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[G6-O-6]テフロクロノロジーに基づく関東平野西部多摩丘陵上総層群の編年

*鈴木 毅彦1、正田 浩司2、橋本 真由1、川畑 美桜子1、神馬 菜々美1、菅澤 大樹1 (1. 東京都立大学、2. 大東文化大学)
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キーワード:

第四紀、テフラ、上総層群、海洋酸素同位体ステージ、多摩丘陵

前弧海盆に起源をもつ関東平野は,第四紀において地殻変動,氷河性海面変動,堆積作用を受けながら徐々に陸化した.こうした陸域への変化過程を復元するさい,氷河性海面変動により岩相変化が著しい浅海域の堆積物に着目し,沈降ないしは隆起の過程を読みとることは有効である.
 関東平野西部の多摩丘陵の上総層群は,浅海域〜陸成のサイクリックな堆積物からなり,その堆積環境の変化は氷河性海面変動に起因する(高野,1994).それらは下位から寺田層,大矢部層,平山層,小山田層,連光寺層,稲城層,出店層の7累層からなる.しかし各累層と海洋酸素同位体ステージ(以下,MIS)の関係は不明であり,正確な年代は得られていない.各累層とMISの関係を明らかにする手がかりはテフラである.本研究ではテフラを用いてこれら累層と海洋酸素同位体ステージの関係を議論する.
 大矢部層中部層中に含まれる上大船テフラは,飛驒山脈を起源とするNyg,すなわち前期更新世の広域テフラHo-Kd39(町田・新井,2003;Satoguchi and Nagahashi, 2012 )との対比案が示された(高野,2002).しかし上大船テフラの火山ガラスの特性と模式地房総半島のKd39のそれとの比較は未完であった.また同テフラのFT年代値と大矢部層の古地磁気特性から, Kd39とは対比できず,大矢部層の年代はより古いとの見解もある(植木ほか,2013).今回,上大船テフラと関東各地のHo-Kd39について火山ガラスの主成分化学組成と火山ガラス・直方輝石の屈折率を系統的に測定した.上大船テフラは,上部・下部ともに火山ガラスの主成分化学組成(平均値)が,SiO2:約76 wt%,Al2O3:12.6-12.7 wt%,FeO:約1.3 wt%,CaO:1.1 wt%,Na2O:3.0 wt%,K2O:4.7-4.8 wt%を示し,屈折率は1.500-1.502である.直方輝石の最大屈折率γは上部・下部で1.708-1.717の範囲にある.こうした特徴は関東各地のHo-Kd39と共通であり,これらは対比可能である.平山層下部の鑓水テフラは八王子市鑓水付近と多摩川河床でのみ確認されていた.今回,武蔵野台地から多摩丘陵中部の4地点(府中,稲城,町田,南町田)地下のボーリングコア試料から鑓水テフラを検出した.その層位はOb3-Kd31Bの上位で,SYG-Kd29の下位である.
 上記のテフラ認定とその他テフラに基づき,各累層とMISの関係を以下に考察した.大矢部層下部層に含まれる上大船テフラは三浦半島北部のYH02(Ho-Kd39)に相当し,その層位はMIS63ピーク以降(楠ほか,2014)である.また上大船テフラの上位にあるNOT-12(Ebs-Fkd,Kd38)はMIS61ピーク以前(野崎・宇都宮,2023)とされている.一方,上大船テフラは大矢部層下部の礫層から泥層に移りかわる付近,すなわち低海面期から高海面期に移行する時期に堆積したと解釈できるのでMIS62ピーク後にその層位があると考えられる.平山層中部の泥層中にある鑓水テフラは, Ob3-Kd31BとSYG-Kd29の両テフラに挟まれ,それぞれの噴出年代は,1.664 Ma(MIS 59〜MIS58),1.634 Ma(MIS57ピーク付近)と推定されている(鈴木ほか,2023).鑓水テフラは平山層中部の泥層中にあることから海面上昇期の堆積と考えれば,同層準はMIS58からMIS57への移行期と考えられる.小山田層下部層に含まれる堀之内第2テフラは飛驒山脈を起源とするOmn(町田・新井,2003)に対比されている.本テフラは三浦半島北部において, 1.573 Ma の年代値とMIS54ピーク頃に降下したとされている(楠ほか, 2014; Nozaki et al., 2014; Kusu et al., 2016).このことから小山田層に示される低海面期,海面上昇期,高海面期の過程は,MIS54からMIS53であることが示唆される.
[引用文献]楠ほか(2014)地質雑, 120, 53–70. Kusu et al. (2016) Prog. Earth Planet. Sci., 3, 26. 町田・新井(2003)火山灰アトラス, 東大出版会. Nozaki et al. (2014) Isl. Arc, 23, 157–179. 野崎・宇都宮(2023)地質雑, 128, 313-333. Satoguchi & Nagahashi (2012) Isl. Arc, 21, 149–169. 鈴木ほか(2023)地学雑誌, 132, 483-503. 高野(1994)地質学雑誌, 100, 675-691. 高野(2002)日本第四紀学会講演要旨集, 32, 114-115. 植木ほか(2013)八王子地域の地質,産総研.

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