講演情報

[G6-O-3]貝形虫化石群集解析に基づく出雲平野中央部~東部の前・中期完新世の古環境変化

*大植 和1、入月 俊明1、中島 啓1、堀田 源内1、瀬戸 浩二1、香月 興太1、中西 利典2、齋藤 文紀1 (1. 島根大学、2. ふじミュー)
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キーワード:

完新世、宍道湖、貝形虫、ボーリングコア、出雲平野

島根県東部の出雲市に広がる出雲平野は,完新世に斐伊川と神戸川により形成された沖積平野で,縄文海進最盛期には,古宍道湾と呼ばれる閉鎖的内湾が形成されていた(山田・高安,2006 など).大植ほか(2024)は,出雲平野東部で掘削されたボーリングコア(HK19コア)の試料に含まれる微化石の貝形虫(石灰質の2枚の殻を持つ微小甲殻類)を用いて群集解析を行い,その結果に基づいて古宍道湾の環境変動を高時間分解能で報告した.今回はこのHK19コアの研究結果などに加え,2023年に出雲平野中央部で掘削されたボーリングコア(NH23コア)の試料を用いて,新たに貝形虫化石分析を行い,その結果をもとに出雲平野の前・中期完新世における古環境の時間空間的復元を行った.   
 本研究で使用したNH23コアは,出雲平野中央部の標高4.366 m地点から掘削され,コア長は56.2 mである.下位から順にシルト(コア深度60.6~55.0 m),シルト質極細粒砂(54.9~52.0 m),シルト極細粒砂互層(51.95~49.0 m),砂質シルト(48.95~37.0 m),シルト(36.95~18.0 m),シルト質極細粒砂(17.7~11.0 m),細砂(10.65~5.0 m),粘土質の堆積物(4.7~1.0 m)からなる.NH23コアは半割された後,厚さ1 cmにスライスされ,凍結乾燥を行った.その後,開口径63 μmの篩上で水洗し,45℃で約48時間乾燥させた後,開口径125 μmの篩上の試料から,双眼実体顕微鏡を用いて貝形虫化石を抽出・同定した.
 本研究では,NH23コアのコア深度33~28 mまでの試料を分析し,約40種の貝形虫化石が産出した.最多産種はBicornucythere bisanensisで,2番目に多産した種はSpinileberis quadriaculeataで,どちらも閉鎖的な内湾泥底に生息する(池谷・塩崎,1993).3番目に多産した種は水深15 m以深の内湾泥底で上記の種よりも塩分の高い環境に適応するLoxoconcha vivaである(入月ほか,2010).他には汽水生種のCytherura miiiSpinileberis furuyaensis(入月ほか,2003)が少数産出した. HK19コアの貝形虫化石群集と比較すると,全体を通してNH23コアの方が種多様度が高く,これはNH23コアの採取地点の方がより湾口に近く,外洋の影響を受ける環境であったことが示唆される.またCytheroma hanaiiが特定の層準のみ多産したが,この種の生息環境は明らかになっていない.
 貝形虫化石群集の分析結果に基づいて,古宍道湾の古環境変遷を復元すると,以下のように要約される.古宍道湾中央部は約9300~9100年前では,汽水性の湖沼環境で,約9100~8500年前に海進により閉鎖的な内湾環境に変化した.一方で,古宍道湾東部は汽水性の湖沼環境であった.約8100~7000年前では,古宍道湾全体がさらなる海水準上昇により,外洋からの海水の影響を受ける開放的な内湾環境に変化した.約7000年前以降では,大社湾側の湾口部が浅くなり,その影響から閉鎖的な内湾環境へと変化した.
引用文献:池谷・塩崎(1993)地質論,39: 15‐32;入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149‐160;入月ほか(2010)島根大地球資源環境学研報,no.29,11‐20;大植ほか(2024)汽水域合同研究発表会2024講演要旨;山田・高安(2006)第四紀研究,45,391‐405.

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