講演情報
[T4-P-4]糸魚川フォッサマグナミュージアムにおける体験型の展示物製作とジオパーク活動
*小河原 孝彦1、茨木 洋介1、郡山 鈴夏1、香取 拓馬1、竹之内 耕1 (1. フォッサマグナミュージアム)
キーワード:
糸魚川ユネスコ世界ジオパーク、フォッサマグナミュージアム、体験型展示、すごろく
近年,科学系博物館の展示として,来館者が観覧する「Hands-off」の展示物だけではなく,来館者が手に触れ体験することができる「Hands-on」の展示物が増加している.このような展示は,朴・花里(2005)により,①体験型:全身や五感を利用して体験できる展示,②参加型:ボタンを押すと映像が流れるなど操作が簡易な展示,③観覧型:パネルを見るなど視覚情報のみに頼る展示,に分類されている.例えば,フォッサマグナミュージアムの常設展にある代表的な展示物は,①体験型:ヒスイと花こう岩や木材との重さを持って比較できる展示物,回転寿司のレーンを応用し皿を取ることでモニターにクイズが表示され回答できる展示物,②参加型:ボタンを押すとジオラマに照明がつく展示物や映像が流れる展示物,③観覧型:パネル展示や大部分の標本展示,がある.
科学系博物館の展示として「Hands-on」の展示物が注目される理由は,朴・花里(2005)により来館者の行動分析としてまとめられている.それによれば,展示物の利用率は,観覧型の展示物が12%なのに対し,参加型は22%,体験型は70%と高確率である.また,回帰利用の回数は,観覧型の展示物が0.2回なのに対し,参加型は0.5回,体験型は5.6回と同じ展示物を体験型の場合は何度も利用していることが分かる.つまり,従来の観覧型の展示物は利用率や回帰率が低く,参加型や体験型の「Hands-on」の展示物をどのように増加させるかが展示物の設計において重要である.
この発表では近年のフォッサマグナミュージアムにおいて実施した企画展において,体験型の展示物を製作した2例を紹介し,ジオパーク活動における展示の方向性について議論する.
2023年7月15日から9月3日の期間,観光DMOである糸魚川市観光協会が実施した石フェスに合わせ,特別展「石のまち糸魚川展」を開催した.この特別展では,ヒスイを始め糸魚川の石を楽しみながら学び,地質の多様性や保護保全の必要性について考える展示を意図し,どのような展示手法が最適かを学芸員内で議論した結果「Hands-on」の展示物を全面的に採用し,来館者が主体的に行動しながら石の名前を知ることができる床面展示,3Dプリンタを活用し本来であれば触れることのできない微化石に触ることができる展示を実現した.床面展示では,床面に貼られた質問にYes,No形式で何回か答えていくと石の解説のパネルに到着するように展示物を作成した(図1).これによって,来場者が持込んだ石をセルフ鑑定できるようになり,体を動かす体験型の展示物でありつつ,来場者の自らが所持している石の名前が知りたいという要望にも答えられるようになっている.また,チャートに含まれる放散虫の3D模型を製作し,目に見えない微化石を手に取って確認できるように工夫した.
2024年はフォッサマグナミュージアムが開館し30周年となる.2024年4月21日から6月30日の期間で特別展「ありがとう30年~すごろくでたどるフォッサマグナミュージアム30年の歩みとこれから~」を開催した.過去を振り返る展示は,来場者数の変化や年ごとのできごとを展示パネルに羅列する観覧型の展示物が一般的である.30周年記念特別展では,このような内向きになりやすい展示をすごろく形式とすることで,体験型の展示物とした(図2).すごろくのマスにその年のフォッサマグナミュージアムや糸魚川ジオパークのできごとを写真と共に掲載し,興味を持たせるために日本や世界でおきた主なできごとを合わせて記載した.マスはA3用紙をラミネートした物を二枚貼り合わせ,床面にOPPテープで固定し,互いのマスを模様入りのクラフトテープで繋いだ.マスの周囲に展示ケースを設置し出来事に合わせた展示物を設置した.すごろくで利用するサイコロは20cmのぬいぐるみ製の物を2個用意した.すごろく形式の展示は,特に小学生に対し好評であり,教育旅行に来ている生徒が大人数で体験している様子が多く見られた.
