講演情報

[T5-P-8]プレート沈み込み帯における鉱物脈の分布密度と測定方法

*貞松 夏実1、坂口 有人1 (1. 山口大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

鉱物脈、四万十帯、沈み込み帯

 【はじめに】プレート沈み込み帯に存在する流体は地震発生や付加体形成に影響を及ぼすと考えられているが(例えばDavis et al., 1983)、流体がどのように移動しているのか詳しくわかっていない。流体は地震発生帯のような深度では粒子間隙を移動できず、亀裂にのみ存在するようになる(上原ほか, 2011)。そのため鉱物脈は深部の流体移動の情報を得る手がかりである(岡本, 2014)。過去のプレート沈み込み帯が露出する四万十帯および三波川帯では普遍的に鉱物脈は存在している。しかし、それは一様に分布しているわけではない。どの深度にどのように鉱物脈が発達しているのか、系統的な調査は行われてこなかった。本研究では四万十帯と三波川帯内の様々な古地温の場所を調査し、プレート沈み込み帯の深度方向における鉱物脈密度の分布や構成鉱物の実態解明を目指す。
【調査方法】古地温が異なる各地域の代表的な露頭において円形の領域を設定し、そこに存在するすべての鉱物脈の面積を計測する。露頭には鉱物脈の多いエリアや少ないエリアが不均質に存在するため、それぞれ複数ヶ所含むように調査範囲を設定する。調査範囲の面積が小さいと、この不均質の影響を受けて測定結果に差異が生じる。予備調査として面積を徐々に広げた場合の鉱物脈密度の変化を調べた結果、直径が小さい場合は面積の増加に伴って脈面積が大きく増減するが、直径10m以上では脈密度が面積に依存しなくなり、一定値になるので、直径10mの範囲を調べればその地域の鉱物脈密度を代表できることが分かった。本研究では、直径約10mの調査範囲を設定し、その中を見かけの鉱物脈密度によって複数の部分に区分する。各部分の代表的な場所に直径1mの円を設定し、その中において目視可能なすべての鉱物脈の面積を露頭で測定する。そして岩石試料を採取して、鏡下において微細な鉱物脈の面積も測定する。これらを積算して、直径約10mの調査範囲内の鉱物脈の密度を求める。
【結果】古地温が低い地域から高い地域まで22か所で調査した。その結果、古地温が約150℃と低い地点では鉱物脈密度が約7‱と低いが、古地温が150℃から260℃と上昇すると、鉱物脈密度が45‱などの高い値を示す地域が出現する。そして、古地温が約260から300℃付近になると、鉱物脈密度が100‱超と増加していき、古地温約350℃では鉱物脈密度が300‱と急増することが分かった。石英脈の幅に注目すると、幅1mm未満の鉱物脈は、どこでもほぼ一定の脈密度であった。これに対して幅1mm以上の鉱物脈密度は温度に依存して増加していく。おそらく細い鉱物脈は低温域で形成され、それがそのまま深部にまで持ち込まれるものと考えられる。そして深部では幅の厚い脈が発達すると考えられる。カルサイト脈は約150から250℃の低温域でのみ観察され、深部ではほとんど認められない。これは、低温域で形成されたカルサイト脈が沈み込むうちに完全に消失してしまったか、または、沈み込むプロセスではカルサイトは沈殿せずに地質体が比較的浅部で付加隆起に転じた後に、カルサイトが沈殿したために、深部まで持ち込まれた地質体にはカルサイト脈が少ないのではないかと考えられる。カルサイト脈の炭素同位体分析によると、一つの地域内に様々な値の脈があるが、それは構造的前後関係とは相関がなく、各地域における最小値は古地温と関係することが報告されている (内田ほか, 2021)。これはクラック形成とカルサイトの沈殿は必ずしも同時ではないことを意味し、上記の深部でカルサイトがない理由は後者の考えを示唆する。まとめると、沈み込み帯の流体は浅部では粒子の間隙を移動しているが、地温150℃以上では亀裂中を移動するようになる。浅いうちは幅の狭い亀裂を移動し、石英の細脈が形成される。温度が上昇するにつれて亀裂の本数が増えていき、深度と脈密度は比例する。地温が300から350℃になると亀裂の本数は増加せずに、幅が1mm以上に厚くなることで脈密度が急上昇する。
【引用文献】Davis,D., Suppe, J. and Dahlen, F.A.- (1983) Mechanics of fold-and-thrust belts and accretionary wedges, Journal of Geophysical Research, 88, 1153-1172.岡本敦(2014)鉱物脈組織から読み解く地殻流体流動, 岩石鉱物科学, 43, 25-29.上原真一, 嶋本利彦, 松本拓真, 新里忠史, 岡崎啓史, 高橋美紀 (2011) Journal of MMIJ, 127, 139-144.内田菜月・村山雅史・松原友輝・坂口有人(2021)四国四万十帯カルサイト脈の同位体組成からみた沈み込み帯地震発生深度の流体起源 ,地質学雑誌 ,127 , p701-708.