講演情報
[T4-P-2]秋田県八峰町に産する上部中新統~鮮新統「素波里安山岩」西部岩体のSr-Nd-Hf同位体組成に関する予察的報告
*相澤 正隆1、安井 光大2、畠山 富昌3、井村 匠4、鈴木 和人5、鈴木 悟5、西出 静5、林 信太郎6 (1. 北海道教育大学札幌校、2. ハッピーマッシュ(株)、3. 奥山ボーリング(株)、4. 山形大学、5. 八峰白神ジオパークガイドの会、6. 秋田大学名誉教授)
キーワード:
八峰白神ジオパーク、素波里安山岩、島弧横断変化、火山列
はじめに
東北日本弧の第四紀火山岩類は,アルカリ元素含有量や斑晶鉱物組み合わせにより,海溝側から青麻-恐,脊梁,森吉および鳥海火山列に分帯される[1, 2]。著者らは,日本海形成後の下部地殻組成とスラブ由来流体の系統的な時空間変遷を調べるため,新第三紀~第四紀火山岩について,火山列に関する岩石学的・地球化学的特徴を再検討している。背弧側の火山岩類においては,地理的に森吉と鳥海火山列に属する鮮新世以降の火山岩類では,従来の指標に加え,両者はSr-Nd同位体組成においても明瞭に区別されることが分かった[3]。しかし新第三系の火山岩類は,いわゆる「グリーンタフ変質」を往々にして被っているため,変質による元素移動の影響を受けやすいアルカリ元素やSr同位体ではなく,変質に強いNd-Hf同位体による分帯の特徴の抽出に取り組んでいる。本研究では秋田県北西部に分布する素波里安山岩類を対象に,Sr-Nd-Hf同位体組成の予察的な検討結果を報告する。
素波里安山岩類
秋田県の北西部に分布する素波里安山岩類は,藤里町~八峰町の東西約30 kmに及んで点在し,藤里町東部に小規模に分布する最東部岩体,藤里町~能代市北部に分布する東部岩体,さらに八峰町に分布する西部岩体に区分される。本岩体の全岩K-Ar年代[4, 5]は,岩体ごとにそれぞれ4.7 Ma,6.6~3.9 Ma,9.7~3.7 Maであり,後期中新世から鮮新世にまたがる活動年代を示す。安山岩と記載されているものの,主成分組成は玄武岩からデイサイトと幅広いため,本発表では素波里安山岩類と呼称する。
本研究では,西部岩体に属する八峰町泊川河口部周辺の玄武岩と、同町の景勝地である白瀑のデイサイトについて扱った。前者は枕状溶岩として産出し,ピローの断面にはhollowおよびrindが確認できる。他方corrugationが発達していないことから,かなり粘性の低い高温溶岩流だったと推測される。斑晶は斜長石,かんらん石,単斜輝石である。かんらん石は大部分が変質しているが,一部新鮮な斑晶も残存している。白瀑のデイサイトは,火山角礫岩~凝灰角礫岩の産状を示すが,礫支持でモノミクトであることから,自破砕を被っている可能性もある。鏡下では斑晶量が少ないハイアロピリティック組織を示す。斑晶は大部分が斜長石で,ごくわずかに単斜輝石と不透明鉱物を含む。角閃石や黒雲母は確認されなかった。斜長石は自形結晶が多いが,割れたり融食したような産状の結晶を少量含む。白瀑試料の主成分組成はSiO2=65wt%で,デイサイト組成である。
Sr-Nd-Hf同位体組成
白瀑試料のSr-Nd同位体組成は,それぞれ0.703672,0.512966であり,先行研究[4]の組成範囲内(0.70332-0.70360,0.51294-0.51299)に収まっている。素波里安山岩類は,地理的には森吉火山列と鳥海火山列の中間的位置にある。このことはTAS図においても認められ,素波里安山岩は両火山列の中間的なアルカリ量を示す。全岩Sr-Nd同位体組成においても,白瀑試料は森吉・鳥海のどちらの火山列にも属さず,両者の中間的位置にプロットされる。また,Hf同位体組成は0.283296であり,全岩Nd-Hf同位体組成で見ると,白瀑試料は下北半島の第四紀火山岩類[6]と同様に枯渇した特徴で,その傾向は岩手火山岩や三滝玄武岩[7]より顕著である。
先行研究[8]において,日本海形成後の島弧横断変化の再配置は約8 Ma以降に起こったと論じられているが,素波里安山岩類の位置,Sr-Nd同位体組成,およびアルカリ元素含有量における白瀑試料の中間的位置づけは,後期中新世のマグマ発生場が,現在よりも連続的であったことを示す可能性がある。今後,さらに周辺の同時代の火山岩類についても同様の同位体岩石学的検討を行う。
[1]高橋正樹・藤縄明彦(1983)三鉱学会(弘前)講演要旨集.
[2]中川光弘・霜鳥洋・吉田武義(1986)岩鉱, 81.
[3]相澤正隆・安井光大・井村匠(2021)地球科学, 75.
[4]中嶋聖子・周藤賢治・加々美寛雄・大木淳一・板谷徹丸(1995)地質学論集, 44.
[5]土谷信之(1999)地調月報, 50.
[6]相澤正隆・安井光大(2021)日本地球化学会第68回年会講演要旨集.
