講演情報
[T1-O-18]放射光粉末X線回折測定の岩石学的研究への導入:四国中央部三波川帯での検証★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*原田 浩伸1、松野 哲士1、宇野 正起1、岡本 敦1、大坂 恵一2、辻森 樹1、板谷 徹丸3 (1. 東北大学、2. 高輝度光科学研究センター、3. 地球年代学ネットワーク)
キーワード:
三波川帯、アイソグラッド、放射光、粉末X線回折
変成帯を指標鉱物の出現・消滅や化学組成の変化に基づいて鉱物帯に分ける変成分帯は、変成作用の空間的な広がりや変化を記載する手法としてBarrow (1893)以降、様々な広域・接触変成地域で行われてきた(例、Arai, 1975; Banno, 1958; Ernst, 1965; Moore & Kerrick, 1976)。鉱物帯の境界であるアイソグラッドが認定され、それに対応する変成反応が定義されることで温度・圧力情報が地理空間情報に追加される。アイソグラッド認定に必要とされる鉱物の同定には光学・電子顕微鏡での観察が広く用いられてきたが、粉末X線回折(XRD)測定とリートベルト解析からも鉱物相の同定及び鉱物量比の取得が可能である。1990年代には火成岩・変成岩についてXRD測定とリートベルト解析による鉱物量比決定の妥当性が示され、岩石学的研究への応用が提案された(Hill et al., 1993)。しかし通常の実験室のXRDを用いる場合、鉱物量比を求めるのに十分なデータを得るためには長時間の測定が必要であり、精密な解析の困難さも相まって岩石学的研究における応用はほとんどなされてこなかった。そこで我々はXRD測定とリートベルト解析による鉱物相同定の岩石学的研究への応用を目指して、短時間での測定が可能な高輝度、高分解能、高エネルギーの放射光X線を用いた粉末XRD測定を計186個の火成岩・変成岩試料について行った。本講演では、四国中央部三波川帯汗見川地域に産する結晶片岩類に対する放射光XRD測定による鉱物相同定の結果を紹介し、その有用性について展望を論じたい。
四国中央部三波川帯の汗見川ルートは変成温度幅が大きく、低変成度から高変成度までの岩石が連続的に露出することから模式的ルートとして数多くの研究が行われてきており、既存の鉱物組成共生関係や温度構造の議論との対比が可能なテストフィールドとして最適である。本研究では汗見川地域で採取された泥質片岩78試料、苦鉄質片岩108試料について粉末XRD測定を大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2で行った。泥質片岩、苦鉄質片岩共に大半の主要構成鉱物についてピークの存在を確認することができた。四国中央部三波川帯は泥質片岩の鉱物組み合わせに基づき、緑泥石帯、ざくろ石帯、曹長石-黒雲母帯、灰曹長石-黒雲母帯に変成分帯される(榎並, 1982; 東野, 1975; Higashino, 1990)。ざくろ石はその化学組成によりピーク位置が大きく変化するため詳細なリートベルト解析を行わない限りその出現を評価するとことはできないが、黒雲母については高変成度試料での出現が確認された。白雲母のピーク位置については変成度の変化に伴ったシフトが見出され、三波川帯のフェンジャイト質白雲母の化学組成が高変成度試料ほどSiに乏しくなる傾向を示すこと(Higashino et al., 1982; Radvanec et al., 1994)との関連が示唆される。また、緑泥石帯の泥質片岩2試料からはローソン石のピークが確認された。このように放射光XRD測定による鉱物相同定は岩石・鉱物組織の情報は持たないため既存の観察との併用が望ましいが、主要構成鉱物については検出でき、岩石学的研究における一つのツールとなる可能性がある。
引用文献
Arai, 1975. Contributions to Mineralogy and Petrology, 52, 1–16.
Banno, 1958. Japanese Journal of Geology and Geography, 29, 29–44.
Barrow, 1893. Quarterly Journal of the Geological Society, 49, 330–358.
榎並, 1982. 地質学雑誌, 88, 887–900.
Ernst, 1965. Geological Society of America Bulletin, 76, 879–914.
東野, 1975. 地質学雑誌, 81, 653–670.
Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423.
Higashino et al., 1982. The Science Report of Kanazawa University, 26, 73–123.
Hill et al., 1993. Journal of Petrology, 34, 867–900.
Moore & Kerrick, 1976. American Journal of Science, 276, 502–524.
Radvanec et al., 1994. Mineralogy and Petrology, 51, 37–48.
四国中央部三波川帯の汗見川ルートは変成温度幅が大きく、低変成度から高変成度までの岩石が連続的に露出することから模式的ルートとして数多くの研究が行われてきており、既存の鉱物組成共生関係や温度構造の議論との対比が可能なテストフィールドとして最適である。本研究では汗見川地域で採取された泥質片岩78試料、苦鉄質片岩108試料について粉末XRD測定を大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2で行った。泥質片岩、苦鉄質片岩共に大半の主要構成鉱物についてピークの存在を確認することができた。四国中央部三波川帯は泥質片岩の鉱物組み合わせに基づき、緑泥石帯、ざくろ石帯、曹長石-黒雲母帯、灰曹長石-黒雲母帯に変成分帯される(榎並, 1982; 東野, 1975; Higashino, 1990)。ざくろ石はその化学組成によりピーク位置が大きく変化するため詳細なリートベルト解析を行わない限りその出現を評価するとことはできないが、黒雲母については高変成度試料での出現が確認された。白雲母のピーク位置については変成度の変化に伴ったシフトが見出され、三波川帯のフェンジャイト質白雲母の化学組成が高変成度試料ほどSiに乏しくなる傾向を示すこと(Higashino et al., 1982; Radvanec et al., 1994)との関連が示唆される。また、緑泥石帯の泥質片岩2試料からはローソン石のピークが確認された。このように放射光XRD測定による鉱物相同定は岩石・鉱物組織の情報は持たないため既存の観察との併用が望ましいが、主要構成鉱物については検出でき、岩石学的研究における一つのツールとなる可能性がある。
引用文献
Arai, 1975. Contributions to Mineralogy and Petrology, 52, 1–16.
Banno, 1958. Japanese Journal of Geology and Geography, 29, 29–44.
Barrow, 1893. Quarterly Journal of the Geological Society, 49, 330–358.
榎並, 1982. 地質学雑誌, 88, 887–900.
Ernst, 1965. Geological Society of America Bulletin, 76, 879–914.
東野, 1975. 地質学雑誌, 81, 653–670.
Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423.
Higashino et al., 1982. The Science Report of Kanazawa University, 26, 73–123.
Hill et al., 1993. Journal of Petrology, 34, 867–900.
Moore & Kerrick, 1976. American Journal of Science, 276, 502–524.
Radvanec et al., 1994. Mineralogy and Petrology, 51, 37–48.
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