講演情報
[T16-P-10]スミシアンースパシアン境界の遠洋域浅海堆積物に記録された古環境情報
*村田 理輝1、狩野 彰宏2、高橋 司3、齊藤 諒介1 (1. 山口大学、2. 東京大学、3. 四国西予ジオパーク)
キーワード:
炭素同位体比、スミシアンースパシアン境界、コロネン、田穂石灰岩
前期三畳紀オレネキアン期ではスミシアン亜期とスパシアン亜期に分けられる.スミシアン後期で温暖化した後,スミシアン―スパシアン境界(SSB)では,急速な寒冷化イベントが発生した(Sun et al., 2012).当時の炭酸塩炭素同位体比記録(δ13Ccarb)はスミシアン後期の熱極大期で負のピークを迎え,SSBで正にシフトするが,これらがSSBの識別に使用されてきた(e.g., Galfetti et al., 2007).
愛媛県西予市に分布する田穂層は,当時の西パンサラッサ海低緯度地域の海山を起源とする層状石灰岩からなり,ここでもδ13Ccarb変動記録とコノドント分帯と合わせてSSBが識別されている(Maekawa et al,. 2021).そこで本研究では,田穂層のSSB付近を調査し,当時の古環境変動について検討した.
まず,スミシアン上部からSSBをカバーするルート(E03)とスミシアン上部からスパシアン下部をカバーするルート(E02)に分けて,δ13Ccarbの測定を行った.E03ではスミシアン下部の+1.05‰から上位25 cmにかけて最小値-0.57‰を記録する負のシフトがみられ,そこからSSBにかけて最大値+4.98‰を記録するまで正へシフトした.E02ではスミシアン下部で-0.55~+1.55‰を振動する平坦域がみられ,SSBで最大値+4.57‰を記録する急激な正シフトがみられた.そして,その40 cm上位では+2.04‰まで減少した.本研究で得られたδ13Ccarb記録は両ルートともに,E02のシャープな正シフトを除けば,概ねMaekawa et al. (2021)と全体的な傾向が一致した.
次に,鏡下スケールで堆積組織の観察を行った.ほとんどの層準の岩石がpackstoneとwackestoneもしくはその中間的なものに分類され,一部のfloatstoneとrudstoneを除き方解石セメントは少量で,基質は大部分がミクライトであった.構成粒子は,二枚貝とその破片がほぼすべての層準で優勢で,アンモノイド,腹足類,棘皮動物の骨片,ぺロイド,有孔虫,貝形虫も確認できた.特に棘皮動物の骨片はスミシアン上部からSSBにかけて多く見られ,SSBより上位では全く確認できない.また,スミシアン上部とSSB付近で微生物礁に特徴的な,ミクライトとスパライトが層状または不規則な凝塊構造をなす様子がみられた.加えて,E02ではSSB直上のδ13Ccarb減少層準において,黒色を呈するイントラクラスト(黒色礫)や,海底面侵食による不連続面が観察された.黒色礫は炭酸塩の地表露出によって形成され,その黒色は森林火災や土壌などの陸上有機物,マンガンや鉄の酸化物や硫化物に関係するとされている(e.g., Miller et al., 2013).
さらに,SSB付近の30層準を用いて燃焼起源有機物の層序分布を調べた.多環芳香族炭化水素(PAHs)は燃焼イベント指標として用いられ,PAHsの中でも特にコロネンは,火山活動による高温火災イベントを示す(Kaiho et al., 2021a, 2021b).PAHsはほぼ全ての層準で確認でき,スミシアン上部からSSBにかけてはコロネンが特に濃集する傾向を示した.加えて,コロネン濃集層準は,δ13Ccarbの負のピークと一致することも確認できた.両者の層序的一致は,火山活動による高温燃焼イベントがスミシアン後期における温暖化の一因であったことを示唆する。続くSSBにおいて発生した寒冷化およびδ13Ccarbの正のピークは,スミシアン後期の温暖化による陸上風化の増加および一次生産性の増加と有機炭素埋没によって説明されうる.これら有機炭素埋没による大気酸素濃度増加や寒冷化に伴う海水準の低下がさらに,SSB直上で観察された黒色礫や海底面浸食などの陸上露出相の形成およびδ13Ccarbの減少に寄与したかもしれない.以上より火山活動による高温燃焼イベントがスミシアン後期の温暖化に端を発する一連の炭素循環変動を引き起こした可能性が示唆される.
