講演情報
[G6-O-7]海岸の黒い砂粒に法地質学的な利用価値はあるか?
*杉田 律子1 (1. 科学警察研究所)
キーワード:
法地質学、海岸砂、重鉱物、SEM-EDX
土や砂は事件や事故の証拠資料として,鑑定に付されることがある.これまでに確立されてきた系統的な土資料の法科学的検査法は,砂およびシルト・粘土の各画分に含まれる鉱物種の同定を中心として組み立てられており,砂画分については偏光および実体顕微鏡観察が主な検査法である.しかし,たとえば海岸の砂はシルト以下の粒子を含まないために,土よりも情報量が少なく異同識別が困難な場合がある.また,土の場合は風化や土壌化により母材とは異なる色を呈することがほとんどで,色の検査はスクリーニングとして有効であることが知られている(Sugita and Marumo 1996)が,海岸の砂では鉱物の元の色以外に色の情報を得ることができない.
海岸砂を構成する粒子は付近の河川や火山灰によって供給される.砂に含まれる暗色を呈する粒子は,花こう岩地域などを除くと輝石類や不透明鉱物,岩石片などから構成されていることが多い.重鉱物組成は,堆積物の後背地推定に有効であり(Garzanti and Andó, 2007),法科学的にも利用されている(例えばPalenik, 2007).火山噴出物の影響が強い東北日本地域では,輝石類はシソ輝石と普通輝石が一般的に見られるが,不透明鉱物については顕微鏡よる検査では鉱物種の同定に至らないことも多い.
本研究では,海岸砂から重鉱物を分離し,重鉱物画分に含まれる粒子のエネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)により主成分元素分析を行い,異同識別や地域推定への活用の可能性を検討した.実験に用いた試料は東日本の火山性堆積物が卓越し,過去に近辺で砂鉄鉱床として採掘されていたり,砂鉄鉱床としての可能性検討された地域を含む地域の海岸砂である.試料は0.2および1 mmのふるいで分離した粗粒および中粒の砂で,水洗した後,ポリタングステン酸ナトリウム(d≈2.85)により重鉱物画分と軽鉱物画分に分離した.得られた重鉱物画分をエポキシ系樹脂を用いて研磨薄片とし,炭素蒸着をして真空下でSEM-EDXによる観察および分析を実施した.分析は100倍の反射電子像で観察したときに,粒子の中心付近の均質と考えられる場所を点分析で行った.
その結果,輝石類は概ねシソ輝石と普通輝石で,その化学組成も試料間で互いに類似しているが,鉄-マグネシウム比の分布範囲の幅が若干異なる地域もある.また,普通輝石は,鉄/マグネシウムとカルシウムの関係から,複数の起源が推定される試料があり,識別に利用できる可能性が見いだされた.一方,不透明鉱物は鉱物が独立して粒子として確認されるほか,輝石類や岩石片の包有物として認められるものも多い.包有物として見られる不透明鉱物の大きさは,ミリオーダーからミクロン以下のまで様々であるが,分析には数10μm以上のものを使用した.この大きさには地質学的な意味はなく,実務上の便宜性を優先したものである.その結果,不透明鉱物の多くは鉄-チタン系列の酸化物で,磁鉄鉱やチタン鉄鉱と考えられる鉱物であった.また,磁鉄鉱と推定される鉱物はどの試料にも認められたが,チタン鉄鉱と推定される鉱物はほとんど含まれないものから不透明鉱物のおよそ半数を占めるものまで確認され,チタンの含有率には地域差が見られた.鉄-チタン酸化物についてはSugita(2022)の法地質学的検査のための予察的研究でも地域差が見られることが指摘されており,火山性堆積物の影響が大きい地域間でも利用できる可能性が明らかとなった.鉄-チタンに富む包有物は,反射電子像で,試料によって大きさなどの形態的な違いがあることから,元素組成と共に識別の指標となることが期待される.
文献
Garzanti, E. and Andó, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 741-763.
Palenik, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 937-961.
Sugita, R. and Marumo, Y. 1996, Forensic Sci. Int., 83, 201-210.
Sugita, R. 2022. JpGU Abstract, MG31-P05.
海岸砂を構成する粒子は付近の河川や火山灰によって供給される.砂に含まれる暗色を呈する粒子は,花こう岩地域などを除くと輝石類や不透明鉱物,岩石片などから構成されていることが多い.重鉱物組成は,堆積物の後背地推定に有効であり(Garzanti and Andó, 2007),法科学的にも利用されている(例えばPalenik, 2007).火山噴出物の影響が強い東北日本地域では,輝石類はシソ輝石と普通輝石が一般的に見られるが,不透明鉱物については顕微鏡よる検査では鉱物種の同定に至らないことも多い.
本研究では,海岸砂から重鉱物を分離し,重鉱物画分に含まれる粒子のエネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)により主成分元素分析を行い,異同識別や地域推定への活用の可能性を検討した.実験に用いた試料は東日本の火山性堆積物が卓越し,過去に近辺で砂鉄鉱床として採掘されていたり,砂鉄鉱床としての可能性検討された地域を含む地域の海岸砂である.試料は0.2および1 mmのふるいで分離した粗粒および中粒の砂で,水洗した後,ポリタングステン酸ナトリウム(d≈2.85)により重鉱物画分と軽鉱物画分に分離した.得られた重鉱物画分をエポキシ系樹脂を用いて研磨薄片とし,炭素蒸着をして真空下でSEM-EDXによる観察および分析を実施した.分析は100倍の反射電子像で観察したときに,粒子の中心付近の均質と考えられる場所を点分析で行った.
その結果,輝石類は概ねシソ輝石と普通輝石で,その化学組成も試料間で互いに類似しているが,鉄-マグネシウム比の分布範囲の幅が若干異なる地域もある.また,普通輝石は,鉄/マグネシウムとカルシウムの関係から,複数の起源が推定される試料があり,識別に利用できる可能性が見いだされた.一方,不透明鉱物は鉱物が独立して粒子として確認されるほか,輝石類や岩石片の包有物として認められるものも多い.包有物として見られる不透明鉱物の大きさは,ミリオーダーからミクロン以下のまで様々であるが,分析には数10μm以上のものを使用した.この大きさには地質学的な意味はなく,実務上の便宜性を優先したものである.その結果,不透明鉱物の多くは鉄-チタン系列の酸化物で,磁鉄鉱やチタン鉄鉱と考えられる鉱物であった.また,磁鉄鉱と推定される鉱物はどの試料にも認められたが,チタン鉄鉱と推定される鉱物はほとんど含まれないものから不透明鉱物のおよそ半数を占めるものまで確認され,チタンの含有率には地域差が見られた.鉄-チタン酸化物についてはSugita(2022)の法地質学的検査のための予察的研究でも地域差が見られることが指摘されており,火山性堆積物の影響が大きい地域間でも利用できる可能性が明らかとなった.鉄-チタンに富む包有物は,反射電子像で,試料によって大きさなどの形態的な違いがあることから,元素組成と共に識別の指標となることが期待される.
文献
Garzanti, E. and Andó, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 741-763.
Palenik, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 937-961.
Sugita, R. and Marumo, Y. 1996, Forensic Sci. Int., 83, 201-210.
Sugita, R. 2022. JpGU Abstract, MG31-P05.
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