講演情報
[T17-P-6]四国および九州四万十帯における震源深度の堆積岩の弾性率分布
*高 慎一郎1、濱田 洋平2、坂口 有人1 (1. 山口大学大学院創成科学研究科、2. 海洋研究開発機構 高知コア研究所)
キーワード:
四万十帯、地震発生帯、沈み込み帯、三軸圧縮試験、弾性率
【はじめに】
地震は断層の固着すべり現象である。固着すべりの挙動は、摩擦面の速度弱化特性とシステムの弾性のバランスによって決定される。たとえば断層の速度弱化特性が同じであっても、地殻の弾性率が低い場合、地殻は歪を長時間蓄積し、限界に達すると断層は一度に大きくすべる。そのため周期は長くなり変位量は大きくなる。その一方で、弾性率が高い場合、わずかに歪むだけで断層は限界に達してすべる。そのため短い周期で小さな変位を繰り返す。以上のように、地殻の弾性率は地震の周期や変位量に影響を与える非常に重要なパラメータである。しかし、これまでプレート沈み込み帯の地殻の弾性率の系統的な調査はあまりおこなわれてこなかった。そのため、南海トラフの巨大地震シミュレーションモデルなどでは、地震発生帯の地殻の弾性率は類推値で仮定されてきた(Hyodo and Hori, 2013)。本研究では、過去の地震発生帯である四国および九州の四万十帯の堆積岩を対象に、三軸圧縮試験により封圧下において様々な古地温の堆積岩の弾性率を系統的に調査し、プレート沈み込み帯における深度方向の弾性構造を明らかにする。
【手法】
露頭から新鮮な中粒砂岩を採取し、高さ50 mm、直径25 mmの円柱形に成型加工する。圧縮試験には高知コア研究所に既設のK0三軸圧密圧縮試験装置(誠研舎製)を使用した。油圧による一定の封圧をかけながら任意の歪速度で垂直荷重を加え、その間の垂直変位を圧力容器内部の軸方向変位計を用いて測定し、得られた弾性率と各採取地点の被熱温度との対比をおこなう。
【結果】
被熱温度約110℃の四国東部日和佐地域から4試料、被熱温度約150から250℃の四国中西部地域から13試料、被熱温度約320℃の九州東部延岡地域から5試料を採取して測定した。その結果、封圧40 MPa、載荷速度約0.0417mm/minの条件下において垂直応力100 MPaまで増加させたところ、四国中西部および九州東部延岡地域の弾性率は、36.2±5.2 GPaの範囲に集中した。このなかには地震発生深度の上限付近から下限近くのものまで含まれ、また、同じ地質体で被熱温度の異なるものなどもあるが、弾性率はほぼ一定であった。これに対して、被熱温度が約110℃である四国東部日和佐地域の弾性率は10 GPa前後と著しく低い値が得られた。
【考察】
被熱温度と弾性率を対比すると、被熱温度が約110℃と低い地域の弾性率は約10 GPaと比較的小さいが、被熱温度が約150℃から320℃の間では36.2±5.2 GPaと高い値で一定であった。この弾性率が高い値で安定する温度領域は、プレート沈み込み帯における地震発生帯の温度領域の150℃から350℃(Hyndman and Wang, 1995)に一致する。すなわちプレート沈み込み帯の上盤地殻は、地震発生帯よりも浅い領域では、極端に小さい弾性を有するが、地震発生帯の150℃に達すると岩石は高い弾性を獲得し、それは地震発生帯の範囲では一定のまま保持されるという弾性構造であると考えられる。このような地殻の弾性構造モデルは、断層の力学や地震発生数値計算に重要な制約条件を与え、地震発生メカニズムの定量評価に貢献すると期待できる。
【引用文献】
Hyndman, R. D. and Wang K. (1995) Thermal constraintso n the seismogenic portion of the southwestern Japan subduction thrust. Journal of Geophysical Research, Vol. 100, B8, 15373-15392.Hyodo, M. and Hori, T. (2013) Re-examination of possible great interplate earthquake scenarios in the Nankai Trough, southwest Japan, based on recent findings and numerical simulations. Tectonophysics, 600, 175-186.
