講演情報
[T16-P-2]モンゴル国ゴビ砂漠上部白亜系年代制約の試み: 恐竜類歯化石アパタイトU-Pb年代測定
*西村 玲1、千葉 謙太郎2、青木 一勝3、小木曽 哲4 (1. 岡山理科大学大学院 理工学研究科、2. 岡山理科大学 生物地球学部、3. 岡山理科大学 基盤教育センター、4. 京都大学 人間・環境学研究科)
キーワード:
恐竜、アパタイト、U-Pb、上部白亜系
モンゴル国ゴビ砂漠に分布する上部白亜系からは,恐竜類を代表とする脊椎動物化石が多産することが知られている.しかし,これらの地層は,層厚が薄く非常に広範囲に点在しているだけでなく,年代決定に有用な示準化石や火山灰層を含んでおらず,現在でも層序関係や堆積年代に関して議論が続いている.この問題に対し,我々のグループでは,カリーチや恐竜類歯化石を対象としたU-Pb年代測定に基づいて検討を行っている(Kurumada et al., 2020; Tanabe et al., 2023).歯を構成するアパタイトは,化石化過程でウランを取り込むためU-Pb年代測定法を適用可能であると考えられている(Sano et al., 2006; Kohn, 2008; Greene et al., 2018; Barreto et al., 2022; Aoki et al., 2024).本発表では,未だ年代軸の設定が不十分なモンゴル上部白亜系から産出した恐竜類歯化石を用いたアパタイトU-Pb 年代測定について報告する.
本研究では,上部白亜系バインシレ層が分布する,バインシレ(10点),シネウスクドゥクⅡ(6点),バイシンツァフ(1点)から採取された比較的大型で保存状態が良好な恐竜類歯化石17点を分析試料とした.このうち,6点の試料に対しては,化石の変質の影響を考慮するためにY濃度の二次元マッピング(Aoki et al., 2024)を京都大学所有の Micro-XRF で行った.さらに,全標本に対して,本学所有のLA-ICP-MS を用いて,微量元素分析,及びU-Pb年代測定を行った.
Yマッピング測定の結果,分析を行った6試料すべてで全体的にY濃度が高く,また均一化していることが観察された.微量元素分析結果はYマッピング測定の結果を支持し,17点の試料中のすべての測定箇所で Y 濃度が 1500 µg/g 以上と高かった.さらに,全17試料の希土類元素パターン(PAASで規格化)は,化石の産出地点や層準の違いに関わらず,互いに類似していることも観察された.これらの結果は,ネメグト層堆積年代と整合的な年代値が得られた歯化石に見られた,低Y濃度(338~589 µg/g),不均一なY濃度分布,変異の大きい希土類元素パターンとは対象的であった(Tanabe et al., 2023; Aoki et al., 2024).さらに,全17試料のうち,比較的Y濃度が低く,分布が不均一な2試料に対しU-Pb年代測定を行ったところ,27~50 Maと,バインシレ層の堆積年代として想定される後期白亜紀よりも著しく若い年代値が得られた.
以上の結果から,本研究で用いた試料すべてが変質の影響を強く受けており,得られたアパタイトU-Pb年代は実際の化石化年代よりも若返っていることが強く示唆される.さらに,希土類元素パターンから,バインシレ層分布域では化石が広範囲に一様な変質を受けている可能性が示唆された.今後は今回のバインシレ層分布域外から産出した化石試料を用いてアパタイトU-Pb年代測定を行うだけでなく,カリーチが産出せずアパタイトU-Pb法以外による年代制約が困難と考えられる上部白亜系ジャドフタ層や,すでにアパタイトU-Pb年代測定の成果が出ているネメグト層(Tanabe et al., 2023)において分析を行うことで,モンゴル上部白亜系の堆積年代をより包括的に制約していくことを目指す.
参考文献
Aoki et al., 2024. Naturalistae, 23, 7-13; Barreto et al., 2020. Journal of South American Earth Science, 116, 103774; Green et al., 2018. Chemical Geology, 493, 1-15; Kohn, 2008. Geochimica et Cosmochimica Acta, 72(15), 3758-3770; Kurumada et al., 2020. Terra Nova, 32(4), 246-252. Sano et al., 2006, Geochemical Journal, 40, 171-179; Tanabe et al., 2023. Island Arc, 32(1), e12488.
本研究では,上部白亜系バインシレ層が分布する,バインシレ(10点),シネウスクドゥクⅡ(6点),バイシンツァフ(1点)から採取された比較的大型で保存状態が良好な恐竜類歯化石17点を分析試料とした.このうち,6点の試料に対しては,化石の変質の影響を考慮するためにY濃度の二次元マッピング(Aoki et al., 2024)を京都大学所有の Micro-XRF で行った.さらに,全標本に対して,本学所有のLA-ICP-MS を用いて,微量元素分析,及びU-Pb年代測定を行った.
Yマッピング測定の結果,分析を行った6試料すべてで全体的にY濃度が高く,また均一化していることが観察された.微量元素分析結果はYマッピング測定の結果を支持し,17点の試料中のすべての測定箇所で Y 濃度が 1500 µg/g 以上と高かった.さらに,全17試料の希土類元素パターン(PAASで規格化)は,化石の産出地点や層準の違いに関わらず,互いに類似していることも観察された.これらの結果は,ネメグト層堆積年代と整合的な年代値が得られた歯化石に見られた,低Y濃度(338~589 µg/g),不均一なY濃度分布,変異の大きい希土類元素パターンとは対象的であった(Tanabe et al., 2023; Aoki et al., 2024).さらに,全17試料のうち,比較的Y濃度が低く,分布が不均一な2試料に対しU-Pb年代測定を行ったところ,27~50 Maと,バインシレ層の堆積年代として想定される後期白亜紀よりも著しく若い年代値が得られた.
以上の結果から,本研究で用いた試料すべてが変質の影響を強く受けており,得られたアパタイトU-Pb年代は実際の化石化年代よりも若返っていることが強く示唆される.さらに,希土類元素パターンから,バインシレ層分布域では化石が広範囲に一様な変質を受けている可能性が示唆された.今後は今回のバインシレ層分布域外から産出した化石試料を用いてアパタイトU-Pb年代測定を行うだけでなく,カリーチが産出せずアパタイトU-Pb法以外による年代制約が困難と考えられる上部白亜系ジャドフタ層や,すでにアパタイトU-Pb年代測定の成果が出ているネメグト層(Tanabe et al., 2023)において分析を行うことで,モンゴル上部白亜系の堆積年代をより包括的に制約していくことを目指す.
参考文献
Aoki et al., 2024. Naturalistae, 23, 7-13; Barreto et al., 2020. Journal of South American Earth Science, 116, 103774; Green et al., 2018. Chemical Geology, 493, 1-15; Kohn, 2008. Geochimica et Cosmochimica Acta, 72(15), 3758-3770; Kurumada et al., 2020. Terra Nova, 32(4), 246-252. Sano et al., 2006, Geochemical Journal, 40, 171-179; Tanabe et al., 2023. Island Arc, 32(1), e12488.
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