講演情報

[T15-P-3]福徳岡ノ場2021年噴火に伴う軽石ラフトの定量的評価の試み

*石毛 康介1、竹内 晋吾1、上澤 真平1、土志田 潔1、 諏訪 由起子2 (1. 一般財団法人 電力中央研究所、2. 株式会社セレス)
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キーワード:

軽石、衛星、福徳岡ノ場、火山

 2021年8月に発生した福徳岡ノ場の海底噴火では,大量の軽石が海上に浮遊し,軽石ラフトとして広域に漂流した.このような軽石ラフトは,衛星や航空機によってその面的な分布を観測することは可能であるが,層厚や内部構造の把握は困難であり,それに伴って体積や粒度分布の推定には限界がある.そのため,船舶による海上観測や,ラフトが陸域に接近した際に詳細に観察することが望ましいが,研究例が限られているのが現状である(e.g. Brandl et al., 2020; Jutzeler et al., 2014).本研究では,福徳岡ノ場噴火に伴って発生した軽石ラフトを対象に,衛星画像解析,現地調査,軽石の物性評価,水槽実験の結果を組み合わせることで,漂流層厚および漂流体積の定量的な評価を試みた.
 まず,約4か月間にわたる衛星画像の時系列解析により,軽石ラフトの漂流経路および拡散過程を可視化した.特に,台風の接近によって拡散が顕著に進んだ2021年10月上旬までの時期について,衛星画像中の軽石ラフトの色調の違いを基にした,海面被覆率を区別して推定する手法を検討し,最大拡散面積および拡大率を定量化した.その結果,軽石ラフトが最大限に拡散したと推定される2021年10月2日時点における漂流総面積は約596 km²と見積もられた.また,噴出初期の漂流面積については,Maeno et al.(2022)による推定結果(8月15日10:00 JST時点で約300 km²)と,本研究における観測結果との間に概ね整合的な結果が得られた.
 次に,沖縄本島沿岸に接近した軽石ラフトを対象として,現地において漂流・漂着状態を観察し,さらに橋の下を通過する軽石ラフトを橋上から採集した.この採集試料を用いて室内水槽実験を実施し,漂流状態を再現したうえで透明な水槽壁面での軽石ラフト断面を観察したところ,上方に細粒化する級化構造が観察された.また,軽石ラフト断面の画像解析による漂流層厚の測定を行い,希薄な軽石ラフトについて0.7-0.8 cmの漂流層厚が得られた.さらに,代表的な軽石粒子については3Dスキャナを用いたかさ密度の測定を行った結果,灰色軽石(Gray Pumice)では平均約0.5 g/cm³の密度が得られた.また,軽石ラフト内における軽石の充填率を算出した結果,層厚1 cm未満では40~50%,層厚2 cm前後では約60%であることが示された.
 これらの漂流総面積,漂流層厚,充填率の結果を統合し,2021年10月2日時点の軽石ラフトの体積を最小で約0.002~0.003 km³と推定した.本研究は,衛星観測と現地調査,実験的手法を統合することで,軽石ラフトの定量的な評価が可能であることを示したものであり,軽石ラフトのモニタリング高度化に資する基礎的知見を提供する.
(参考文献) Brandl, et al. (2020). J Volcanol Geotherm Res, 390. Jutzeler, et al. (2020). Geophys Res Lett, 47(5). Maeno, et al. (2022). Commun Earth Environ, 3(1).