られている.したがって,
① 37 Ma頃の熱イベントで上部層の変成地温勾配が形成された.
② 大規模なデコルマ面を境に,下部層の源岩の上に上部層が乗り上げた.
③ 19Ma頃の熱イベントで下部層の変成地温勾配が形成された.上部層の一部は19 Ma頃に2度目の変成作用を被った.
という時系列が考えられる.
①の37 Ma当時の下部地殻は地表に露出していない.一方,変成帯南部の37 Maの閃緑岩体中から,37 MaのジルコンU-Pb年代を示すグラニュライトゼノリスが発見された(槇納ほか, 2018).そしてその中のザクロ石斑状変晶中から,ナノ花崗岩が発見された(槇納ほか, 2019).そのナノ花崗岩の化学組成は,37 MaのSタイプ花崗岩の化学組成と一致する.Shimura et al. (2023)のGASP地質圧力計・GASpP地質圧力計の適用結果もふまえると,このゼノリスは地表に露出しなかった37 Ma当時の下部地殻岩石と考えられる.また,多量の19 MaのSタイプ花崗岩の存在などから,19 Maの下部層よりもさらに深部の最下部地殻の存在も予想されるが,それも地表には露出していない.
志村ほか(2006)は,日高変成帯の19 Ma以後の冷却史とテクトニクスを検討した.日高地殻はデュープレックスを形成しながら右横ずれ衝上運動を伴って日高変成帯として地表に露出した.一方,最下部地殻はデラミネーションにより地表に露出しなかったと考えた.
2018年9月6日に,北海道胆振東部地震が発生した.Iwasaki et al. (2019)は,マントルトモグラフィーの検討と胆振東部地震の震源域の検討から,北海道中央部の上部マントルに,西傾斜の庇状の低速度域がある事を示した.この部分は,志村ほか(2006)が予測した,デラミネーションを起こした日高地殻の再下部層に対応すると考えられる.
日高変成帯よりも西側の神居古潭帯内に,小規模なトロニエム岩体が点々とみられる.この岩石のK-Ar年代は約15 Maで,神居古潭帯の変成作用とは無関係である(中川, 1992).長久保・志村(2006)によると,この岩石の全岩化学組成は高いSr/Y比と著しく低いY量を示し,太古代TTGによく似た組成を示す.また,高いMg#からマントルとの反応が示唆される.Sr-Nd同位体比は日高変成帯の岩石によく似ている.このことから,前述の①~③のイベントに続き,
④ デラミネーションを起こしマントルに落下し始めた日高変成帯の最下部地殻が再融解し,15 Maのトロニエム岩体を形成した.
というイベントが考えられる.
日高変成帯の熱履歴とテクトニクスは,(1)北米プレートとユーラシアプレートの衝突,(2)背弧海盆の拡大とアセノスフェアの上昇,(3)変成帯の右横ずれ衝上運動と同時に,最下部地殻のデラミネーションと再融解がおきた,という時系列によって説明することができる.
文献
Iwasaki et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71, 103.
Kemp et al. (2007) Geology, 35, 807–810.
槇納ほか (2018) 地質学会演旨, R4-P17.
槇納ほか (2019) 地質学会演旨, R4-P2.
長久保・志村 (2006) 地団研第60回総会資料集, 144–145.
中川 (1992) 地調月報, 43, 467.
Osanai et al. (1991) JMG, 9, 111–124.
志村ほか (2006) 地雑, 112, 654–665.
Shimura et al. (2023) JMPS, 118, S008.
Takahashi et al. (2021) Island Arc, 30, e12393.
Zhang et al. (2022) JMG, 41, 425-448.
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