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[T4-P-8]喜界島の隆起サンゴ礁が形成した地下の水循環システムからみる「地質遺産」

*天野 孝保1、利部 慎1 (1. 長崎大学)
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キーワード:

琉球石灰岩、地下水、サンゴ礁、水循環システム、喜界島

喜界島は琉球弧の外帯に位置し、隆起サンゴ礁の島として知られる鹿児島県の離島である[1]。島の基盤は島尻層、上位には琉球石灰岩が広く覆い、明瞭な河川はなく雨水などは琉球石灰岩地帯の地下に伏没する。島尻層との間の不整合面を流動した後、湧水として断層崖や段丘崖二層などに多く分布する[1]。また喜界島は、琉球海溝に近接することで隆起が顕著であり、その速度は、最終間氷期最盛期以降で2.1~2.3 m/kyr と琉球列島で最も大きい[2] 。その独特な隆起サンゴ礁地形を利用して喜界町は日本ジオパークの認定を目指している。さらに喜界島の地質的特徴と気候を活かした地下ダムは日本の限られた地域でしか見ることかできず、ひとつの観光資源としても注目されている。現在は新しい地下ダムの建設が進んでいるが、地下の水循環システムへの影響はあまりよくわかっていない。地下水は世界最大の淡水資源であり、その動態や季節変動など喜界島の水循環システムに関する科学的理解は重要である[3] 。本研究では、喜界島全体の地質学的特性と地下の水循環システムの関係を知るため湧水における栄養塩循環と季節変動による環境負荷について把握することを目的とした。南西諸島の喜界島では降水量が多く、島の特性から降雨が環境中の栄養塩などの環境負荷を地下水環境へ流し込んでいる可能性がある。隆起サンゴ礁の石灰岩地質では、水循環の速度や湧水の分布が特徴的であり、島嶼など閉鎖的環境の水域では環境中からの栄養塩負荷が大きいかもしれない[4]。調査は、喜界島に降水するほぼ全ての水が流れ込む隆起サンゴ礁地形の琉球石灰岩の性質を利用し、花良治、坂嶺、小野津、伊砂、滝川の5地点で長期的な湧水のモニタリングを行った。2023年の調査では可能な限り週1回の頻度で採水し、2024年は月1回の頻度で採水を行った。⽔質分析では、無機溶存イオン成分であるナトリウムイオン(Na⁺)、カリウムイオン(K⁺)、マグネシウムイオン(Mg²⁺)、カルシウムイオン(Ca²⁺)、塩化物イオン(Cl⁻)、硝酸イオン(NO₃⁻)、硫酸イオン(SO₄²⁻)、重炭酸イオン(HCO₃⁻)8項⽬の測定と水温を記録した。2023年の夏期に行った湧水調査では、喜界島のEC値(電気伝導度≒溶存成分量の相対的な大きさ)は高く、500~900μS/cmを示していた。湧水が高いEC値有しながらも季節変化をしていることを踏まえると、喜界島の湧水は、基本的には①比較的大きな流動規模を有した地下水で構成され、②最近の雨水の影響も大きく受けている可能性が高いことが示唆された。さらに、①と②の成分が混合し湧出していることが想定される。また、一部の湧水においてはその水質特性から非常に速い水循環を有することが推察されたため季節変動による環境変化を捉えることが期待できる。花良治地点の湧水は時期によって枯渇しており、水循環の量や速度は地点ごとに異なっている可能性が考えられる。地下水の水質は長期的な大雨が降りやすい台風イベントや渡り鳥など生物由来の自然環境負荷もしくはそれらが同時に起こった時に影響を与えている可能性が高いことが示唆された。さらに、地下の水循環は特徴的で速いスピードで循環しており、小島で降水量の多い喜界島では環境中から付与される栄養塩が湧水として検出された可能性がある。今後建設される地下ダムと水循環システムの関係は、喜界島の水資源の持続可能な利用に貢献でき、日本ジオパークを目指す喜界島にとって重要な地質遺産である。

[1] 野間泰二, 1978, 喜界島の地下水一奄美諸島の水理地質(1)-. 地調月報, 145-157.[2] Inagaki, M. and Omura, A., 2006, Uranium–series age of the highest marine terrace of the Upper Pleistocene on Kikai Island, central Ryukyus, Japan. Quat. Res(. Daiyonki-Kenkyu), 45, 41–48.[3] Tsujino, M. Hirabayashi, S. Miyairi,Y. Ijichi,T. Miyajima,T. Yokoyama,Y., 2024, Groundwater dynamics on small carbonate islands: Insights from radiocarbon and stable isotopes in Kikai Island, Southwest Japan. Science of The Total Environment, 921.[4] 黄 光偉, 磯部 雅彦, 2007, 渡り鳥集団飛来による閉鎖水域への栄養塩負荷推定に関する研究. 土木学会論文集B, 249-254.

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