講演情報

[T8-P-4]北海道幌延町に分布する新第三紀泥岩層における地震時の地下水圧変化から示唆される水みち構造

*宮川 和也1、大野 宏和1、石井 英一1 (1. 日本原子力研究開発機構)
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キーワード:

地震、地下水圧応答、地層処分

 はじめに 地下水圧が地震動に対して応答するように増減することは古くから世界中で報告されている。応答のメカニズムは、静的弾性ひずみに対する応答、新たに生じた水みちへの流体移動、亀裂の発生による透水性の変化などが報告されており、特に遠方で生じた地震に対しては、コロイドなどの再配置による一時的な透水性の増加が指摘されている(e.g., Hosono et al., Nature Commun., 2020)。本研究では、新第三紀堆積泥岩である声問層と稚内層において2004年5月〜2023年8月の期間に揺れが観測された地震に対して、地下水圧応答の有無と水みち構造の特徴との関係性を調べた。地震動による水みちの透水性増加メカニズムに着目し、水圧応答の有無を特徴づける水みちの水理的要因を明らかにするために、数値解析を実施した。
地下水圧観測結果と水理地質構造
 地上から掘削された10本のボーリング孔における93箇所の地下水圧観測地点から得られた観測結果のうち、2019年12月に道北地方で発生した地震(Mw 4.2, 震源距離約10 km, 幌延町において震度4を観測)に対する水圧応答例として稚内層浅部における観測結果をFig. 1に示す。地震の発生後、徐々に水圧が増加し、数日〜1ヶ月後に最大値を示した後に元の水圧に向かって低下する様子が分かる。稚内層浅部は、割れ目の水理的連結性が高い(Ishii et al., Hydrogeol. J., 2025)。Fig. 1aに示されるHDB6のLP4は、深度291 m〜301 mに設置され、近傍に位置する幌延深地層研究センターの地下施設の建設に伴い、長期的に地下水圧が低下していることから、地下施設へ連結した割れ目を有し、比較的大きな動水勾配の下で地下水の流れが生じていることが分かる。Fig. 1bに示されるHDB9のLP2は、深度62 m〜68 mに設置され、割れ目と基質部の地下水の酸素水素同位体比から、連結した割れ目を通した地表水の移流浸透が指摘されている箇所である(Mochizuki and Ishii, Hydrogeol. J., 2022)。観測期間を通して地震動に対する有意な水圧応答が見られた全ての箇所は、割れ目の水理的連結性が高く、比較的大きな動水勾配により地下水の流れが比較的大きいことが推察される箇所であった。また、割れ目の水理的連結性が低く、地下水の流れがほとんど無いことが推察される箇所においては、水圧応答は見られなかった。
数値解析 地下水の流動する連結した割れ目中の上流部の透水性が地震動により一時的に増加する様子を模擬した数値解析を実施した。境界条件やパラメータの設定をFig. 2に示す。割れ目部(幅1 mm)の初期透水係数(K)は1×10−2 (m/s)もしくは1×10−3 (m/s)の二通り設定し、比貯留係数(Ss)を用いて水頭拡散率(K/Ss)を10または0.1に調整した。地震後はFig. 2に茶色で示される割れ目部の透水係数が24時間かけて1桁増加し、その後、3ヶ月かけて元の透水係数に戻る条件を設定した。地震動による透水係数の変化時には、比貯留係数は変化させず一定とした。基質部の透水係数と比貯留係数はそれぞれ1×10−11 (m/s)と1×10−5 (1/m)で固定とした。境界条件やパラメータを変えながら、合計で16ケースの解析を実施した。
結果と考察 数値解析の結果、地震後に水圧が徐々に増加し、最大値を示した後に、ゆっくりと元の水圧に戻る様子が再現された。各ケースから得られた水圧応答の振幅比(Ppeak/Pbase)と、透水性変化領域から観測点までの距離(D)で規格化したダルシー流速の振幅比((qpeak/qbase)/D)の関係をFig. 3に示す。水圧応答の大きさ(振幅比)は、割れ目の透水係数や透水性変化領域から観測点までの距離に大きく影響を受けることが分かった。また、Fig. 2のような連結した割れ目の他に、閉塞した割れ目についても解析を実施したが、ダルシー流速が基質部の透水性に律速されるような低流動域においては地震動を模擬した割れ目の一部の透水係数変化に対する水圧応答はほぼ見られない結果であった(Fig. 3の緑丸)。以上のことから、地震動に対してある割れ目の地下水圧が、岩盤の静的ひずみ変化に対するステップ状の変化などではなく、Fig. 1に示されるような緩やかな増加と引き続く低下応答を示す場合、その割れ目は連結性が高く、比較的地下水の流れる場所であることが示唆される。このことは、高レベル放射性廃棄物の地層処分のような大規模地下利用の際に地下水圧が観測される個別の割れ目や断層について、水理的連結性の有無や地下水の流れの有無について有益な参考情報となることが期待される知見である。