講演情報
[T1-O-20]紀伊半島三波川帯船岡山岩体のアラゴナイトを含む苦鉄質片岩の発見と変成条件
*田口 知樹1、田邉 正騎1、長谷 拓磨1 (1. 早稲田大学)
キーワード:
三波川帯、エクロジャイト相変成作用、アラゴナイト、残留圧力、ラマン地質温度圧力計
近年、四国三波川帯ではエクロジャイトユニットの拡がりとその一連の変成作用が明確になりつつある(Endo et al., 2024 Elements)。しかし、四国地域外のエクロジャイトユニットの空間分布は未だ不透明であり、プレート収束境界の変成進化をより理解するためには詳細な岩石学的研究が不可欠である。これまでに紀伊半島北西部三波川帯を対象とした岩石学的研究は存在するが、四国地域と比べ露頭状況が悪く、変成履歴が不明な部分も多い。先行研究は紀伊半島北西部に位置する船岡山岩体のザクロ石角閃岩に着目し、この岩石がエクロジャイト相変成作用(P/T = 約1.3 GPa/590°C)を経験していると指摘した(Endo et al., 2013 JMPS)。ただし、隣接する泥質片岩からアラゴナイト(CaCO3高圧多形)の存在が認められる一方で、ザクロ石角閃岩中に高圧指標鉱物は見出されていなかった。本研究では、船岡山岩体から新規に発見されたアラゴナイトを含む苦鉄質片岩について、その岩石記載と共にラマン地質温度圧力計による変成条件の推定を試みた。
紀伊半島の三波川帯飯盛地域は、ザクロ石帯以上の変成岩類が分布する飯盛ユニット、そしてより低変成度を示す鞆渕ユニットに区分される(王・前川, 1997 岩鉱)。飯盛ユニット北縁部に位置する船岡山岩体は泥質片岩と苦鉄質片岩を主体とし、紀の川内の小島(船岡山)および対岸部に小規模に露出する。船岡山南岸の苦鉄質片岩層には粗粒ザクロ石(最大5 mm)を含むザクロ石角閃岩が存在し、その熱力学的解析に基づき四国地域よりも高温のプログレード変成経路を辿ったことが示唆されている。
研究試料は船岡山南岸の苦鉄質片岩層から採取し、この露頭は上記のザクロ石角閃岩に近接する。苦鉄質片岩の基質は主に角閃石+曹長石+ザクロ石+石英+白雲母+緑簾石からなり、副成分として方解石+チタン石+ルチル+ジルコン+燐灰石を含む。ザクロ石の多くは自形から半自形の斑状変晶をなし、その粒径は最大700 µmに達する。ザクロ石はSps(Mn)成分が結晶中心から縁部に向かい単調減少する昇温累帯構造を示し、最外縁部でのみSps成分が増加する。ザクロ石最外縁部におけるSps成分の増加は、ピーク変成後の後退変成作用の影響が示唆される。ザクロ石中の包有物はアラゴナイト(<10 µm)に加え、石英+チタン石+クリノゾイサイト+ルチル+パラゴナイト+ジルコン+燐灰石である。オンファス輝石は基質と包有物問わず認められない。基質およびザクロ石中には石英+ルチル+ジルコンの鉱物共生が認められる。しかし、ザクロ石中のルチル包有物は微小であり、Zr-in-Rutile温度計を適用できなかった。そのため、基質のルチルを対象にZr-in-Rutile温度計(e.g. Tomkins et al., 2007 JMG)を適用した結果、約550°C(T = 1.5 GPa)と推定された。次に、ザクロ石中の石英包有物およびジルコン包有物のラマン分光分析を行い、各包有物の残留圧力値を求めた。石英包有物はザクロ石全体に分布し、Kouketsu et al. (2014 AM)及びReynard and Zhong (2023 SE)の較正に基づくと最大で約0.4 GPaの残留圧力を保持していた。また、stRAinMAN(Angel et al., 2019 ZKCM)およびEntraPT(Mazzucchelli et al. 2021 AM)ソフトウェアを用いて、ジルコン包有物の最大残留圧力値を算出したところ約0.4 GPaであった。ザクロ石−石英系及びザクロ石−ジルコン系の等残留圧力線に基づき、本試料のピーク変成条件はP/T = 約1.3–1.5 GPa/580–600°Cと見積もられた。