地震は断層の固着すべり現象である。固着すべりの挙動は、摩擦面の速度弱化特性とシステムの弾性のバランスによって決定される。たとえば断層の速度弱化特性が同じであっても、地殻の弾性率が低い場合、地殻は歪を長時間蓄積し、限界に達すると断層は一度に大きくすべる。そのため周期は長くなり変位量は大きくなる。その一方で、弾性率が高い場合、わずかに歪むだけで断層は限界に達してすべる。そのため短い周期で小さな変位を繰り返す。以上のように、地殻の弾性率は地震の周期や変位量に影響を与える非常に重要なパラメータである。しかし、これまでプレート沈み込み帯の地殻の弾性率の系統的な調査はあまりおこなわれてこなかった。そのため、南海トラフの巨大地震シミュレーションモデルなどでは、地震発生帯の地殻の弾性率は類推値で仮定されてきた(Hyodo and Hori, 2013)。本研究では、過去の地震発生帯である四国および九州の四万十帯の堆積岩を対象に、三軸圧縮試験により封圧下において様々な古地温の堆積岩の弾性率を系統的に調査し、プレート沈み込み帯における深度方向の弾性構造を明らかにする。
【手法】
露頭から新鮮な中粒砂岩を採取し、高さ50 mm、直径25 mmの円柱形に成型加工する。圧縮試験には高知コア研究所に既設のK0三軸圧密圧縮試験装置(誠研舎製)を使用した。油圧による一定の封圧をかけながら任意の歪速度で垂直荷重を加え、その間の垂直変位を圧力容器内部の軸方向変位計を用いて測定し、得られた弾性率と各採取地点の被熱温度との対比をおこなう。
【結果】
被熱温度約110℃の四国東部日和佐地域から4試料、被熱温度約150から250℃の四国中西部地域から13試料、被熱温度約320℃の九州東部延岡地域から5試料を採取して測定した。その結果、封圧40 MPa、載荷速度約0.0417mm/minの条件下において垂直応力100 MPaまで増加させたところ、四国中西部および九州東部延岡地域の弾性率は、36.2±5.2 GPaの範囲に集中した。このなかには地震発生深度の上限付近から下限近くのものまで含まれ、また、同じ地質体で被熱温度の異なるものなどもあるが、弾性率はほぼ一定であった。これに対して、被熱温度が約110℃である四国東部日和佐地域の弾性率は10 GPa前後と著しく低い値が得られた。
【考察】
被熱温度と弾性率を対比すると、被熱温度が約110℃と低い地域の弾性率は約10 GPaと比較的小さいが、被熱温度が約150℃から320℃の間では36.2±5.2 GPaと高い値で一定であった。この弾性率が高い値で安定する温度領域は、プレート沈み込み帯における地震発生帯の温度領域の150℃から350℃(Hyndman and Wang, 1995)に一致する。すなわちプレート沈み込み帯の上盤地殻は、地震発生帯よりも浅い領域では、極端に小さい弾性を有するが、地震発生帯の150℃に達すると岩石は高い弾性を獲得し、それは地震発生帯の範囲では一定のまま保持されるという弾性構造であると考えられる。このような地殻の弾性構造モデルは、断層の力学や地震発生数値計算に重要な制約条件を与え、地震発生メカニズムの定量評価に貢献すると期待できる。
【引用文献】
Hyndman, R. D. and Wang K. (1995) Thermal constraintso n the seismogenic portion of the southwestern Japan subduction thrust. Journal of Geophysical Research, Vol. 100, B8, 15373-15392.Hyodo, M. and Hori, T. (2013) Re-examination of possible great interplate earthquake scenarios in the Nankai Trough, southwest Japan, based on recent findings and numerical simulations. Tectonophysics, 600, 175-186.
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