講演情報
[T9-P-1]阿蘇火砕流だけじゃない!-おおいた豊後大野ジオパークの地質の多様性
*吉岡 敏和1 (1. おおいた豊後大野ジオパーク推進協議会)
【ハイライト講演】 本ジオパークのエリアには、カンブリア紀後期から第四紀更新世後期まで、古第三紀以外のほぼすべての時代(紀)の地層・岩石が分布し、更に岩石の種類としては堆積岩、火成岩、変成岩のすべてが存在する。メインテーマの巨大火砕流(阿蘇火砕流)は本地域を代表する地質で自然や文化を特徴づける要素であるが、多様な地質とそれらに繋がる自然や文化も組み込むことで、より深くて楽しいジオストーリーができることが期待される。 ※ハイライト講演とは...
キーワード:
おおいた豊後大野ジオパーク、地質多様性、阿蘇火砕流、西南日本内帯、西南日本外帯
おおいた豊後大野ジオパークは九州の中部、阿蘇火山の東側に位置するジオパークである。メインテーマは「巨大火砕流から9万年、生命(いのち)をつむぐ豊後の水と大地の彩り」で、阿蘇火山の巨大噴火による火砕流が冷えて固まった溶結凝灰岩を河川が侵食して作った地形や、そこに育まれた自然や文化が特徴のジオパークである。その一方で、おおいた豊後大野ジオパークのエリアは西南日本の内帯と外帯にまたがり、多種多様の地質体が分布する地域でもある(星住ほか,2015)。
内帯の基盤岩類としては、エリア北部に領家帯に属すると考えられている白亜紀の花崗岩類および高温低圧型の朝地変成岩類が分布する。朝地変成岩に伴う花崗岩からはカンブリア紀後期に相当する497MaのジルコンU-Pb年代が得られている(星住ほか,2015)。またエリア北部から中部の広い範囲に、白亜紀後期の前弧海盆堆積物である大野川層群が分布している。
外帯の基盤岩類では、地域の中南部を北西-南東方向に黒瀬川帯が横断している。エリア内の黒瀬川帯は蛇紋岩と石灰岩等の堆積岩、変成岩からなり、このうち石灰岩からはシルル紀のサンゴ化石が産出している。黒瀬川帯の南にはジュラ紀付加体である秩父帯が広く分布しており、遠洋成のチャートのほか、異地性岩体として石炭紀~ペルム紀の石灰岩が挟まれている。また、黒瀬川帯の一部を不整合で覆って下部白亜系物部川層群に相当する佩楯山層が分布している。なお、外帯と内帯を分ける中央構造線は、佐賀関半島の北岸から半島の付け根で大きく湾曲し、半島の南側で南傾斜となる。そのため、三波川帯はこれ以西では地下に埋没し、三波川帯と領家帯の境界としての狭義の中央構造線は、九州では地表に露出しない(寺岡ほか,1992)。
新第三系としては、エリア最南部に祖母・傾・大崩コールドロンに伴う中新世の火山岩類が分布し、流紋岩、デイサイト、火山礫凝灰岩、珪長質の貫入岩などが見られる。またエリアの中北部には、同じく中新統である大野火山岩類の安山岩溶岩や流紋岩質溶結凝灰岩などが、山地の稜線や丘陵上に分布する。さらに第四系としては、阿蘇火山起源の火砕流堆積物(主に阿蘇3火砕流および阿蘇4火砕流)が広く分布するほか、大野川沿いには段丘堆積物も見られる。第四紀火山は分布しない。
このようにおおいた豊後大野ジオパークのエリアには、カンブリア紀後期にあたる約5億年前から、第四紀更新世後期の約9万年前まで、古第三紀以外のほぼすべての時代(紀)の地層・岩石が分布している。さらに岩石の種類としては堆積岩、火成岩、変成岩のすべてが存在し、そのうち火成岩は酸性岩から超塩基性岩までを網羅している。これらの多様な地質には、すでにジオパークのサイトに設定され紹介されているものもあるが、全体的なジオストーリーへの取り込みはまだ十分とは言えない。今後はこれらの多様な地質を、タイムスケールをイメージできるような形でジオストーリーに取り込んでいきたいと考えている。
【文献】
星住英夫・斎藤 眞・水野清秀・宮崎一博・利光誠一・松本哲一・大野哲二・宮川歩夢(2015)20万分の1地質図幅「大分」(第2版).産業技術総合研究所地質調査総合センター.
寺岡易司・宮崎一博・星住英夫・吉岡敏和・酒井 彰・小野晃司(1992)犬飼地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,129p.
