講演情報
[T16-P-15]後期中新世以降における熱帯インド洋西部の海洋環境
*上栗 伸一1、松崎 賢史2 (1. 茨城大学、2. 東京大学)
キーワード:
後期中新世、放散虫、熱帯インド洋、海洋環境
本研究の目的は,放散虫化石群集に基づいて後期中新世以降におけるインド洋赤道海流系の変遷史を復元することである.本研究では,国際深海掘削計画(ODP)によって熱帯インド洋西部に位置するSite 710で掘削された過去980万年間にわたる堆積物を使用した.岩相は主に石灰質軟泥から成り,保存の良い放散虫化石を含む.これらの堆積物から合計100試料を採取し,Itaki et al. (2018)に準じた方法で試料処理を施した後,検鏡用のプレパラートを作成した.本研究では合計330の種/グループが産出した.これらの群集は熱帯の標準微化石層序の示準種を含むので,Sanfilippo and Nigrini (1998)によって提唱された化石帯区分を使用することができ,RN6からRN17の12化石帯に区分することができた.種数は,全体的に7.5〜5 Ma,4〜0 Maで高い値を示す傾向がある.Shannon-Weaverの種多様度指数は,全体的に8〜3 Maで高い値を示す傾向がある.均衡度は全体的に8〜3 Maで高い値を示す.放散虫化石の1 gあたりの個体数は7〜3 Maに比較的高くなる.放散虫化石群集とその変遷を客観的に把握するため, Rモードクラスター分析を行った.ここでは,データセットを簡潔にするため,いずれの試料で5%以上産出する19種/グループのみを取り出した.分析の結果,3つの群集に区分することができた.さらに各クラスターの産出頻度に基づいて,本研究期間を3つのステージに区分した.i)9.8〜7.0 Ma:この時期に,クラスターAが高い産出頻度を示す.クラスターAを構成するCollodaria(Collosphaera spp., Disolonia spp., Odontosphaera spp., Otosphaera spp., Siphonosphaera spp.)は現在,太平洋の熱帯から亜熱帯の貧栄養塩水塊に生息する.一方で現在のインド洋では産出頻度の少ないことが知られている.またZygocircus spp.は熱帯太平洋からインド洋東部に生息しており,Matsuzaki et al. (2023)によってインドネシア通過流の指標種として使用されている. DSDPによって掘削された熱帯インド洋東部でもCollodariaが多産することが報告されている.このことから,熱帯太平洋からインド洋へ海水が比較的活発に流入していたと推測される.また,珪質微化石の増加に基づくと,9.8 Maに熱帯インド洋の湧昇流システムが形成されたことが分かる.ii)7.0〜3.0 Ma: 生物生産性の指標である生息深度指数(WADE)が比較的高い値を示すため,この時期は生物生産性の比較的高い環境であったと考えられる.熱帯インド洋で湧昇が活発化した可能性が考えられる.iii)3.0〜0 Ma:Tetrapyle spp.がこの時期に多産することが認められた.この属は現在,熱帯インド洋の西側で多産するため,現代型の海洋表層水塊が形成されたと推測される.また,中層種において,Tholospira buetschliiからMiddourium weddeliumへの優占種の交替が認められた.このことから中層でも現代型環境が形成されたと推測される. 上記のように熱帯インド洋西部では,およそ7 Maと3 Maに海洋環境が大きく変化したことが分かった.7 Maは西南極氷床が発達し汎世界的な寒冷化が起きたことで知られているため,寒冷化に伴う大気循環の変遷や,海面低下に伴うインドネシア海峡の部分的閉塞などが影響した可能性がある.インドネシア海峡は4〜3 Maに閉塞し,3 Maには北半球氷床の拡大に伴う汎世界的な寒冷化が起きたことが知られている.このような地形の変化や寒冷化が3 Ma以降における現代型海洋環境の形成に影響した可能性がある.
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