講演情報

[G6-O-1]中海における後期完新世の古環境変動

*唐 双寧1、香月 興太2、仲村 康秀2、池原 実3、関 有沙1、渡邊 千隼1、山田 桂1 (1. 信州大学、2. 島根大学、3. 高知大学)
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キーワード:

後期完新世、貝形虫、古環境、コア研究、中海

完新世の数十~数千年スケールの急激な気候変動(RCC : Rapid Climate Change)は人類の発展に大きな影響を与えてきた(平林・横山,2020).これらの気候変動は近い将来地球の気候変動に現れる可能性があることから,その変化や原因の解明は注目されている.その中でも約 4200~3900 年前に起きた4.2 ka イベントは世界各地の文明の盛衰に大きなダメージを与えたことが知られている(e.g., Liu and Feng, 2012).このイベントは一度の世界的寒冷/乾燥イベントと考えられてきたが,近年では,二度の寒冷化や湿潤な気候の証拠など,従来と異なる気候変化が認められており(e.g., Railsback et al., 2018), 4.2 ka イベントの全貌を明らかにするには更なるデータの蓄積が必要である.気候変化の影響を反映しやすい汽水湖である中海は島根県と鳥取県の境に位置し,砂州の発達により外洋と分断された海跡湖である(入月ほか,2003).中海では,湖底堆積物の柱状試料(コア)による研究が多く行われており,特に過去3000年間の古環境は数百年スケールの短期的な東アジア夏季モンスーンの変動を捉えていることが示された(e.g., Yamada et al., 2019).しかし,これらの研究で使われたコアの大半は長さ4 m以下で,3000年前より以前の記録がまだ少ない.そこで,本研究は中海でコア長4.66 mのコアNKU23-01を掘削し,化学分析と貝形虫化石から中海における後期完新世の古環境変動を復元した. 
 コアNKU23-01の岩相は全体的に貝殻混じりの塊状シルトで,下部1.5 mにコケムシが多産した.AMS14C年代測定により,コア深度415 cmの年代が4066 ± 193 cal yr BPであった.XRFコアスキャナーITRAX(高知大学海洋コア国際研究所MaCRI)による分析を行い, 連続的な元素濃度変化を観察した.また,全てのコア深度について10 cmごとの試料に加え,最下部50 cmは0.5cm間隔で貝形虫の検討を行った.計140試料の全てから貝形虫が産出した.コアを通して内湾泥底種であるBicornucythere bisanensisSpinileberis quadriaculeataが最も優占し,コア全体は内湾泥底環境で堆積したと考えられる.また,Q-modeクラスター分析により,貝形虫群集の細かい変化が認められ,全体の堆積環境が変わらないものの,細かい環境変化が観察できた.Bicornucythere bisanensisは現在の中海でも優占種であり,夏(4~8月)に成長し,その殻のδ18Oは夏の底層δ18Oを反映している(Yamada et al., 2016).現在の中海では,夏(4~8月)の間に底層の塩分濃度は底層のδ18Oと正の相関(+),地域の降水量と負の相関(―)があるため,B. bisanensis殻のδ18Oを分析することで,中海の夏の底層塩分濃度と地域の降水量を定量的に復元できる(Yamada et al., 2016).Bicornucythere bisanensisの成体が4個体以上産出した115試料についてisoprime precisION (MaCRI)によるδ18O分析を行った.本発表では,貝形虫とITRAXの結果を対比し,中海における後期完新世,特に4000年前後の古環境を詳細に議論する.

参考文献:
平林頌・横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129-157.
入月俊明・中村雄三・高安克己・坂井三郎,2003.島根大地球資源環境学研報,22,149-160.
Liu, F. and Feng, Z., 2012. The Holocene 22, 1181–1197.
Railsback et al., 2018. Quaternary Science Reviews, 186, 78-90.
Yamada et al., 2019. Scientific Reports, 9, 5036.
Yamada et al., 2016. Geology, 44, 255-258.

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