含アラゴナイト苦鉄質片岩の変成条件は、先行研究のザクロ石角閃岩とほぼ等しい。これは粗粒なザクロ石角閃岩と周囲の苦鉄質片岩が同様の変成履歴を有している可能性を示唆する。しかし、今回得られた石英残留圧力値は四国三波川帯のエクロジャイト質片岩(e.g. Taguchi et al., 2019 JMG)と比べ低く、その変成条件はエクロジャイトユニットの圧力下限値に相当する。船岡山岩体は、三波川帯の中でも比較的低圧条件を示すエクロジャイト相変成岩の産出で特徴づけられる可能性がある。
紀伊半島の三波川帯飯盛地域は、ザクロ石帯以上の変成岩類が分布する飯盛ユニット、そしてより低変成度を示す鞆渕ユニットに区分される(王・前川, 1997 岩鉱)。飯盛ユニット北縁部に位置する船岡山岩体は泥質片岩と苦鉄質片岩を主体とし、紀の川内の小島(船岡山)および対岸部に小規模に露出する。船岡山南岸の苦鉄質片岩層には粗粒ザクロ石(最大5 mm)を含むザクロ石角閃岩が存在し、その熱力学的解析に基づき四国地域よりも高温のプログレード変成経路を辿ったことが示唆されている。
研究試料は船岡山南岸の苦鉄質片岩層から採取し、この露頭は上記のザクロ石角閃岩に近接する。苦鉄質片岩の基質は主に角閃石+曹長石+ザクロ石+石英+白雲母+緑簾石からなり、副成分として方解石+チタン石+ルチル+ジルコン+燐灰石を含む。ザクロ石の多くは自形から半自形の斑状変晶をなし、その粒径は最大700 µmに達する。ザクロ石はSps(Mn)成分が結晶中心から縁部に向かい単調減少する昇温累帯構造を示し、最外縁部でのみSps成分が増加する。ザクロ石最外縁部におけるSps成分の増加は、ピーク変成後の後退変成作用の影響が示唆される。ザクロ石中の包有物はアラゴナイト(<10 µm)に加え、石英+チタン石+クリノゾイサイト+ルチル+パラゴナイト+ジルコン+燐灰石である。オンファス輝石は基質と包有物問わず認められない。基質およびザクロ石中には石英+ルチル+ジルコンの鉱物共生が認められる。しかし、ザクロ石中のルチル包有物は微小であり、Zr-in-Rutile温度計を適用できなかった。そのため、基質のルチルを対象にZr-in-Rutile温度計(e.g. Tomkins et al., 2007 JMG)を適用した結果、約550°C(T = 1.5 GPa)と推定された。次に、ザクロ石中の石英包有物およびジルコン包有物のラマン分光分析を行い、各包有物の残留圧力値を求めた。石英包有物はザクロ石全体に分布し、Kouketsu et al. (2014 AM)及びReynard and Zhong (2023 SE)の較正に基づくと最大で約0.4 GPaの残留圧力を保持していた。また、stRAinMAN(Angel et al., 2019 ZKCM)およびEntraPT(Mazzucchelli et al. 2021 AM)ソフトウェアを用いて、ジルコン包有物の最大残留圧力値を算出したところ約0.4 GPaであった。ザクロ石−石英系及びザクロ石−ジルコン系の等残留圧力線に基づき、本試料のピーク変成条件はP/T = 約1.3–1.5 GPa/580–600°Cと見積もられた。
含アラゴナイト苦鉄質片岩の変成条件は、先行研究のザクロ石角閃岩とほぼ等しい。これは粗粒なザクロ石角閃岩と周囲の苦鉄質片岩が同様の変成履歴を有している可能性を示唆する。しかし、今回得られた石英残留圧力値は四国三波川帯のエクロジャイト質片岩(e.g. Taguchi et al., 2019 JMG)と比べ低く、その変成条件はエクロジャイトユニットの圧力下限値に相当する。船岡山岩体は、三波川帯の中でも比較的低圧条件を示すエクロジャイト相変成岩の産出で特徴づけられる可能性がある。
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