講演情報

[T16-P-9]北海道西部に分布する黒松内層の浮遊性有孔虫化石群集(予報)

*山﨑 誠1、小澤 周3、根本 直樹2、嶋田 智恵子 (1. 秋田大学大学院国際資源学研究科、2. 弘前大学大学院理工学研究科、3. 株式会社NJS)
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キーワード:

後期鮮新世、前期更新世、浮遊性有孔虫、日本海

日本海沿岸に沿って分布する最上部新生界は,石油坑井の層序検討に伴って古くから研究が行われてきた.特に上部鮮新統から最下部更新統の海成堆積岩類は微化石を豊富に含むことから,層序学的検討とともに堆積当時の環境復元に有用である.近年の地球温暖化傾向に伴って,後期鮮新世の温暖期(mid-Piacenzian warm period,例えばMcClymont, et al., 2023)や,その後の北半球高緯度海域の氷床拡大(Miller et al., 2020)は,地球環境変動の仕組みを理解するうえで重要性を増している.鮮新世末の北半球高緯度海域での氷床拡大に伴い,日本海の古環境も貝形虫の深海性温暖種の漸減(新潟県北部,入月・石田,2007)や,遷移帯~亜熱帯種の放散虫化石群集減少(日本海中央部,Matsuzaki et al., 2018)など,顕著な寒冷化傾向を示す.一方で,鮮新世末から更新世初めにかけての有孔虫化石群集からは,氷床拡大に伴う浅海化による表層水への低塩分水の影響が示唆されるも,中層・低層水の寒冷化の傾向は顕著ではない(秋田県北部,根本・佐藤,2013).本研究では日本海側地域の鮮新世末から更新世初めの寒冷傾向を捉えるために調査地域をより北方に展開することとし,北海道西部黒松内地域で,珪藻化石による地質年代の検討と,浮遊性有孔虫化石の群集解析の結果に基づいて,鮮新世末から更新世始めの古海洋環境について検討を行ったので,その予察結果を報告する.
 北海道西部に分布する鮮新統から更新統は,岩相の類似した地層が多いとともに岩相の側方変化が著しいために層位学的に幾つかの見解があり,本研究では岩相および微化石層序の検討から黒松内低地帯の層序を総括した椿原ほか(1989)を踏襲する.調査は,池谷・林(1982)によって再定義された黒松内層模式地の朱太川河岸の大崖を対象とした.同区間は,黒松内層朱太砂岩シルト岩部層に属する.調査層序区間下部では,暗青灰色の塊状細粒〜中粒砂岩に青灰色シルト岩の薄層が狭在する.中部は,淘汰の悪い暗青灰色中粒砂岩よりなり,珪長質細粒凝灰岩が狭在するほか,暗青灰色の凝灰質細粒〜中粒砂岩とシルト岩より構成される斜交層理も観察される.上部は,生物擾乱の発達する暗青灰色〜暗緑灰色の砂質シルト岩よりなり,一部貝化石片を含む.中部から上部にかけては団塊がしばしば狭在する.
 浮遊性有孔虫化石層序を検討するために43試料を採集し,調査層序区間の上部10層準でその産出が確認され,6属13種が同定された.Globigerina bulloidesTurborotalita quinquelobaNeogloboquadrina pachyderma (dextral)が普遍的に産し,Globoconella inflata praeinflata, Neogloboquadrina asanoiが随伴する.これらの産出から,調査層序区間上部は,米谷(1978)のN. pachyderma (D)/G. orientalis帯の下部に対比され,先行研究の尾田(1981)と椿原ほか(1989)と調和的な結果が得られた.
 珪藻化石層序を検討するために調査層序区間から29試料を検討した結果,Yanagisawa and Akiba (1998)のN. koizumiiN. kamtschatica帯およびN. koizumii帯が認定され,同区間は上部鮮新統から下部更新統に対比される(嶋田ほか,投稿中).講演では,珪藻化石層序より得られた地質年代に基づいて浮遊性有孔虫に基づく調査層序区間上部の海洋環境変動について報告する.

引用文献: 池谷・林, 1982, 地質雑, 88, 613–632; 入月・石田, 2007, 化石, 82, 13–20; 米谷, 1978, 日本の新生代地質, 35–60; Matsuzaki et al., 2018, Prog. Earth Planet. Sci., 5, 54; McClymont et al., 2023, Rev. Geophys., 61, e2022RG000793; Miller et al., 2020, Sci. Adv., 6, eaaz1346; 根本・佐藤, 2013, 地球科学, 67, 183–195; 尾田,1981, 北海道の新第三系の生層序に関する総合研究, 2, 61–62; 椿原ほか, 1989, 地質雑, 95, 423–438; Yanagisawa・Akiba, 1998, J. Geol. Soc. Japan, 104, 395–414.

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