講演情報
[G2-O-1]オーストラリア北西沖大陸棚で採取された間隙水の水素・酸素同位体組成★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*葭井 功輔1,2、髙栁 栄子1,3、宮島 利宏4、REUNING Lars5、井龍 康文1,3 (1. 東北大学大学院理学研究科地学専攻、2. 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構、3. 変動海洋エコシステム高等研究所、4. 東京大学大気海洋研究所、5. Institute of Geosciences, Kiel University)
キーワード:
水文地質、間隙水、水素・酸素同位体比、炭酸塩プラットフォーム
19世紀最後期から海洋島や炭酸塩プラットフォーム(例えば,グレートバハマバンク島)で数多くの掘削が行われてきた.その第一義的な目的は,両者を構成する炭酸塩岩の堆積・続成過程を明らかにし,形成史を解明することにあった.1970年代以降になると,海洋島や炭酸塩プラットフォーム内における間隙水の組成や挙動は,堆積物の続成変質過程を理解する上で重要であるとの認識から,それらに関する研究が行われるようになった.しかしながら,被圧帯水層における間隙水の挙動は明らかにされてきたものの,海底下の不圧帯水層の挙動に関する知見の蓄積は十分ではない.本研究では,オーストラリア北西沖大陸棚で採取された間隙水の水素・酸素同位体比と,先行研究により明らかにされたオーストラリア西部およびその沖合の間隙水の主要元素濃度および塩分データに基づき,炭酸塩プラットフォーム内における間隙水の挙動を考察する.
本研究で検討した試料は,オーストラリア北西沖のNorthern Carnarvon BasinおよびRoebuck Basinで実施された国際深海科学掘削計画第356次航海のU1461,U1462,U1463,U1464地点より得られたコア試料から採取した間隙水58試料である.東京大学大気海洋研究所所有のキャビティダウン分光方式安定同位体比分析装置を用いて,間隙水試料の水素同位体比(δD)および酸素同位体比(δ18O)を測定した.
間隙水試料の水素同位体比(δD)は3.71~10.76‰(VSMOW)であり,酸素同位体比(δ18O)は0.54~3.26‰(VSMOW)であった.間隙水は塩分に基づき,3グループに区分される.グループ1(海底下深度約0~50 m)は塩分が40以下であり,そのδDは約3.7〜7.4‰,δ18Oは約0.5〜1.3‰である.δDとδ18Oの間には,正の相関が認められる.グループ2(U1461では海底下深度約50~400 m,U1463およびU1464では海底下深度約50~220 m)は塩分が40~100の範囲にあり,そのδDは約6.5〜8.6‰,δ18Oは約1.1〜2.5‰である,両者に相関は認められない.グループ3(U1461では海底下深度約400 m以深,U1463およびU1464では海底下深度約220 m以深)の塩分は100以上で,そのδDは約6.6〜10.8‰,δ18Oは約1.8〜3.3‰である.両者には正の相関が認められる.
グループ1およびグループ3の水素・酸素同位体比から得られた回帰直線の傾きが北西オーストラリア・Hamersley Basinにおける地下水のLocal Evaporation Lineと類似することは,両グループの間隙水の水素・酸素同位体比が同様の蒸発作用の影響を受けていることを意味する.グループ1の間隙水は深部の試料ほどδDおよびδ18Oの値が大きいため,深部の試料が浅部と比較して大きな蒸発作用を被ったか,上位の間隙水ほどより上位から浸透した海水の影響を強く受けたかという2つの可能性が考えられる.また,グループ1最上部の間隙水は現在の海水とほぼ同一の水素・酸素同位体組成および化学組成を有している.周辺の気候や地質条件を考慮するとグループ1の間隙水は,沿岸で蒸発を受けた海水が堆積物中に移動して炭酸塩プラットフォーム中を側方移動する過程で,上位から浸透した海水と混合することによって形成されたと考えられる.
グループ3の間隙水の水素・酸素同位体比の回帰直線は,グループ1の回帰直線と比較してδ18O軸の切片が約0.65大きい.これはグループ3の起源となる海水が現在の海水と比較して18Oに富むことを示している.また,グループ3は高塩分を特徴とする.下位に蒸発岩を伴う炭酸塩岩が分布することを考慮すると,蒸発岩の溶解により形成された高塩分水が上方拡散している可能性が想定される.グループ2の間隙水は,その水素・酸素同位体比がグループ1とグループ3の中間であることから,両間隙水が混合していることが示唆され,これは主要元素濃度により支持される.
本研究で検討した試料は,オーストラリア北西沖のNorthern Carnarvon BasinおよびRoebuck Basinで実施された国際深海科学掘削計画第356次航海のU1461,U1462,U1463,U1464地点より得られたコア試料から採取した間隙水58試料である.東京大学大気海洋研究所所有のキャビティダウン分光方式安定同位体比分析装置を用いて,間隙水試料の水素同位体比(δD)および酸素同位体比(δ18O)を測定した.
間隙水試料の水素同位体比(δD)は3.71~10.76‰(VSMOW)であり,酸素同位体比(δ18O)は0.54~3.26‰(VSMOW)であった.間隙水は塩分に基づき,3グループに区分される.グループ1(海底下深度約0~50 m)は塩分が40以下であり,そのδDは約3.7〜7.4‰,δ18Oは約0.5〜1.3‰である.δDとδ18Oの間には,正の相関が認められる.グループ2(U1461では海底下深度約50~400 m,U1463およびU1464では海底下深度約50~220 m)は塩分が40~100の範囲にあり,そのδDは約6.5〜8.6‰,δ18Oは約1.1〜2.5‰である,両者に相関は認められない.グループ3(U1461では海底下深度約400 m以深,U1463およびU1464では海底下深度約220 m以深)の塩分は100以上で,そのδDは約6.6〜10.8‰,δ18Oは約1.8〜3.3‰である.両者には正の相関が認められる.
グループ1およびグループ3の水素・酸素同位体比から得られた回帰直線の傾きが北西オーストラリア・Hamersley Basinにおける地下水のLocal Evaporation Lineと類似することは,両グループの間隙水の水素・酸素同位体比が同様の蒸発作用の影響を受けていることを意味する.グループ1の間隙水は深部の試料ほどδDおよびδ18Oの値が大きいため,深部の試料が浅部と比較して大きな蒸発作用を被ったか,上位の間隙水ほどより上位から浸透した海水の影響を強く受けたかという2つの可能性が考えられる.また,グループ1最上部の間隙水は現在の海水とほぼ同一の水素・酸素同位体組成および化学組成を有している.周辺の気候や地質条件を考慮するとグループ1の間隙水は,沿岸で蒸発を受けた海水が堆積物中に移動して炭酸塩プラットフォーム中を側方移動する過程で,上位から浸透した海水と混合することによって形成されたと考えられる.
グループ3の間隙水の水素・酸素同位体比の回帰直線は,グループ1の回帰直線と比較してδ18O軸の切片が約0.65大きい.これはグループ3の起源となる海水が現在の海水と比較して18Oに富むことを示している.また,グループ3は高塩分を特徴とする.下位に蒸発岩を伴う炭酸塩岩が分布することを考慮すると,蒸発岩の溶解により形成された高塩分水が上方拡散している可能性が想定される.グループ2の間隙水は,その水素・酸素同位体比がグループ1とグループ3の中間であることから,両間隙水が混合していることが示唆され,これは主要元素濃度により支持される.
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