講演情報
[T11-P-2]京都府京田辺市普賢寺川流域における降雨・水位応答の解析と防災評価に向けた3D可視化
*正田 陽宏1、横川 美和2 (1. 大阪工業大学大学院情報科学研究科、2. 大阪工業大学情報科学部)
キーワード:
京田辺市、普賢寺川、雨量、河川水位、3D
里山における水田農業は,農業用水の供給だけでなく,景観保全や生態系維持など多面的機能を有するグリーンインフラとしての価値が注目されている.一方,山間の急勾配河川では局地的な強雨に伴い急激に水位が変動し,短時間で氾濫・土砂災害に至るリスクが高い.本研究では,京都府京田辺市普賢寺川流域における降雨と河川水位の応答特性を詳細に解析し,防災評価と農業用水管理の高度化に向けた降雨と水位変化の関係を3D可視化したシステムの構築を目的とする.普賢寺川は,京田辺市南西部の生駒山地北部を源流とし,府道65号沿いに北北東へ流下して木津川に合流する全長約9kmの中小河川である.上流には棚田や溜池といった水利施設が多く分布し,農業用水の安定供給を支える一方で,豪雨時には洪水被害を引き起こす恐れもあるため上流域の一部は砂防地区に指定されている. 本研究では,2025年1月に上流の打田地点にHOBO U20Lウォーターレベルロガーを設置し,10分間隔で水位データを取得している.また,打田から8km下流の三山木地点について,京都府が設置した既存の水位データを活用し,流域の上下流間での水位応答の差などを解析した.雨量データは,京都府内の4箇所(高船,菱田,田辺,甘南備)と奈良県の1箇所(高山)の観測値を用い,逆距離加重法(IDW)により雨量計未設置地点の推定降雨量を補間した.流域の河道形状,周辺の土地利用,水利施設の配置状況を確認し,ストリートビュー画像も併用して棚田や溜池の状態,雨量観測点や水位計の設置状況,普賢寺川の流路構造をもとに調査結果を整理し,農業用水利用の視点を含めた流域についての調査を実施.さらに高船地点の雨量と三山木地点の水位について過去20年間のデータを解析し,雨量と水位の応答の長期間の変化についても考察した.
解析の結果,(1)2024年6月に高船地点で確認された降雨ピークの約1時間後に,下流地点で水位が穏やかに上昇し,その後徐々に減衰する応答がみられ,小規模降雨でも,2mmを超える降水があれば1〜3時間程度の遅れを伴って水位が上昇し,その後ゆるやかに低下する傾向が観測された.一方,1mm以下の降水では水位変動はほとんど生じず,一定の閾値雨量を超えたときに初めて明確な水位変動が発生する傾向が認められた.(2)2025年1月の降雨事例では,午前中の降雨に対して上流打田地点では水位変動が見られなかったのに対し,下流三山木地点では11時以降に水位上昇が始まり,約1.2時間遅れてピークとなる応答が観測された.(3)局地的な強雨や継続的な降雨が発生しやすい梅雨期にあたる2025年6月26日の事例では,上流の水位は9時40分にピークを示し,下流の水位は11時00分に最大値を記録した.両地点のピーク時刻の差は約80分であり,流域内の降雨応答における時間遅延を示す結果となった.(4)2010〜2014年の5年間と2020〜2024年の5年間の雨量-水位応答を比較すると,年間の最大雨量が台風来襲時に見られ,水位応答がなめらかな応答であるのに対し,後者は梅雨期に年間最高雨量日が集中しており,鋭く急激な水位上昇が特徴的であることがわかった.また両期間とも,日降水量と水位には正の相関がみられ,相関係数は前者がr≒0.45,後者がr≒0.57となる.
考察として,普賢寺川流域の地形条件や浸透能,河道構造の差異,さらには上流部の溜池や棚田を備え,流路の多くが三面張り構造であることから,農業用水の安定供給と同時に,洪水時の流出遅延機能を兼ね備えていることが要因と考えられる.特に地点ごとの水位応答の差異には,こうした水利施設と地形条件の複合的要素が大きく作用しており,単純な降雨量の大小だけでは説明できない.今後は長期観測に基づくデータの蓄積とリアルタイム予測技術の組み合わせにより,さらに高度で持続可能な流域管理が期待される.
