講演情報
[T3-P-1]“江の島”で学ぶ相模トラフ変動帯の地形・地質と自然災害
*重野 聖之1、石井 正之2、七山 太3 (1. 明治コンサルタント株式会社、2. 石井技術士事務所、3. ふじのくに地球環境史ミュージアム)
キーワード:
湘南海岸、江の島、相模トラフ変動帯、地形・地質、ジオ散歩
神奈川県,湘南海岸屈指の景勝地である江の島は,周囲約5 km,⾯積約0.38 km2の相模湾に浮かぶ瓢箪のような形をした孤島である.この島は,境川(⽚瀬川)河⼝から伸びる砂州によってビーチと島がつながることから,地形学的には陸繋島とも呼ばれている.また,江の島は険しい岩石海岸を有していることでも知られている.歴史を遡ってみると,特に島の南西部に位置する岩屋洞窟は,弘法大師や日蓮上人に代表される行者の修験場としての江の島を象徴する存在であった.
江の島の立地する湘南海岸地域は,北米プレートに帰属する東北日本弧に対し,伊豆―小笠原弧を載せたフィリピン海プレートが沈み込む海溝である相模トラフに面しており,さらにフィリピン海プレートに生じた伊豆―小笠原弧が衝突することによって,現在も丹沢山地が隆起し続けている.そのため江の島では,歴史時代の直接の地震隆起の証拠となる離水した波食棚(低位段丘)や約8 〜10万年前に離水した海成段丘面(高位段丘)等の変動帯特有の地形が観察できる.一方,中期中新世に相模トラフを埋積し,その後東北日本弧側に付加して生じた変動帯特有の地層が,この島の基盤を成している.
本発表では,湘南海岸屈指の観光地である江の島の地形・地質の⾒どころを周遊するジオ散歩ルートを紹介する.特に,相模トラフに直接⾯したこの島では,変動地帯特有の地形や地質を,公共交通機関を使ってどちらからでも簡単にアクセスすることができることから,江の島観光にあわせて,この島の成り⽴ちについて少しだけ関⼼をもっていただければと考えている.なお,江の島ジオ散歩ルートについての詳細はGSJ 地質ニュース(七山ほか、2024)を参照されたい.
江の島ジオ散歩は,江の島弁天橋南詰に⽴地する江の島観光案内所前が出発点となり,前半と後半の2つのルートに分けられる.前半のルートでは,江の島観光案内所前から島の東側を巡り,江の島観光案内所前に戻る.後半のルートでは,江の島観光案内所前から江の島観光のメインルートである財弁天仲⾒世通りから岩屋洞窟までを巡る.あわせて概ね2〜3時間ほどの⾏程となる.各ルートの主要な観察ポイントは以下のとおりとなる.
前半ルートは1703年元禄関東地震によって地盤が隆起し,半島状になったと⾔われている聖天島公園付近,昔の波⾷棚が,地震隆起して⽣じた波食棚(岩屋面)と付加体である葉山層群が観察出来る江の島南東岸-釜ノ⼝付近,岩屋面よりも少し古い波食棚である猟師町付近を巡る.
後半ルートは,財弁天仲⾒世通り付近,江の島の頂部の⽐較的平らな海成段丘⾯(小原台面),箱根⽕⼭,丹沢⼭地や伊⾖半島の⼭並み,陸繋砂州(トンボロ)が展望できる展望灯台シーキャンドル,関東ローム層が露出する⼭⼆つ展望台付近,岩屋面や葉山層群が観察出来る稚児ヶ淵付近,最後に岩屋洞窟を巡る.
なお,江島神社には,平安時代中期にそれまでの伝承を書き残こしたとされる江ノ島縁起という絵巻物があり,江島神社に纏わる五頭⻯と弁天様が登場する江の島誕⽣の物語として広く世に知られている.その⼀節に,「欽明天皇13年(⻄暦552年)4⽉13⽇真っ⿊い雲が天空を覆い,深い繋が⽴ち込め,⼤地震が10⽇も続いた後,雲の上から弁天様が従えた四天王や⾵神雷神が空から⽯を降らせ,海からは真っ⾚な⽕柱とともに岩が噴き出して江の島は誕⽣した」という記述がある.地質学的に⾒て,この伝承の⽰す⾃然現象とは,具体的にはどのような成因によるものなのか,現地でご一考頂くことをお薦めしたい.
