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[T1-O-17]非平衡熱力学的フォワードモデリングと逆解析:離溶組織を例に

*古川 旦1、辻森 樹1,2 (1. 東北大学理学研究科地学専攻、2. 東北大学東北アジア研究センター)
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キーワード:

離溶組織、フェーズフィールド法、カーン=ヒリアード方程式

岩石の被った地球化学的・地球物理的プロセスは岩石の化学組成/組織として記録される。多くの場合、このプロセスは実験室で再現可能なタイムスケールより遥かに長く、数値解析や物理モデルによって岩石の形成環境の再現する手法が有効である。特に、岩石組成/組織の「予測・再現」を目的としたフォワードモデリングと、組成や組織形成の「支配方程式のパラメータ(特に温度・圧力条件)の推定」を目的とした逆解析は互いに相補的な関係にあり、両者一体となった岩石組織の解析によって、岩石組成/組織の成因論に説明を加えると同時に、岩石からの情報抽出が達成される。これまでの研究では、熱平衡状態と仮定できる岩石については、シュードセクション法(Powell et al., 1998)等のフォワードモデリングやGibbs法などの逆解析(例: Okamoto and Toriumi, 2001; Inui and Toriumi, 2004)が十分に検討されている一方で、岩石の界面・組成不均一性に注目した非平衡組織については十分な解析が行われている研究は限定的である。そこで、本講演ではもっとも単純な非平衡組織の例として、2相系からなる離溶組織の再現と情報抽出を題材に扱う。離溶組織は高温環境下で形成した火成岩や変成岩における多様な鉱物種において観察され、共存する2種の固溶体組成の違いから注目系の置かれた環境の温度や酸素フガシティー、さらに岩石の冷却スケールを測る地質速度計として使用される。この組織の形成メカニズムは、もともと単一相であった固溶体が冷却に伴って不安定化し複数相に分離する、所謂スピノーダル分解/核形成−成長として記述可能である。具体的には、次のカーン=ヒリアード方程式:

∂c/∂t = M ∇・[∇[δ/δc{RT(clog(c)+(1-c)log(1-c)) + Wc(1-c) - (K∇)^T(K∇)c}]]

ただし、c: 濃度分布, t: 時刻, M: モビリティ, R: 気体定数, T: 温度, W: 混合エンタルピー, K:界面異方性定数を基礎方程式において、特定のT,W,Kにおける微分方程式の解を求めるフォワードモデリングと、逆に微分方程式の解や実際の鉱物・岩石組織からT,W,Kのパラメータを推定する逆問題について言及する。前者の問題と岩石学への応用は、たとえばPetrishcheva and Abart (2012)、Furukawa and Tsujimori (in revision)等で議論されているが、後者の逆問題は岩石学において新しい取り組みである。しかし、材料科学や医学においては、たとえば合金の時効析出の研究や病巣成長の時間発展を調査する際にカーン=ヒリアード方程式の逆問題が考察されてきた(例: Kahle et al., 2019; Zhao et al., 2020)。本研究ではこれらの先行研究を紹介するとともに、岩石学においての応用可能性を議論する。

参考文献
[1] Okamoto, A., & Toriumi, M., 2001. Contrib. Mineral. Petrol. 141, 268–286.
[2] Furukawa, T., & Tsujimori, T., in revision. Contrib. Mineral. Petrol.
[3] Inui, M., & Toriumi, M., 2004. J. Petrol. 45(7), 1369–1392.
[4] Kahle, C., Lam, K. F., Latz, J., & Ullmann, E., 2019. SIAM/ASA J. Uncertain. Quantif. 7(2), 526–552.
[5] Petrishcheva, E., & Abart, R., 2012. Acta materialia, 60(15), 5481–5493.
[6] Powell, R., Holland, T. J. B. H., & Worley, B., 1998. J. metamorph. Geol. 16(4), 577–588.
[7] Zhao, H., Storey, B. D., Braatz, R. D., & Bazant, M. Z., 2020. Phys. Rev. Lett., 124(6), 060201.

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