本研究では現在,普賢寺川流域で得られた水位・雨量データを活用し,3D地形モデル上で水位挙動を可視化するシステムの構築を進めている.具体的には,標高データ(DEM)や航空レーザー測量による詳細地形情報をもとに,河道形状や流域内の構造物の空間情報を統合して三次元メッシュを作成し,そこに時系列の水位変動を重ねることで,洪水時の氾濫範囲や水位変動の推移をアニメーションとして視覚的に表現できる仕組みである.これにより,降雨イベントに伴う流域全体の氾濫・土砂災害を立体的に可視化し,防災リスク評価や避難計画の高度化に向けた意思決定支援を行うことが可能となる.
謝辞 本研究では京都府設置の雨量データ4箇所と水位データ1箇所について山城北土木事務所より,奈良県設置の雨量データ1箇所について奈良県県土マネジメント部河川整備課からご提供いただきました.ここに深く感謝申し上げます.
解析の結果,(1)2024年6月に高船地点で確認された降雨ピークの約1時間後に,下流地点で水位が穏やかに上昇し,その後徐々に減衰する応答がみられ,小規模降雨でも,2mmを超える降水があれば1〜3時間程度の遅れを伴って水位が上昇し,その後ゆるやかに低下する傾向が観測された.一方,1mm以下の降水では水位変動はほとんど生じず,一定の閾値雨量を超えたときに初めて明確な水位変動が発生する傾向が認められた.(2)2025年1月の降雨事例では,午前中の降雨に対して上流打田地点では水位変動が見られなかったのに対し,下流三山木地点では11時以降に水位上昇が始まり,約1.2時間遅れてピークとなる応答が観測された.(3)局地的な強雨や継続的な降雨が発生しやすい梅雨期にあたる2025年6月26日の事例では,上流の水位は9時40分にピークを示し,下流の水位は11時00分に最大値を記録した.両地点のピーク時刻の差は約80分であり,流域内の降雨応答における時間遅延を示す結果となった.(4)2010〜2014年の5年間と2020〜2024年の5年間の雨量-水位応答を比較すると,年間の最大雨量が台風来襲時に見られ,水位応答がなめらかな応答であるのに対し,後者は梅雨期に年間最高雨量日が集中しており,鋭く急激な水位上昇が特徴的であることがわかった.また両期間とも,日降水量と水位には正の相関がみられ,相関係数は前者がr≒0.45,後者がr≒0.57となる.
考察として,普賢寺川流域の地形条件や浸透能,河道構造の差異,さらには上流部の溜池や棚田を備え,流路の多くが三面張り構造であることから,農業用水の安定供給と同時に,洪水時の流出遅延機能を兼ね備えていることが要因と考えられる.特に地点ごとの水位応答の差異には,こうした水利施設と地形条件の複合的要素が大きく作用しており,単純な降雨量の大小だけでは説明できない.今後は長期観測に基づくデータの蓄積とリアルタイム予測技術の組み合わせにより,さらに高度で持続可能な流域管理が期待される.
本研究では現在,普賢寺川流域で得られた水位・雨量データを活用し,3D地形モデル上で水位挙動を可視化するシステムの構築を進めている.具体的には,標高データ(DEM)や航空レーザー測量による詳細地形情報をもとに,河道形状や流域内の構造物の空間情報を統合して三次元メッシュを作成し,そこに時系列の水位変動を重ねることで,洪水時の氾濫範囲や水位変動の推移をアニメーションとして視覚的に表現できる仕組みである.これにより,降雨イベントに伴う流域全体の氾濫・土砂災害を立体的に可視化し,防災リスク評価や避難計画の高度化に向けた意思決定支援を行うことが可能となる.
謝辞 本研究では京都府設置の雨量データ4箇所と水位データ1箇所について山城北土木事務所より,奈良県設置の雨量データ1箇所について奈良県県土マネジメント部河川整備課からご提供いただきました.ここに深く感謝申し上げます.