[7]Hanyu T., Tatsumi Y., Nakai S., Chang Q., Miyazaki T., Sato K., Tani K., Shibata T. and Yoshida T.(2006)G3, 7.
[8]Tamura, S. and Shuto K.(1989)J.Min.Petrol.Econ.Geol., 84.
東北日本弧の第四紀火山岩類は,アルカリ元素含有量や斑晶鉱物組み合わせにより,海溝側から青麻-恐,脊梁,森吉および鳥海火山列に分帯される[1, 2]。著者らは,日本海形成後の下部地殻組成とスラブ由来流体の系統的な時空間変遷を調べるため,新第三紀~第四紀火山岩について,火山列に関する岩石学的・地球化学的特徴を再検討している。背弧側の火山岩類においては,地理的に森吉と鳥海火山列に属する鮮新世以降の火山岩類では,従来の指標に加え,両者はSr-Nd同位体組成においても明瞭に区別されることが分かった[3]。しかし新第三系の火山岩類は,いわゆる「グリーンタフ変質」を往々にして被っているため,変質による元素移動の影響を受けやすいアルカリ元素やSr同位体ではなく,変質に強いNd-Hf同位体による分帯の特徴の抽出に取り組んでいる。本研究では秋田県北西部に分布する素波里安山岩類を対象に,Sr-Nd-Hf同位体組成の予察的な検討結果を報告する。
素波里安山岩類
秋田県の北西部に分布する素波里安山岩類は,藤里町~八峰町の東西約30 kmに及んで点在し,藤里町東部に小規模に分布する最東部岩体,藤里町~能代市北部に分布する東部岩体,さらに八峰町に分布する西部岩体に区分される。本岩体の全岩K-Ar年代[4, 5]は,岩体ごとにそれぞれ4.7 Ma,6.6~3.9 Ma,9.7~3.7 Maであり,後期中新世から鮮新世にまたがる活動年代を示す。安山岩と記載されているものの,主成分組成は玄武岩からデイサイトと幅広いため,本発表では素波里安山岩類と呼称する。
本研究では,西部岩体に属する八峰町泊川河口部周辺の玄武岩と、同町の景勝地である白瀑のデイサイトについて扱った。前者は枕状溶岩として産出し,ピローの断面にはhollowおよびrindが確認できる。他方corrugationが発達していないことから,かなり粘性の低い高温溶岩流だったと推測される。斑晶は斜長石,かんらん石,単斜輝石である。かんらん石は大部分が変質しているが,一部新鮮な斑晶も残存している。白瀑のデイサイトは,火山角礫岩~凝灰角礫岩の産状を示すが,礫支持でモノミクトであることから,自破砕を被っている可能性もある。鏡下では斑晶量が少ないハイアロピリティック組織を示す。斑晶は大部分が斜長石で,ごくわずかに単斜輝石と不透明鉱物を含む。角閃石や黒雲母は確認されなかった。斜長石は自形結晶が多いが,割れたり融食したような産状の結晶を少量含む。白瀑試料の主成分組成はSiO2=65wt%で,デイサイト組成である。
Sr-Nd-Hf同位体組成
白瀑試料のSr-Nd同位体組成は,それぞれ0.703672,0.512966であり,先行研究[4]の組成範囲内(0.70332-0.70360,0.51294-0.51299)に収まっている。素波里安山岩類は,地理的には森吉火山列と鳥海火山列の中間的位置にある。このことはTAS図においても認められ,素波里安山岩は両火山列の中間的なアルカリ量を示す。全岩Sr-Nd同位体組成においても,白瀑試料は森吉・鳥海のどちらの火山列にも属さず,両者の中間的位置にプロットされる。また,Hf同位体組成は0.283296であり,全岩Nd-Hf同位体組成で見ると,白瀑試料は下北半島の第四紀火山岩類[6]と同様に枯渇した特徴で,その傾向は岩手火山岩や三滝玄武岩[7]より顕著である。
先行研究[8]において,日本海形成後の島弧横断変化の再配置は約8 Ma以降に起こったと論じられているが,素波里安山岩類の位置,Sr-Nd同位体組成,およびアルカリ元素含有量における白瀑試料の中間的位置づけは,後期中新世のマグマ発生場が,現在よりも連続的であったことを示す可能性がある。今後,さらに周辺の同時代の火山岩類についても同様の同位体岩石学的検討を行う。
[1]高橋正樹・藤縄明彦(1983)三鉱学会(弘前)講演要旨集.
[2]中川光弘・霜鳥洋・吉田武義(1986)岩鉱, 81.
[3]相澤正隆・安井光大・井村匠(2021)地球科学, 75.
[4]中嶋聖子・周藤賢治・加々美寛雄・大木淳一・板谷徹丸(1995)地質学論集, 44.
[5]土谷信之(1999)地調月報, 50.
[6]相澤正隆・安井光大(2021)日本地球化学会第68回年会講演要旨集.
[7]Hanyu T., Tatsumi Y., Nakai S., Chang Q., Miyazaki T., Sato K., Tani K., Shibata T. and Yoshida T.(2006)G3, 7.
[8]Tamura, S. and Shuto K.(1989)J.Min.Petrol.Econ.Geol., 84.
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