講演情報
[T5-P-6]砕屑性ジルコン複合化学分析に基づく根田茂帯綱取ユニット形成史と前期古生代テクトニクスの解明
*中野 竜1、青木 翔吾1、内野 隆之2、福山 繭子3、昆 慶明2、板野 敬太3、飯塚 毅4 (1. 秋田大学大学院国際資源学研究科、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、3. 秋田大学大学院 理工学研究科、4. 東京大学大学院 理学系研究科)
キーワード:
砕屑性ジルコン、U-Pb年代、微量元素、Hf同位体比
日本列島の基盤をなす付加体や低温高圧型変成帯、花崗岩帯は約6億年前より、ゴンドワナ大陸周縁部で始まった太平洋型造山運動によって形成された弧-海溝系に由来する。これらの地質学・地球化学的情報は、過去の沈み込み帯テクトニクス・火成活動・古地理の変遷を復元する上で極めて重要な岩石記録である。しかし、日本列島に残存するペルム紀以前の地質記録は断片的であり、当時の弧-海溝系の実態を明らかにするには多くの未解明な点が残されている。北上山地中央部に分布する根田茂帯 綱取ユニットは、これまで前期石炭紀付加体であると考えられており、ペルム紀以前の弧-海溝系を復元する上で重要な岩石記録が分布する1, 2。しかし、産出する示準化石が限られており、その形成年代の制約には不確実性がある。そこで本研究では、綱取ユニットの砕屑岩の地質学的産状、および砕屑性ジルコンのU–Pb年代・微量元素組成・Hf同位体比組成に基づいて、堆積年代の制約を行うとともに、成長場の古地理や後背地のテクトニクス進化の復元を試みた。砕屑岩試料はU–Pb年代値に基づき2つのグループに分類される。一方は最若クラスター年代が420–400 Ma、もう一方は480–430 Maであり、前者は600–400 Maに単一のピークを持つ年代ヒストグラムを示し、後者は600–400 Ma、1300–900 Ma、および1800–1500 Maにピークを示した。また、600-400 Maの年代値を示すジルコンのうち、430Maより若いものは、U/YbやTh/Yb比が430Maより古いものに比べて低く、現在の海洋性島弧火成活動で結晶化したジルコンと同程度の値を示す3。さらに、510–600 Maの年代値を示すジルコンはHf同位体比(εHf)が-30〜0、430–510 Maのものは−5〜+5、430–400 Maのものは+5〜+15の範囲を示す。 綱取ユニットの砕屑岩は、珪長質凝灰岩をともなうことが多く、後背地では活発な火成活動が起きていたことが示唆される。すなわち、各砕屑岩の最若クラスターを構成するジルコンは、堆積当時の火成活動に由来するジルコンである可能性が高く、最若クラスター年代は堆積年代を表すと考えられる。したがって、綱取ユニットは420-400および480-430 Maの複数の堆積年代を持つ堆積岩ユニットから構成されることが示唆される。 480-430Maに堆積した砕屑岩の年代ヒストグラムの特徴と430 Ma以前のジルコンの高U/Yb, Th/Ybおよび低εHfは、綱取ユニット砕屑岩がマントル分化年代が古く、成熟した大陸地殻縁辺部で堆積したことを示す。デボン紀以前の原始日本列島は、当時の古生物地理に基づき、ゴンドワナ大陸北東縁に位置する南中国地塊や東CAOB、東オーストラリアに近接していたことが示唆されている4。各大陸地塊のカンブリア紀-シルル紀花崗岩類中のジルコンεHfは、南中国地塊および東オーストラリアにおいては負のεHf値(-20〜0)が支配的であり、綱取ユニットのデータとの一致は限定的である。一方、東CAOBのジルコンのεHfは−10〜+10を示し、綱取ユニットと一致する。したがって430 Ma以前の綱取ユニット 砕屑岩は東CAOB大陸ブロックの影響が強い環境で堆積したことが示唆される。また、420-400Maに堆積した砕屑岩の年代ヒストグラムと430-400 Maのジルコンの低U/Yb, Th/Ybおよび高εHfは後背地にて背弧拡大とそれに伴う未成熟な島弧地殻が形成されこと、それにともない古い大陸地殻からのジルコンの供給が絶たれたことを示唆する。引用文献 [1]永広・鈴木(2003)構造地質,47,13–21.[2]内野ほか(2005)地質学雑誌,111,249–252.[3]Barth et al. (2017) AGU, 18(10), 3576–3591.[4]Saito and Hashimoto (1982) Journal of Geophysical Research, 87(B5), 3691–3696.
