講演情報
[T8-P-5]ユニバーサルステージの復刻:流体包有物配列面の方位測定による実用性の検証
*島田 耕史1、大江 隆2、竹下 徹3 (1. 日本原子力研究開発機構、2. 株式会社TCK(現)京西テクノス株式会社、3. パシフィックコンサルタンツ株式会社)
キーワード:
ユニバーサルステージの復刻
ユニバーサルステージ(Uステージ,自在回転台)は,偏光顕微鏡に取り付け,薄片を傾斜・回転させながら観察し,鉱物の光学的弾性軸方位や光軸角,へき開面・双晶面,マイクロクラックなどの方位を測定する装置であり,鉱物学・岩石学・構造岩石学の主要な装置である (Turner and Weiss, 1963等).Uステージは鏡下で薄片観察しながら直接的にマイクロクラックなどの三次元方位を測定できる唯一の装置だが,西暦2000年前後に生産終了となった(Kile. 2009).岩盤中の割れ目の密度や方位,断層沿いの流体移動等の情報は,高レベル放射性廃棄物の地層処分をはじめとする地下利用に係る地質情報として,概要調査段階以降の長い事業期間にわたり重要と考えられる.例えば,割れ目形成と流体の浸透後に母晶が癒合し形成される流体包有物配列面(Fluid inclusion planes, FIPs)の方位密度分布からは,主応力方位,応力比および主応力と間隙水圧の比を求めることができ(Jolly and Sanderson, 1997),古応力場と地殻内流体移動が関与するような割れ目の発達や断層運動の評価が可能である.しかし,FIPsやオープンマイクロクラック,他の鉱物で埋められているシールドマイクロクラック等の方位測定・検証手段は,既存のUステージの損耗で失われてしまう.そこで,広く使われていたLeitz製およびNikon製Uステージを参考に,4軸Uステージを再製作した(TCK製Uステージと呼ぶ).
Uステージの最も重要な構成部品は,薄片を傾けた時にも観察できるようにするための半球ガラス(薄片を上下から挟み込む)であり,ガラス同士の間に浸液を入れて機能させる.通常の偏光顕微鏡で観察する時に,空気中で薄片を傾けると,薄片に立てた垂線と光路のなす角が約41度(空気/ガラス間の臨界角;空気の屈折率を1,ガラスの屈折率を1.517とした場合)を超えると,光は全反射して観察不可能になる.そこで,上下の半球ガラスにより,光路と半球ガラス表面の角度を直角に保つ.そして,ガラス半球とスライドガラス,カバーガラスなどの間の浸液(屈折率1.518の市販油浸オイルなど)によって全反射を防ぎ40-50°までの傾動可能範囲を確保する.TCK製Uステージの上半球と下半球には平凸レンズの既製品を用いた.Uステージと組み合わせて用いる対物レンズは,焦点距離が長い必要があり,使用可能な対物レンズの種類を増やせる利点を重視して,上半球ガラスの直径は10 mm,曲率半径は5 mmの製品とした.また,金属躯体部はステンレス製とし,角度目盛のつけ方は,都城・久城(1972)の図6.3に倣った.偏光顕微鏡は鏡柱(アーム)部を切断し,樹脂及び金属製のスペーサーを組み込み,Uステージを取り付け可能な空間を確保した.
Takeshita (1995)で検討に供された薄片のうち1枚を用い,既存のLeitz製UステージとTCK製Uステージにより,石英中の175枚のFIPを比較測定した(図).図はFIPの極を下半球等積投影図に白丸(Leitz製Uステージ使用)と黒点(TCK製Uステージ使用)でプロットしたもの (図a),Kamb法によるコンターダイアグラム(図b:Leitz製使用,図c:TCK製使用),両者の等密度線を重ね書きしたもの(図d)である.この比較から,FIPsの方位を計測し統計的に扱う限りにおいて,TCK製UステージはLeitz製Uステージと同等の実用性を有する,すなわちユニバーサルステージが復刻できたと考えられる.会場では,測定傾斜角の補正に関する検討結果等とともに,可能な限り実機を展示することを予定している.
ステレオ投影図作成にはRichard W. AllmendingerによるStereonet v.11.3.0を使用した.本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部である.
[引用文献]
Jolly, R. J. H. and Sanderson, D. J., 1997, J. Struct. Geol., 19, 887-892.
Kile, D. E., 2009, Geochemical News #140.
都城秋穂・久城育夫, 1972, 岩石学Ⅰ, 共立全書.
Takeshita, T, 1995, Tectonophysics, 245, 277-297.
Turner, F. J. and Weiss, L. E., 1963, Structural analysis of metamorphic tectonites, McGraw-Hill.
Uステージの最も重要な構成部品は,薄片を傾けた時にも観察できるようにするための半球ガラス(薄片を上下から挟み込む)であり,ガラス同士の間に浸液を入れて機能させる.通常の偏光顕微鏡で観察する時に,空気中で薄片を傾けると,薄片に立てた垂線と光路のなす角が約41度(空気/ガラス間の臨界角;空気の屈折率を1,ガラスの屈折率を1.517とした場合)を超えると,光は全反射して観察不可能になる.そこで,上下の半球ガラスにより,光路と半球ガラス表面の角度を直角に保つ.そして,ガラス半球とスライドガラス,カバーガラスなどの間の浸液(屈折率1.518の市販油浸オイルなど)によって全反射を防ぎ40-50°までの傾動可能範囲を確保する.TCK製Uステージの上半球と下半球には平凸レンズの既製品を用いた.Uステージと組み合わせて用いる対物レンズは,焦点距離が長い必要があり,使用可能な対物レンズの種類を増やせる利点を重視して,上半球ガラスの直径は10 mm,曲率半径は5 mmの製品とした.また,金属躯体部はステンレス製とし,角度目盛のつけ方は,都城・久城(1972)の図6.3に倣った.偏光顕微鏡は鏡柱(アーム)部を切断し,樹脂及び金属製のスペーサーを組み込み,Uステージを取り付け可能な空間を確保した.
Takeshita (1995)で検討に供された薄片のうち1枚を用い,既存のLeitz製UステージとTCK製Uステージにより,石英中の175枚のFIPを比較測定した(図).図はFIPの極を下半球等積投影図に白丸(Leitz製Uステージ使用)と黒点(TCK製Uステージ使用)でプロットしたもの (図a),Kamb法によるコンターダイアグラム(図b:Leitz製使用,図c:TCK製使用),両者の等密度線を重ね書きしたもの(図d)である.この比較から,FIPsの方位を計測し統計的に扱う限りにおいて,TCK製UステージはLeitz製Uステージと同等の実用性を有する,すなわちユニバーサルステージが復刻できたと考えられる.会場では,測定傾斜角の補正に関する検討結果等とともに,可能な限り実機を展示することを予定している.
ステレオ投影図作成にはRichard W. AllmendingerによるStereonet v.11.3.0を使用した.本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部である.
[引用文献]
Jolly, R. J. H. and Sanderson, D. J., 1997, J. Struct. Geol., 19, 887-892.
Kile, D. E., 2009, Geochemical News #140.
都城秋穂・久城育夫, 1972, 岩石学Ⅰ, 共立全書.
Takeshita, T, 1995, Tectonophysics, 245, 277-297.
Turner, F. J. and Weiss, L. E., 1963, Structural analysis of metamorphic tectonites, McGraw-Hill.

