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[G-P-34]伊勢湾における後期更新世と完新世の内湾貝形虫化石群集に基づく古環境と古生物地理

*入月 俊明1、天野 敦子2 (1. 島根大学、2. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

伊勢湾、貝形虫、完新世、最終間氷期、古生物地理

三重県津市から東北東約10 km沖合の伊勢湾海底において,産業技術総合研究所により2本のボーリングコアが掘削された.天野ほか(2020)はこれらの岩相記載,放射性炭素と光ルミネセンスによる年代測定と珪藻化石群集の概査結果を基に堆積環境について明らかにした.この年代,堆積環境解析結果を基に,本研究ではこの地点における微小甲殻類の貝形虫化石群集の特徴を明らかにし,群集解析によって古環境を復元すること,さらに,第四紀における内湾貝形虫種の古生物地理に関して検討した.
 本研究で使用したコアは2本で,GS-IB18-1コアは水深21.66 m(コア長36 m),GS-IB18-2コアは水深22.91 m(コア長65 m)の海底から掘削された.
 結果として,両コアとも2層準に海成泥層が認められ,年代測定の結果,上層は完新世(MIS1),下層は最終間氷期(MIS5)の層準に相当し,いずれも貝形虫化石が含まれていた.MIS5層準の海成泥層の貝形虫化石は,GS-IB18-1コアで少なく,GS-IB18-2コアで多産した.両コアの貝形虫化石群集はお互い類似した種構成を示し,多様性が低くSpinileberis quadriaculeataCytheromorpha acupunctataBicornucythere sp. U,熱帯系のNeomonoceratina delicataを主体とする閉鎖的内湾奥から中央部の群集(例えば,池谷・塩崎,1993;入月・瀬戸,2004)に相当し,内湾の沖合性種はほとんど産出しなかった.
 一方,MIS1層準の海成泥層では,GB-IB18-1コアの約8000年前の層準から水深15 m前後の内湾中央部から沖合に生息するNipponocythere bicarinataKrithe japonicaが認められた.その上位の約7000年前の層準で密度や多様性が高く,急激な海水準上昇により外洋からの影響を受けるやや開放的な環境になり,海が最も拡大したことが示唆される.内湾沖合の泥底に生息するAmphileberis nipponica(Irizuki et al., 2018)も産出したため,水深も20–30 mと推定される.その上位でも引き続き,K. japonicaが最多産種となる群集が認められたため,水深20–30 mの湾中央部泥底環境が維持されたと推定される.GB-IB18-2コアでは,最下部の約10000年前の層準は,汽水性種も混在する閉鎖的内湾奥砂泥底種の卓越によって特徴づけられ,海進初期の水深数m程度の内湾奥砂泥底と推定される.その上位に関しては,GS-IB18-1コアと同じような群集変化を示した.
 以上のように,MIS5とMIS1との間で全く異なる貝形虫化石群集が認められた.MIS1層準の方が沖合性種を多く含むため,古水深に関して,現在の伊勢湾の方が深かったと判断される.また,MIS5層準から産出した優占種のBicornucythere sp. Uは,紀伊水道から西側の太平洋沿岸の内湾や瀬戸内海東部に生息する温暖種であるが,更新世には少なくとも関東地方まで分布を広げた種である(入月ほか, 2011).一方,N. delicataは現在トカラ海峡以南から東南アジアにかけての内湾に生息する熱帯系温暖種であるが,更新世では同じく関東地方まで分布を広げ,最終氷期以降,九州以北では消滅したと考えられている(Irizuki et al., 2009).以上のことから,MIS5の方が,現在より沿岸域への黒潮の影響が強く,水温が高かった可能性が考えられる.しかしながら,底生貝形虫は幼生段階で浮遊性期間がなく,移動能力に乏しいため(Boomer, 2002),最終氷期(MIS2)における海水準と古水温の低下により内湾の温暖種が消滅し,その後の温暖化・海水準上昇に転じても西から東に移動できていないことも考えられる.どちらの仮説がより可能性が高いかについては,今後も引き続き検討する必要がある.
引用文献:天野ほか(2020)地質調査総合センター速報, 81: 25–33.Boomer (2002) In Haslett, ed., Quaternary Environmental Micropalaeontology, 115–138.池谷・塩崎(1993)地質論,39: 15–32.入月・瀬戸(2004)地質雑,110: 309–324.Irizuki et al. (2009) Palaeo3, 271: 316–328. 入月ほか(2011)地質雑,117: 35–52.Irizuki et al. (2018) Laguna, 25: 39–54.

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