講演情報

[T16-P-1]チベット高原南端タコーラ地域における中新統~更新統の堆積環境と気候条件の変遷

*島田 誠明1、吉田 孝紀1、ギャワリ バブラム2 (1. 信州大学、2. ポカラ大学)
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キーワード:

古土壌、古気候、中新世~更新世、南アジア・モンスーン、チベット高原

【研究目的と手法】インド亜大陸とユーラシアプレートの衝突によって隆起したヒマラヤ山脈の形成はアジアのモンスーン気候に大きな影響を及ぼした.しかし,ヒマラヤ山脈の上昇とモンスーンの開始,強化の関係について議論が不十分であり,検討が必要である[1].チベット高原南端に位置するタコーラ地域は周囲の山脈により南西モンスーン風が遮られ,レインシャドウの形成により乾燥し,現在はステップ気候に区分される[2].このタコーラ地域には新第三系から第四系の陸成層が分布し[3],これらに含まれる古土壌からはチベット高原南端における気候区の変遷を記録していることが期待される.そこで本研究では,タコーラ地域,Ghilingに分布する上部中新統から更新統のThakkhola層において約400mの柱状図を作成し,堆積相解析と古土壌学的検討を行い長期的な環境変化の解読を試みた.なお土壌層位については,有機物が集積した暗灰色の土層であるA層,A層の下位に発達する粘土が集積したB層,B層内部でより粘土が集積したBt層,初生的な構造を残すC層に分類した.
【堆積相解析】本研究地域に分布するThakkhola 層において,8つの堆積組相が区分された.(1)堆積組相Aは砂岩層に乏しく,塊状で不淘汰な不鮮明に逆級化する厚い礫岩が特徴であり,重力流による礫が優勢な網状河川の堆積物と解釈される.(2)堆積組相Bはシルト岩層をほとんど挟まず,薄いレンズ状の斜交層理砂岩と,基質支持の逆級化した厚い礫岩が特徴で,礫が優勢な網状河川の堆積物と解釈される.(3)堆積組相Cは斜交層理をなす礫岩と,細粒から粗粒の薄い砂岩が積層した砂岩層が特徴で,礫から砂が優勢な蛇行河川の堆積物と解釈される.(4)堆積組相Dは砂岩層の割合に乏しく,基質支持で斜交層理をなす厚い礫岩とその上位のシルト岩が特徴で,氾濫原を伴う礫が優勢な網状河川の堆積物と解釈される.(5)堆積組相Eはシルト岩に乏しく,細粒から極粗粒の厚い砂岩と斜交層理をなす礫岩が特徴で,礫から砂が優勢な網状河川の堆積物と解釈される.(6)堆積組相Fは上方粗粒化する厚い砂岩が特徴で,砂が優勢な網状河川の堆積物と解釈される.(7)堆積組相Gは厚いシルト岩と,その間の薄い極細粒砂岩から礫岩が特徴で,氾濫原や湖沼環境の堆積物と解釈される.(8)堆積組相Hは礫岩,砂岩,シルト岩からなり全体的に上方細粒化する.現地の観察で露頭の状態が悪く構造が不明瞭であったため堆積環境の推定は困難であった.
【古土壌の検討】主に氾濫原や湖沼,バーや自然堤防において古土壌が認められた.柱状図中央部の主にシルト岩を母材とした古土壌からは,A,B層への土層分化,鉄酸化物で置換された細根,団粒の形成,集積粘土によって特徴づけられ,グライ化したInceptisol(若年期の土壌)に相当する.明瞭な土層分化,団粒や集積粘土は温暖な気候で形成される[4].一方で柱状図上部の主に砂岩を母材とした古土壌からは,根の周囲に炭酸カルシウムが析出したリゾリスで特徴づけられ,Entisol(最初期の土壌)に分類される.このようなリゾリスは水はけの良い土壌で草本植物が発達した証拠であり, 乾燥した気候で形成されることが多い[4].
【考察】Thakkhola層の堆積相から,下部から上部にかけて礫岩の割合が減少,砂岩の割合が増加する傾向が示された.大まかに下部より,礫が優勢な網状河川堆積物,礫と砂が優勢な蛇行河川堆積物,氾濫原を伴う礫が優勢な網状河川堆積物,礫から砂が優勢な網状河川堆積物,砂が優勢な網状河川堆積物に区分され,一連の堆積環境の変遷が読み取れる.また柱状図の中央部と上部では性質の異なる古土壌が認められ,周囲の山脈配置の変化に伴う地域的な環境変化を反映している可能性がある.

[1]酒井治孝(2005)地質学雑誌,111,701-716.
[2]Ramchandra et al. (2016) Theoretical and Applied Climatology, 125, 799-808.
[3]Adhikari, R. B. (2009) Ph.D. Thesis, University of Vienne, Austria, 200 p.
[4]Retallack, G.J. (2001) Blackwell Sci. Publ., Oxford, 404 p.

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