講演情報
[T15-P-1]静岡県中・西部沿岸で見られる暗褐色漂着軽石の特徴とその起源
藤島 智希1、桶川 晄太郎1、竹内 凌真1、飯田 陸斗1、榛村 笑凛1、榑松 宏征1、*青島 晃2 (1. 静岡県立磐田南高等学校、2. ふじのくに地球環境史ミュージアム)
キーワード:
漂着軽石、硫黄島、遠州灘、駿河湾
1.はじめに
2024年5月中旬に静岡県遠州灘と駿河湾西部の沿岸に暗褐色軽石が多数漂着した.採取した暗褐色軽石と酷似する軽石が,2024年3月中旬以降に沖縄県、同年5月上旬に神奈川県の海岸に漂着していた.これらはJAMSTEC(2024)によると,2023年10月に硫黄島の噴火に伴い噴出した軽石の可能性が高いことを指摘している.一方,過去に遠州灘に漂着した軽石について,白色軽石の一部がカワゴ平起源であること(川崎・鈴木,2024),2022年5月以降に漂着した灰色軽石が福徳岡ノ場起源であること(宇都宮ほか,2023;青島ほか,2024)が分っている.そこでこの暗褐色軽石の特徴を,沖縄県の硫黄島軽石や遠州灘の福徳岡ノ場軽石,カワゴ平軽石と比較しながら記載し,起源を推定することにした.
2.方法
軽石の比較した項目は外観の色調と付着生物,構成鉱物,全岩化学組成,火山ガラスの屈折率と化学組成である.構成鉱物は軽石をメノウ乳鉢で粉末し125~250㎛の粉末を双眼実体顕微鏡により鉱物の種類と割合,岩石薄片を作成して偏光顕微鏡により組織を観察した.全岩化学組成は63~125㎛の粉末試料を静岡県理工科大学先端機器分析センターの蛍光X線分析装置(ZSX PrimesⅡ)により全岩化学組成分析を行った.火山ガラスの屈折率は,ふじのくに地球環境史ミュージアムの温度変化型屈折率測定装置(RIMS86,87)により,125~250㎛の試料中の火山ガラスの屈折率を測定した.火山ガラスの化学組成は,JAMSTECの電子顕微鏡(JXA-8500F)により,薄片の火山ガラスの化学組成を分析した.
3.結果
各軽石の外観の特徴は,静岡県沿岸の軽石と沖縄の硫黄島軽石は,共に暗褐色多孔質である.一方,福徳岡ノ場軽石は,灰色の基質中にチョコチップクッキー様の黒色ガラス質クロットが散在しているものが多い.カワゴ平軽石は白色多孔質である.付着生物は,静岡県沿岸の暗褐色軽石と沖縄の硫黄島軽石には,カルエボシやコケムシなどが多数付着していたが,福徳岡ノ場軽石は少なく,カワゴ平軽石にはなかった.構成鉱物は,静岡県沿岸と沖縄の暗褐色軽石,福徳岡ノ場軽石は,かんらん石,単斜輝石,磁鉄鉱,斜長石からなり鉱物の種類は一致していた.一方,カワゴ平軽石は角閃石、斜方輝石、石英からなり,かんらん石がみられなかった.全岩化学組成は,暗褐色軽石と福徳岡ノ場軽石は,共にSiO₂の質量%が55%~63%で粗面安山岩または粗面岩/粗面岩質デイサイトの組成を示した.これは硫黄島軽石やJAMSTEC(2024),長井ほか(2024)の値とも一致している.一方,カワゴ平軽石はSiO₂の質量%が70%以上を示した.火山ガラスの屈折率は,静岡県の暗褐色軽石と沖縄の硫黄島軽石は1.520~1.525で高かったが,福徳岡ノ場軽石は1.510~1.515、カワゴ平軽石は1.495~1.500を示した.火山ガラスのアルカリ成分は,静岡県の暗褐色軽石はJMSTEC(2024)の傾向と一致し,長井・小林(2015)による硫黄島噴出物の範囲に入った.しかし,福徳岡ノ場軽石とカワゴ平軽石は,アルカリ成分が少なく傾向が異なった.以上より,静岡県沿岸の暗褐色軽石は、沖縄やJMSTEC(2024),藤島ほか(2025)の硫黄島軽石とは同様の特徴を示すが,福徳岡ノ場軽石やカワゴ平軽石とは異なる.このことから静岡県沿岸の暗褐色軽石は,硫黄島起源である.また,これまで未報告であった硫黄島軽石の火山ガラスの屈折率が,本研究により1.520~1.525であることが分り,これは硫黄島軽石を特定する新たな指標となる.今後は,この暗褐色軽石の時間を追った漂着状況の追跡調査や静岡県東部沿岸での調査を実施する計画である.
引用文献
青島ほか,2024,遠州灘海岸東部で見られる漂着軽石の特徴と起源の推定,日本地質学会第131年学術大会講演
要旨,T12-P-1.
藤島ほか,2025,駿河湾・遠州灘の漂着軽石を探る~暗褐色軽石の同定~,日本地球惑星科学連合2025年大会
講演要旨,O11-P02.
川崎琉菜・鈴木仁緒,2024,遠州灘の漂着軽石を探るⅡ,静岡県総合教育センター.
国立研究開発法人海洋研究開発機構,2024,南西諸島~関東地方に漂着した小笠原硫黄島由来と考えられる軽
石の岩石学的特徴と漂流シミュレーション検討,噴火予知連報告.
長井 雅史・小林哲夫,2015,小笠原硫黄島の火山形成史,地学雑誌.124(1),65-99.
長井ほか,2024,小笠原硫黄島翁浜沖2023年10月以降の噴火の経緯と噴出物の特徴 ,日本地質学会第131年学
術大会講演要旨,T12-O-2.