【引用文献】Sun et al. (2012), Science, 338, 366-370.Galfetti et al. (2007) Geology, 35, 291-294. Maekawa et al. (2021) J. Asian Earth Sci., 205, 1-11. Miller et al. (2013) J. Sediment. Res., 83, 339-353. Kaiho et al. (2021a) Geology,49, 289-293. Kaiho et al. (2021b) Glob. Planet. Change, 199.
愛媛県西予市に分布する田穂層は,当時の西パンサラッサ海低緯度地域の海山を起源とする層状石灰岩からなり,ここでもδ13Ccarb変動記録とコノドント分帯と合わせてSSBが識別されている(Maekawa et al,. 2021).そこで本研究では,田穂層のSSB付近を調査し,当時の古環境変動について検討した.
まず,スミシアン上部からSSBをカバーするルート(E03)とスミシアン上部からスパシアン下部をカバーするルート(E02)に分けて,δ13Ccarbの測定を行った.E03ではスミシアン下部の+1.05‰から上位25 cmにかけて最小値-0.57‰を記録する負のシフトがみられ,そこからSSBにかけて最大値+4.98‰を記録するまで正へシフトした.E02ではスミシアン下部で-0.55~+1.55‰を振動する平坦域がみられ,SSBで最大値+4.57‰を記録する急激な正シフトがみられた.そして,その40 cm上位では+2.04‰まで減少した.本研究で得られたδ13Ccarb記録は両ルートともに,E02のシャープな正シフトを除けば,概ねMaekawa et al. (2021)と全体的な傾向が一致した.
次に,鏡下スケールで堆積組織の観察を行った.ほとんどの層準の岩石がpackstoneとwackestoneもしくはその中間的なものに分類され,一部のfloatstoneとrudstoneを除き方解石セメントは少量で,基質は大部分がミクライトであった.構成粒子は,二枚貝とその破片がほぼすべての層準で優勢で,アンモノイド,腹足類,棘皮動物の骨片,ぺロイド,有孔虫,貝形虫も確認できた.特に棘皮動物の骨片はスミシアン上部からSSBにかけて多く見られ,SSBより上位では全く確認できない.また,スミシアン上部とSSB付近で微生物礁に特徴的な,ミクライトとスパライトが層状または不規則な凝塊構造をなす様子がみられた.加えて,E02ではSSB直上のδ13Ccarb減少層準において,黒色を呈するイントラクラスト(黒色礫)や,海底面侵食による不連続面が観察された.黒色礫は炭酸塩の地表露出によって形成され,その黒色は森林火災や土壌などの陸上有機物,マンガンや鉄の酸化物や硫化物に関係するとされている(e.g., Miller et al., 2013).
さらに,SSB付近の30層準を用いて燃焼起源有機物の層序分布を調べた.多環芳香族炭化水素(PAHs)は燃焼イベント指標として用いられ,PAHsの中でも特にコロネンは,火山活動による高温火災イベントを示す(Kaiho et al., 2021a, 2021b).PAHsはほぼ全ての層準で確認でき,スミシアン上部からSSBにかけてはコロネンが特に濃集する傾向を示した.加えて,コロネン濃集層準は,δ13Ccarbの負のピークと一致することも確認できた.両者の層序的一致は,火山活動による高温燃焼イベントがスミシアン後期における温暖化の一因であったことを示唆する。続くSSBにおいて発生した寒冷化およびδ13Ccarbの正のピークは,スミシアン後期の温暖化による陸上風化の増加および一次生産性の増加と有機炭素埋没によって説明されうる.これら有機炭素埋没による大気酸素濃度増加や寒冷化に伴う海水準の低下がさらに,SSB直上で観察された黒色礫や海底面浸食などの陸上露出相の形成およびδ13Ccarbの減少に寄与したかもしれない.以上より火山活動による高温燃焼イベントがスミシアン後期の温暖化に端を発する一連の炭素循環変動を引き起こした可能性が示唆される.
【引用文献】Sun et al. (2012), Science, 338, 366-370.Galfetti et al. (2007) Geology, 35, 291-294. Maekawa et al. (2021) J. Asian Earth Sci., 205, 1-11. Miller et al. (2013) J. Sediment. Res., 83, 339-353. Kaiho et al. (2021a) Geology,49, 289-293. Kaiho et al. (2021b) Glob. Planet. Change, 199.
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