引用文献:七山ほか2024,GSJ 地質ニュース Vol. 13 No. 5
江の島の立地する湘南海岸地域は,北米プレートに帰属する東北日本弧に対し,伊豆―小笠原弧を載せたフィリピン海プレートが沈み込む海溝である相模トラフに面しており,さらにフィリピン海プレートに生じた伊豆―小笠原弧が衝突することによって,現在も丹沢山地が隆起し続けている.そのため江の島では,歴史時代の直接の地震隆起の証拠となる離水した波食棚(低位段丘)や約8 〜10万年前に離水した海成段丘面(高位段丘)等の変動帯特有の地形が観察できる.一方,中期中新世に相模トラフを埋積し,その後東北日本弧側に付加して生じた変動帯特有の地層が,この島の基盤を成している.
本発表では,湘南海岸屈指の観光地である江の島の地形・地質の⾒どころを周遊するジオ散歩ルートを紹介する.特に,相模トラフに直接⾯したこの島では,変動地帯特有の地形や地質を,公共交通機関を使ってどちらからでも簡単にアクセスすることができることから,江の島観光にあわせて,この島の成り⽴ちについて少しだけ関⼼をもっていただければと考えている.なお,江の島ジオ散歩ルートについての詳細はGSJ 地質ニュース(七山ほか、2024)を参照されたい.
江の島ジオ散歩は,江の島弁天橋南詰に⽴地する江の島観光案内所前が出発点となり,前半と後半の2つのルートに分けられる.前半のルートでは,江の島観光案内所前から島の東側を巡り,江の島観光案内所前に戻る.後半のルートでは,江の島観光案内所前から江の島観光のメインルートである財弁天仲⾒世通りから岩屋洞窟までを巡る.あわせて概ね2〜3時間ほどの⾏程となる.各ルートの主要な観察ポイントは以下のとおりとなる.
前半ルートは1703年元禄関東地震によって地盤が隆起し,半島状になったと⾔われている聖天島公園付近,昔の波⾷棚が,地震隆起して⽣じた波食棚(岩屋面)と付加体である葉山層群が観察出来る江の島南東岸-釜ノ⼝付近,岩屋面よりも少し古い波食棚である猟師町付近を巡る.
後半ルートは,財弁天仲⾒世通り付近,江の島の頂部の⽐較的平らな海成段丘⾯(小原台面),箱根⽕⼭,丹沢⼭地や伊⾖半島の⼭並み,陸繋砂州(トンボロ)が展望できる展望灯台シーキャンドル,関東ローム層が露出する⼭⼆つ展望台付近,岩屋面や葉山層群が観察出来る稚児ヶ淵付近,最後に岩屋洞窟を巡る.
なお,江島神社には,平安時代中期にそれまでの伝承を書き残こしたとされる江ノ島縁起という絵巻物があり,江島神社に纏わる五頭⻯と弁天様が登場する江の島誕⽣の物語として広く世に知られている.その⼀節に,「欽明天皇13年(⻄暦552年)4⽉13⽇真っ⿊い雲が天空を覆い,深い繋が⽴ち込め,⼤地震が10⽇も続いた後,雲の上から弁天様が従えた四天王や⾵神雷神が空から⽯を降らせ,海からは真っ⾚な⽕柱とともに岩が噴き出して江の島は誕⽣した」という記述がある.地質学的に⾒て,この伝承の⽰す⾃然現象とは,具体的にはどのような成因によるものなのか,現地でご一考頂くことをお薦めしたい.
引用文献:七山ほか2024,GSJ 地質ニュース Vol. 13 No. 5
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