講演情報
[T17-P-7]九州東部四万十帯槙峰層における掘削・地表調査
*矢部 優1、木口 努1、細野 日向子1、大坪 誠1 (1. 産業技術総合研究所)
キーワード:
四万十帯、槙峰層、掘削、地質調査
産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門では,大分県佐伯市蒲江地域において,地殻変動観測施設整備のために3本の孔井掘削(それぞれ掘削長500m級,200m級, 30m級)を実施した.本地域には,四万十帯槙峰層が分布している.Ujiie et al. (2018) は槙峰層南部において石英脈濃集帯(Tremor Is.)を見出し,スロー地震の痕跡であると提案している.掘削地点を含む槙峰層北部においては,Tremor Is.に対応するものはこれまで明確に指摘されていないが,5万分の1地質図「蒲江」(奥村他,1985)や「佐伯」(寺岡他,1990)ではTremor Is.の位置する古江地区と並んで,槙峰層北部の西野浦地区・畑野浦地区においても片理が発達した千枚岩層の中に石英脈が分布していることを指摘している.このため,槙峰層北部においてもTremor Is.と類似する石英脈の分布状況および地質構造を明らかにすることで,プレート境界周辺における流体の移動様式の理解が進むと期待される.本発表では,本掘削事業で得られた検層データ・岩石試料の概要と,掘削試料と周辺地表露頭の対比を目的に実施した地表踏査の結果を速報として報告する.掘削地点は蒲江地区の旧猪串小学校グラウンド内に位置する.掘削では,孔1の最深部において20m程度のコア試料を取得し,その他の区間ではカッティングス試料を取得した.また,孔1と孔2において,ガンマ線,地震波速度,比抵抗孔壁画像などの種目の検層を実施した.取得されたカッティングス試料の記載によると,孔1では地表から140m程度まで,孔2では地表から170m程度までは砂岩が優勢な砂岩頁岩互層が,上記の深度以深では頁岩が優勢な頁岩砂岩互層もしくは頁岩層が分布した.周辺の地表踏査によると,砂岩の優勢な砂岩頁岩互層は掘削地点の南部に位置する赤石山の北側斜面の登山道沿いおよび海岸に露出する一方,赤石山の南側斜面および海岸には頁岩優勢の頁岩砂岩互層もしくは頁岩層が露出している.よって,掘削により得られた砂岩優勢層/頁岩優勢層境界に対応する地層境界を地表踏査でも確認することができた.両者の位置関係を考えると,砂岩優勢層/頁岩優勢層境界の大局的な傾斜は10º程度と考えられる.孔壁画像から読み取られた層理面は,335m以深では北西傾斜で20º〜30ºの傾斜角を持つ一方,335m以浅では南から南西傾斜で10º〜40ºの傾斜角を持っていた.地表露頭において計測した層理面の傾斜は,赤石山南部の頁岩層では概ね北西傾斜で30º程度の傾斜角を持つことから,孔壁画像の読み取りと整合的であった.赤石山の登山道沿いにおいては,短い距離で層理面が大きく変化する様子が観察されたことから,砂岩泥岩互層においては,短波長の不均質が卓越していると考えられる.地表踏査では,赤石山の南端部(くよむ鼻)において変形が頁岩層に集中した砂岩頁岩互層を認めた.これは地質断層「市尾内断層」と関連した構造と予想され,走向方向に連続的に分布が認められる.しかし,掘削試料中には,本構造と対比されるようなものは今のところ認定されていない.このことから断層の傾斜角は20º以上と予想されるが,地表露頭において断層の傾斜を計測できていない.掘削試料中にはTremor Is.と類似するような顕著な石英脈濃集帯は認定されなかった.掘削地点周辺の玄武岩の変成度は,周囲の槙峰層の変成度と比べて局地的に低いとされている(奥村他,1985).そのため,掘削地点の槙峰層は過去にスロー地震が発生していた深度よりも浅い温度圧力しか経験していない可能性がある.
引用文献
・奥村 他(1985)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第35号, 1-58
・寺岡 他(1990)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第25号, 1-78
・Ujiie et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45(11), 5371-5379
引用文献
・奥村 他(1985)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第35号, 1-58
・寺岡 他(1990)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第25号, 1-78
・Ujiie et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45(11), 5371-5379
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