講演情報

[T1-O-22]領家コンプレックスにおけるざくろ石累帯構造とパルス的変成作用の進行

*宮崎 一博1、林 里沙2、池田 剛2、中村 佳博1、長田 充弘3 (1. 産総研 地質調査総合センター、2. 九州大学理学部、3. 日本大学文理学部)
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キーワード:

ざくろ石、領家コンプレックス、振動累帯構造、パルス的変成作用

柳井領家コンプレックス泥質ミグマタイトから複数の成長休止期間を挟み成長した痕跡を示すざくろ石を見いだしたので報告する.また,このざくろ石とパルス的変成作用の進行との関係についても議論する. 

試料は,Ikeda (1998)のざくろ石菫青石帯に属し,Miyazaki et al (2023)によるジルコンU-Pb年代測定でジルコンのパルス成長が示唆された露頭から採取した泥質ミグマタイトである.Ikeda et al (submitted)では,ピーク変成温度約850℃,変成圧力約6.5 kbarと推定され,柳井領家の中では最も高温高圧の変成条件を示す.この試料から,研磨薄片,ざくろ石単離結晶試料を作成し,鏡下観察,EPMA分析を行った. 試料は,暗色の片麻岩的外見を呈するメソゾームと,白色粗粒の花崗岩的外見を呈するリューコゾームからなる.量的にはメソゾームの部分が多い.メソゾームは,黒雲母,ざくろ石,菫青石などの有色鉱物に富む層と,石英及び斜長石に富む層の繰り返しからなる片麻状構造が顕著で,片麻状構造に平行に黒雲母の形態定向配列が認められる.リューコゾームは,粗粒なカリ長石,斜長石,石英からなる.リューコゾームとメソゾームの境界は,片麻状構造と平行か,やや斜交する.また,高角度で斜交するリューコゾームも希に認められる.リューコゾームがメソゾームと接する部分では粗粒な菫青石やざくろ石が生じている.ざくろ石及び菫青石の包有物としてのみ針状の珪線石(フィブロライト)が認められる.鉱物共生関係から,ざくろ石生成反応の一部は,珪線石 + 黒雲母 + 石英 = ざくろ石 + 菫青石 + カリ長石 + メルト (反応1)によると考えられる. 

薄片中のざくろ石及び3次元形態中心を通る単離ざくろ石の累帯構造をEPMA分析により調べた.すべてのざくろ石で,リムでMnが増加し,Mgが減少する累帯構造が認められた.一方,リン(P)の累帯構造には,P濃度が低く微細な包有物が多く含まれるコア(コアの最外縁部にはP濃度が著しく高い薄い層が伴う場合がある),P濃度がリズミックに変動する振動累帯構造が発達し,殆ど包有物を含まないマントル,P濃度のパッチ状の濃度不均一が存在し,丸みを帯びた石英,フィブロライトの比較的粗粒な包有物を時折含むリムの3つのドメインが識別される.コアの形態は多少丸みを帯びており,P濃度の違いによる組成組織がマントルとの境界で斜交する不整合が認められる.同様な不整合は,マントルとリムの境界でも認められた. 

今回観察されたP濃度がつくる組成組織の不整合は,ざくろ石成長の休止もしくは休止と溶解を表していると解釈した.このことは不整合形成時に過飽和度(Δξ)がΔξ≦0となっていたことを意味する.逆にざくろ石が成長するためには,過飽和度Δξ >0となる必要がある.反応1を想定すると,熱が供給されることで温度が上昇し,左辺の組合せの自由エネルギーが右辺の組合せの自由エネルギーに比べ高くなることにより,Δξ >0が実現する.従って,コア,マントル,リムの形成には,Δξの鋸歯状の変化が必要である.マグマの貫入による加熱は,Δξを増大させる.Δξの鋸歯状の変化は,マグマ貫入のパルスに対応している可能性がある.即ち,旧来考えられていたような単一の昇温-冷却というサイクルとは異なるパルス的なマグマの貫入に伴う昇温とこれに呼応した変成作用の進行が領家変成作用の本質である可能性がある.

引用文献:Ikeda (1998) Journal of Metamorphic Geology, 16, 39-52; Miyazaki et al. (2023) Journal of Metamorphic Geology, 41, 639-664.

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