講演情報

[G-P-39]長野県北部,向新田断層の過去6.8万年間の垂直変位量

*竹下 欣宏1、廣内 大助1、近藤 洋一2、関 めぐみ2、花岡 邦明、野尻湖 地質グループ (1. 信州大学、2. 野尻湖ナウマンゾウ博物館)
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キーワード:

活断層、垂直変位量、野尻湖、テフラ、ボーリング、トレンチ

はじめに
 長野県北部の野尻湖西方において,2019年に断層露頭が出現したことにともない北東南西方向に6kmほど追跡できる変動地形が見つかり(廣内・竹下,2020),向新田断層と仮称された(竹下ほか,2021).断層露頭では多数のテフラ層の他,約30kaの姶良Tnテフラ層の降灰層準が断ち切られている(竹下ほか,2023a).向新田断層は,断層露頭の変形構造と地形に基づき北西側隆起の逆断層であると考えられる.この断層の上盤側と下盤側でトレンチおよびボーリング掘削により地下地質が調査され(図1),テフラ層の対比とそれらをはさむ水成層の層相に基づいて,約4.4万年前から現在までの間に,垂直方向に約12mの変位があったことが明らかにされた(竹下ほか,2023b).さらに今回,野尻湖周辺における古水系の変遷が解明されたことおよび2020年に断層の上盤側で掘削されたトレンチ調査の結果に基づき,過去約6.8万年間におおよそ27mの垂直方向の変位があったことが明らかになったので報告する.
野尻湖周辺の古水系の変遷
 断層露頭の南西側で掘削された全長18mのボーリングコア(AK21)の深度16.18~9.70mを構成する礫層の礫組成,テフラ対比および14C年代測定値に基づき,現在は長野盆地側(南側)の千曲川へ合流する鳥居川が,約3.4万年前より以前は新潟県側(北側)の関川へ流入していたことが明らかになった(宮崎・竹下,2024).さらに野尻湖西方の池尻川低地で掘削された全長18mのボーリングコア(IJ20)の深度11.70~13.81mを構成する礫層に含まれる特徴的な礫(長径0.5~1.0cmの角閃石斑晶を含む安山岩)およびその礫層の層位から,北側へ流れる鳥居川(古鳥居川)は,約6.8万~6.5年前にかけて,池尻川低地の中を通り抜けていたことが明らかにされた(竹下・渡辺,2024).
向新田断層における過去約6.8万年間の垂直変位量
 以上の成果に基づくと池尻川低地の西側に見られる比高約20mの急斜面は,約6.8~6.5万年前に古鳥居川の侵食作用によって形成された攻撃斜面の可能性が高く,その東側に流路があったと考えられる.2020年に掘削された深さ3.3mのトレンチ(NDT20)は,この古鳥居川の流路に当たる.したがって,古鳥居川が池尻川低地の中を通り抜けていた期間(約6.8~6.5万年前)においては,現在の池尻川低地とNDT20はほぼ同じ標高であったと考えることができる.
 IJ20コアの坑口の標高は651.07mで,深度13.81m(標高637.26m)に池尻川岩屑なだれ堆積物(石井・野尻湖地質グループ,1997)の上面が位置し,角閃石斑晶の目立つ安山岩礫を含む礫層が直接覆っている(竹下・渡辺,2024).池尻川岩屑なだれ堆積物は,テフラ層との層序関係に基づき,約6.8万年前に形成されたと推定されている(長橋・石山,2009).これに対して,NDT20は池尻川低地西側の標高666.6m地点に位置しており,池尻川岩屑なだれ堆積物に対比される灰~紫灰色火山角礫層の上面が深度2.3m(標高664.3m)に確認された.さらに,厚さ20~25cmの亜円から亜角礫層(礫径5~15cm)がこの火山角礫層を直接覆っており,これが古鳥居川の堆積物に相当すると考えられる.
 以上のことを考え合わせると,池尻川岩屑なだれ堆積物が形成された約6.8万年前から現在までの間に,向新田断層の活動によって垂直方向に27.04m(標高664.3m-標高637.26m)の変位が生じたと考えられる.IJ20コアに挟まれるテフラ層を基準として,向新田断層は約4.4万年前から現在までの間に約12mの垂直変位があったと推定されている(竹下ほか,2023)ので,単純に計算すれば約6.8~4.4万年前の約2.4万年間に約15mの垂直変位があったことになる.

引用文献:廣内・竹下(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,24-25.石井・野尻湖地質グループ(1997)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,5,9-18.宮崎・竹下(2024)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,32,1-10.長橋・石山(2009)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,17,1-57.竹下ほか(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,22-23.竹下ほか(2023a)日本活断層学会2023年度秋季学術大会講演予稿集,45-46.竹下ほか(2023b)日本地質学会学術大会講演要旨第130年学術大会(2023京都)(https://doi.org/10.14863/geosocabst.2023.0_485).竹下・渡辺(2024)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,32,11-24.

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