宇都宮ほか,2023,遠州灘の漂着軽石を探る-福徳岡ノ場起源の軽石との比較-,静岡県総合教育センター.
2024年5月中旬に静岡県遠州灘と駿河湾西部の沿岸に暗褐色軽石が多数漂着した.採取した暗褐色軽石と酷似する軽石が,2024年3月中旬以降に沖縄県、同年5月上旬に神奈川県の海岸に漂着していた.これらはJAMSTEC(2024)によると,2023年10月に硫黄島の噴火に伴い噴出した軽石の可能性が高いことを指摘している.一方,過去に遠州灘に漂着した軽石について,白色軽石の一部がカワゴ平起源であること(川崎・鈴木,2024),2022年5月以降に漂着した灰色軽石が福徳岡ノ場起源であること(宇都宮ほか,2023;青島ほか,2024)が分っている.そこでこの暗褐色軽石の特徴を,沖縄県の硫黄島軽石や遠州灘の福徳岡ノ場軽石,カワゴ平軽石と比較しながら記載し,起源を推定することにした.
2.方法
軽石の比較した項目は外観の色調と付着生物,構成鉱物,全岩化学組成,火山ガラスの屈折率と化学組成である.構成鉱物は軽石をメノウ乳鉢で粉末し125~250㎛の粉末を双眼実体顕微鏡により鉱物の種類と割合,岩石薄片を作成して偏光顕微鏡により組織を観察した.全岩化学組成は63~125㎛の粉末試料を静岡県理工科大学先端機器分析センターの蛍光X線分析装置(ZSX PrimesⅡ)により全岩化学組成分析を行った.火山ガラスの屈折率は,ふじのくに地球環境史ミュージアムの温度変化型屈折率測定装置(RIMS86,87)により,125~250㎛の試料中の火山ガラスの屈折率を測定した.火山ガラスの化学組成は,JAMSTECの電子顕微鏡(JXA-8500F)により,薄片の火山ガラスの化学組成を分析した.
3.結果
各軽石の外観の特徴は,静岡県沿岸の軽石と沖縄の硫黄島軽石は,共に暗褐色多孔質である.一方,福徳岡ノ場軽石は,灰色の基質中にチョコチップクッキー様の黒色ガラス質クロットが散在しているものが多い.カワゴ平軽石は白色多孔質である.付着生物は,静岡県沿岸の暗褐色軽石と沖縄の硫黄島軽石には,カルエボシやコケムシなどが多数付着していたが,福徳岡ノ場軽石は少なく,カワゴ平軽石にはなかった.構成鉱物は,静岡県沿岸と沖縄の暗褐色軽石,福徳岡ノ場軽石は,かんらん石,単斜輝石,磁鉄鉱,斜長石からなり鉱物の種類は一致していた.一方,カワゴ平軽石は角閃石、斜方輝石、石英からなり,かんらん石がみられなかった.全岩化学組成は,暗褐色軽石と福徳岡ノ場軽石は,共にSiO₂の質量%が55%~63%で粗面安山岩または粗面岩/粗面岩質デイサイトの組成を示した.これは硫黄島軽石やJAMSTEC(2024),長井ほか(2024)の値とも一致している.一方,カワゴ平軽石はSiO₂の質量%が70%以上を示した.火山ガラスの屈折率は,静岡県の暗褐色軽石と沖縄の硫黄島軽石は1.520~1.525で高かったが,福徳岡ノ場軽石は1.510~1.515、カワゴ平軽石は1.495~1.500を示した.火山ガラスのアルカリ成分は,静岡県の暗褐色軽石はJMSTEC(2024)の傾向と一致し,長井・小林(2015)による硫黄島噴出物の範囲に入った.しかし,福徳岡ノ場軽石とカワゴ平軽石は,アルカリ成分が少なく傾向が異なった.以上より,静岡県沿岸の暗褐色軽石は、沖縄やJMSTEC(2024),藤島ほか(2025)の硫黄島軽石とは同様の特徴を示すが,福徳岡ノ場軽石やカワゴ平軽石とは異なる.このことから静岡県沿岸の暗褐色軽石は,硫黄島起源である.また,これまで未報告であった硫黄島軽石の火山ガラスの屈折率が,本研究により1.520~1.525であることが分り,これは硫黄島軽石を特定する新たな指標となる.今後は,この暗褐色軽石の時間を追った漂着状況の追跡調査や静岡県東部沿岸での調査を実施する計画である.
引用文献
青島ほか,2024,遠州灘海岸東部で見られる漂着軽石の特徴と起源の推定,日本地質学会第131年学術大会講演
要旨,T12-P-1.
藤島ほか,2025,駿河湾・遠州灘の漂着軽石を探る~暗褐色軽石の同定~,日本地球惑星科学連合2025年大会
講演要旨,O11-P02.
川崎琉菜・鈴木仁緒,2024,遠州灘の漂着軽石を探るⅡ,静岡県総合教育センター.
国立研究開発法人海洋研究開発機構,2024,南西諸島~関東地方に漂着した小笠原硫黄島由来と考えられる軽
石の岩石学的特徴と漂流シミュレーション検討,噴火予知連報告.
長井 雅史・小林哲夫,2015,小笠原硫黄島の火山形成史,地学雑誌.124(1),65-99.
長井ほか,2024,小笠原硫黄島翁浜沖2023年10月以降の噴火の経緯と噴出物の特徴 ,日本地質学会第131年学
術大会講演要旨,T12-O-2.
宇都宮ほか,2023,遠州灘の漂着軽石を探る-福徳岡ノ場起源の軽石との比較-,静岡県総合教育センター.
