講演情報

[G-P-15]白亜紀のハプト藻バイオマーカー・アルケノンC40:2Et:そのcis異性体の温度依存性と古環境学的意義

*長谷川 卓1、高橋 月香2 (1. 金沢大学理工研究域、2. 金沢大学自然科学研究科)
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キーワード:

アルケノン、古水温、白亜紀

 ハプト藻のバイオマーカーであるアルケノンは,炭素数37のものについてはその直鎖状炭素骨格中に含まれる不飽和部位の数(2不飽和と3不飽和)の比を取ることで,表層古水温の復元が可能である.それゆえ主に第四紀の古海洋学では広く用いられている.一方,Hasegawa & Goto (2024 Organic Geochemistry) は白亜紀の海洋無酸素事変OAE2層準の研究を進め,白亜紀の南半球から炭素数40の2不飽和アルケノンC40:2Et,更に白亜紀からは初めて3不飽和アルケノンC40:3Etを発見した.この研究でアルケノン古水温計の白亜紀研究での応用について可能性が高まった.彼らはガスクロマトグラフ上でC40:3Etと同時溶出するC40:2Etの異性体の存在を指摘していたが,不飽和部位の構造が2つともtransであるC40:2Etの存在量と比較すると存在量が少ないため,考察上は無視していた. 本研究で新たにOAE2の下位に当たる上部セノマニアン階からアルケノンを抽出し,ガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS)の選択イオンモニタリング(SIM)モードでC40:2Et(all trans), C40:2Et(cis isomer), C40:3Etの3分子についてその存在量を予察的に比較した結果,C40:2Et(cis isomer)の存在量の変動はC40:3Etと類似していることが判明した.このことはC40:2Et(cis isomer)もC40:3Eと同様に温度依存性を持っている可能性を示唆している.さらにC40:3Eの存在量が小さくなる層準(相対的に高温だったと推定される)においてもC40:2Et(cis isomer)は検出であった.このことから,古水温推定においてC40:3Eを用いた指標UK40を用いることができない高温側においてもC40:2Et(cis isomer)を用いて古水温情報を提供できる新たなツールを開発できる可能性がある. 現在はGCMSのSIMモードでの検討にとどまっているが,タンデム型CCMSを用いた3種のアルケノン分子の定量,さらに分離カラムを工夫することでガスクロマトグラフ上で3分子を分離する方法を開発するなどしてこれら分子の定量法を確立すること,また浮遊性有孔虫の酸素同位体比データと比較するなどして温度スケールを開発するなどの進展が望まれる.