ジオパークにおいて,博物館やビジターセンターは活動の中心施設として機能するが,展示物を展示パネルで紹介する古典的な「Hands-off」の展示が主である施設が多いと考えられる.「Hands-on」の展示手法には,体験型や参加型展示が来館者の利用率や回帰利用の回数増加に寄与するなどメリットも大きい.コストやメンテナンスの問題はあるが,各施設が観覧型の展示からどのように脱却するか今後の課題と考えられ,よりよい展示手法をジオパークネットワーク内に浸透させる活動が継続して必要である.
参考文献:朴 鍾来, 花里 俊廣, 科学系博物館における展示手法と利用者の行動特徴からみた展示の分析, 日本建築学会計画系論文集, 2005, 70 巻, 593 号, p. 57-63.
科学系博物館の展示として「Hands-on」の展示物が注目される理由は,朴・花里(2005)により来館者の行動分析としてまとめられている.それによれば,展示物の利用率は,観覧型の展示物が12%なのに対し,参加型は22%,体験型は70%と高確率である.また,回帰利用の回数は,観覧型の展示物が0.2回なのに対し,参加型は0.5回,体験型は5.6回と同じ展示物を体験型の場合は何度も利用していることが分かる.つまり,従来の観覧型の展示物は利用率や回帰率が低く,参加型や体験型の「Hands-on」の展示物をどのように増加させるかが展示物の設計において重要である.
この発表では近年のフォッサマグナミュージアムにおいて実施した企画展において,体験型の展示物を製作した2例を紹介し,ジオパーク活動における展示の方向性について議論する.
2023年7月15日から9月3日の期間,観光DMOである糸魚川市観光協会が実施した石フェスに合わせ,特別展「石のまち糸魚川展」を開催した.この特別展では,ヒスイを始め糸魚川の石を楽しみながら学び,地質の多様性や保護保全の必要性について考える展示を意図し,どのような展示手法が最適かを学芸員内で議論した結果「Hands-on」の展示物を全面的に採用し,来館者が主体的に行動しながら石の名前を知ることができる床面展示,3Dプリンタを活用し本来であれば触れることのできない微化石に触ることができる展示を実現した.床面展示では,床面に貼られた質問にYes,No形式で何回か答えていくと石の解説のパネルに到着するように展示物を作成した(図1).これによって,来場者が持込んだ石をセルフ鑑定できるようになり,体を動かす体験型の展示物でありつつ,来場者の自らが所持している石の名前が知りたいという要望にも答えられるようになっている.また,チャートに含まれる放散虫の3D模型を製作し,目に見えない微化石を手に取って確認できるように工夫した.
2024年はフォッサマグナミュージアムが開館し30周年となる.2024年4月21日から6月30日の期間で特別展「ありがとう30年~すごろくでたどるフォッサマグナミュージアム30年の歩みとこれから~」を開催した.過去を振り返る展示は,来場者数の変化や年ごとのできごとを展示パネルに羅列する観覧型の展示物が一般的である.30周年記念特別展では,このような内向きになりやすい展示をすごろく形式とすることで,体験型の展示物とした(図2).すごろくのマスにその年のフォッサマグナミュージアムや糸魚川ジオパークのできごとを写真と共に掲載し,興味を持たせるために日本や世界でおきた主なできごとを合わせて記載した.マスはA3用紙をラミネートした物を二枚貼り合わせ,床面にOPPテープで固定し,互いのマスを模様入りのクラフトテープで繋いだ.マスの周囲に展示ケースを設置し出来事に合わせた展示物を設置した.すごろくで利用するサイコロは20cmのぬいぐるみ製の物を2個用意した.すごろく形式の展示は,特に小学生に対し好評であり,教育旅行に来ている生徒が大人数で体験している様子が多く見られた.
ジオパークにおいて,博物館やビジターセンターは活動の中心施設として機能するが,展示物を展示パネルで紹介する古典的な「Hands-off」の展示が主である施設が多いと考えられる.「Hands-on」の展示手法には,体験型や参加型展示が来館者の利用率や回帰利用の回数増加に寄与するなどメリットも大きい.コストやメンテナンスの問題はあるが,各施設が観覧型の展示からどのように脱却するか今後の課題と考えられ,よりよい展示手法をジオパークネットワーク内に浸透させる活動が継続して必要である.
参考文献:朴 鍾来, 花里 俊廣, 科学系博物館における展示手法と利用者の行動特徴からみた展示の分析, 日本建築学会計画系論文集, 2005, 70 巻, 593 号, p. 57-63.
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