講演情報
[T16-O-17]美濃帯犬山地域の後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界における放散虫・コノドント化石層序
*大島 温志1、尾上 哲治1、冨松 由希2、Manuel Rigo3 (1. 九州大学、2. 福岡大学、3. Padova大学)
キーワード:
後期三畳紀、放散虫、コノドント
後期三畳紀レーティアンは,中央大西洋火成岩岩石区(CAMP)における大規模火山活動が引き金となって発生した三畳紀末大量絶滅に先行して,段階的な生物の絶滅が起こった時代として知られている.後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界では,炭素同位体比の負異常に伴い,代表的な海生生物(例えば,放散虫やコノドント,アンモナイト)の絶滅および種数の減少が報告されてきた.このうち,炭素同位体比の負の異常は,当時のパンサラッサ海を超えてパンゲア大陸の東西両側及び,北半球,南半球の両方で記録されており,世界的な炭素循環の変動が起こったと考えられている(Rigo et al.,2020).これらの後期三畳紀レーティアンの段階的な生物絶滅や環境変動は,当時のパンサラッサ海遠洋域で堆積した深海堆積物である日本のジュラ紀付加体中の層状チャートにも記録されていると推測される.しかし,ジュラ紀付加体中の層状チャートは主に放散虫化石層序に基づいて年代決定がなされており,大陸縁辺での層序復元に用いられる国際標準のアンモナイトやコノドント化石層序との対比が十分に行われていない.そのため,層状チャートと他地域のノーリアン/レーティアン境界付近における地質記録の厳密な対比を行うことはできなかった.また,レーティアンの基底を定義する化石としてMisikella posthernsteiniというコノドント化石種が,イタリアやオーストリアのGSSP候補地では用いられている.しかし,Misikella posthernsteiniには中間的な形態が存在し,ノーリアン/レーティアン境界を定義する指標種としては分類上の問題が残されている.そこで本研究では,岐阜県坂祝町の木曽川右岸露頭に露出する美濃帯上部三畳系ノーリアン〜レーティアン層状チャートから産出したコノドントおよび放散虫化石層序を検討し,レーティアン基底の層準および指標となる化石種(コノドント,放散虫)を検討することを目的として研究を行った.チャートからの放散虫およびコノドント化石種の抽出には,NaOH法(Onoue et al., 2024)を用いた.
研究の結果,検討セクション(層厚 6.5 m)からSkirtFやPraemesosaturnalis heilongjiangensis,Livarella densiporataなどの中期〜後期ノーリアン,前期レーティアンを示す放散虫化石13属24種が産出した.これまで後期ノーリアンの指標種とされてきたBetraccium deweveriは,検討セクション中部まで産出が確認された.またコノドントについては,後期ノーリアンを示すParvigondorella andrusoviやMisikella hernsteiniなど3属8種が同定された.検討セクション中部のB. deweveri最終産出層準付近では,Misikella hernsteiniとレーティアンの基底に対比されるMisikalla posthernsteiniの中間的な形態を持つ種(M. posthernsteini s.l.)の産出が認められた.M. posthernsteini s.l. は本来記載されたM.posthernsteini(M. posthernsteini s.s.)とは異なる形態的特徴を有しており,M. hernsteiniからM. posthernsteini s.s.へと形態が変化する中間種と考えられている.M. posthernsteini s.s.は検討セクションの上部で産出が認められた.M. posthernsteini s.s.の初産出に基づくと,本セクションにおけるレーティアンの基底は,従来この境界を示す指標とされてきた放散虫化石B. deweveri最終産出層準よりさらに上位に位置すると考えられる.
本研究においてレーティアン基底層準は,イタリアのGSSP候補地(Pignola-Abriolaセクション)と同様にM. posthernsteini s.s.を用いて決定したが,北米地域などでは別のコノドント化石(Mockina mosheri)が指標として用いられている.そのため国際的な対比を行う際に種同士の関係が問題となっている.今後より正確な境界層準を決定するためにも,本研究地域におけるMockina mosheriの探索に加えて,M. hernsteini からM. posthernsteini s.l. およびM. posthernsteini s.s.への進化的変化の過程について,層位分布,放散虫化石群集の変化と合わせてさらなる検討が必要である.
引用文献
Onoue, T. et al., 2024, Scientific Reports 14, 12831.
Rigo, M. et al., 2020, Earth-Science Reviews 204, 103180.
研究の結果,検討セクション(層厚 6.5 m)からSkirtFやPraemesosaturnalis heilongjiangensis,Livarella densiporataなどの中期〜後期ノーリアン,前期レーティアンを示す放散虫化石13属24種が産出した.これまで後期ノーリアンの指標種とされてきたBetraccium deweveriは,検討セクション中部まで産出が確認された.またコノドントについては,後期ノーリアンを示すParvigondorella andrusoviやMisikella hernsteiniなど3属8種が同定された.検討セクション中部のB. deweveri最終産出層準付近では,Misikella hernsteiniとレーティアンの基底に対比されるMisikalla posthernsteiniの中間的な形態を持つ種(M. posthernsteini s.l.)の産出が認められた.M. posthernsteini s.l. は本来記載されたM.posthernsteini(M. posthernsteini s.s.)とは異なる形態的特徴を有しており,M. hernsteiniからM. posthernsteini s.s.へと形態が変化する中間種と考えられている.M. posthernsteini s.s.は検討セクションの上部で産出が認められた.M. posthernsteini s.s.の初産出に基づくと,本セクションにおけるレーティアンの基底は,従来この境界を示す指標とされてきた放散虫化石B. deweveri最終産出層準よりさらに上位に位置すると考えられる.
本研究においてレーティアン基底層準は,イタリアのGSSP候補地(Pignola-Abriolaセクション)と同様にM. posthernsteini s.s.を用いて決定したが,北米地域などでは別のコノドント化石(Mockina mosheri)が指標として用いられている.そのため国際的な対比を行う際に種同士の関係が問題となっている.今後より正確な境界層準を決定するためにも,本研究地域におけるMockina mosheriの探索に加えて,M. hernsteini からM. posthernsteini s.l. およびM. posthernsteini s.s.への進化的変化の過程について,層位分布,放散虫化石群集の変化と合わせてさらなる検討が必要である.
引用文献
Onoue, T. et al., 2024, Scientific Reports 14, 12831.
Rigo, M. et al., 2020, Earth-Science Reviews 204, 103180.
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