講演情報
[T13-O-1]2011年東北地方太平洋沖地震津波による浅海底への影響と10年後の変化
*横山 由香1、大宮 颯世2、赤木 遥香4、渡邊 聡士1、藤巻 三樹雄2、佐藤 悠介3、坂本 泉1 (1. 東海大学海洋学部、2. 海洋エンジニアリング㈱、3. ㈱マリンワークジャパン、4. 津山市立北稜中学校)
キーワード:
2011年東北地方太平洋沖地震、津波堆積物、浅海域、カレントマーク
2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(以下,2011年東北沖地震)が発生し,それに伴う津波によって東北地方太平洋沿岸域は甚大な被害を受けた.2011年東北沖地震後には,海域から陸上津波遡上域にかけて津波堆積物に関する調査が行われ,多くの報告がなされた.本研究の対象である浅海域では,地震津波による浅海底の変化や浅海底に記録される津波痕跡が明らかとなった(横山ほか,2021,2023).しかし,海底に残された痕跡がどのように変化し,保存または消失するのかといった研究はあまり行われていない.そこで,本研究では,2011年東北沖地震津波から約10年後の浅海域において,それらの痕跡の変化過程の把握・解明を試みた.
対象海域は,岩手県釜石市唐丹湾とした.唐丹湾では,これまでも2011年東北沖地震津波後の2012~2015年に海底地形,地層探査およびコア試料の取得を行い,津波による浅海底の変化および津波堆積物の特徴について,調査・研究を行っている.本研究では,海底地形(2020年),地層探査・堆積物(2023年)の追加調査を行い,2011年東北沖地震津波から約10年における海底変化を確認した.
唐丹湾では,地震津波直後の調査において,水深10~30 m付近の海底にカレントマーク(約300個)が確認され,その凸部は北西方向(沿岸)を向いた.その多くは中央部に高まりを持ち,その周辺が凹地となっている.その形状から,これらは北西―南東方向の流れによって形成されたと推察される.中心部の高まりは海底映像から,地震前約1 km離れた片岸川河口に設置された消波ブロック(約2 t)であり,津波によって運搬されたことが明らかとなった.この特徴的な地形は,地震津波前および地震後設置の構造物周辺には見られないことから,通常の海況では形成されないと考えられる.したがって,2011年東北沖地震津波時に形成され,引き波によるものと考えられた.
2020年の再調査からもこれらの特徴的な地形は確認された.しかし,水深約20 m以浅の多くの地点では見られなくなった.これらの地形に対し,2013年と2020年の地形変化量を求めたところ,水深15~20 mでは変化量(~約±55 cm)が大きく,水深20~30 mでは小さい(~約±25 cm)ことが明らかになった.一般に,水深20 m付近は,晴天時波浪限界と考えられ,それ以浅では常時波浪の影響を受けることにより,カレントマークが消失したと考えられる.水深20 m以深では,今後も海底に保存される可能性が高いが,時間経過とともに,どのように変化するのか,引き続き確認する必要がある.
地層探査記録からは,2012~2015年および2020年の結果に大きな変化は認められなかった.次に,2012年と2020年にほぼ同地点(水深約17 m)で採取したコア試料の比較を行った.2012年採取試料は,上位から砂質堆積物層(Unit1),泥~泥混じり砂質堆積物層(Unit2)からなり,両者は明瞭な境界で区分され,岩相特徴からUnit1が2011年津波堆積物,Unit2が津波前湾内堆積物と推定した.2011年津波堆積物層は,厚さ65 cm,極細粒砂~礫からなり,3回の級化構造と最上位の極細粒砂層に区分された.
2023年に採取した同地点の試料も,同様に上位から2011年津波堆積物(Unit1),津波前湾内堆積物(Unit2)に区分された.層厚は76 cmと2012年試料よりやや厚いものの,粒度は粗粒シルト~礫からなり,3回の級化構造と最上位のシルト層に区分され,全体としての粒度パターンは2012年に類似した.したがって,海底地形で見られたほどの変化は堆積物からは確認されず,浅海底は津波堆積物をよく保存していると考えられる.しかし,最上位層に関しては,粒子特性から2023年は2012年よりやや細粒な傾向を示し,2012年最上位層よりも下位のUnit2と類似する特徴を示し,津波直後から10年間に渡る堆積作用の結果,それらの組成は津波以前の湾内堆積物に戻っていったと考えられる.
以上より,2011年東北沖地震津波後の10年間で,水深約20 m以浅は海底表層の地形変化が認められたが,海底下の津波堆積物層は,極表層以外には大きな変化は認められなかった.したがって,浅海底は津波による堆積物をよく保存する可能性が推察された.今後は,場所・水深による違い,より長い年月が経った際の変化ついても検討する必要がある.これらの結果は,浅海底における津波時堆積過程・堆積物移動メカニズムの解明および,海底から津波履歴を探査する上での重要な知見となると考えられる.
[引用文献]横山他(2021)堆積学研究,79(2)47-69.横山他(2023)堆積学研究,81(1/2)27-41.
対象海域は,岩手県釜石市唐丹湾とした.唐丹湾では,これまでも2011年東北沖地震津波後の2012~2015年に海底地形,地層探査およびコア試料の取得を行い,津波による浅海底の変化および津波堆積物の特徴について,調査・研究を行っている.本研究では,海底地形(2020年),地層探査・堆積物(2023年)の追加調査を行い,2011年東北沖地震津波から約10年における海底変化を確認した.
唐丹湾では,地震津波直後の調査において,水深10~30 m付近の海底にカレントマーク(約300個)が確認され,その凸部は北西方向(沿岸)を向いた.その多くは中央部に高まりを持ち,その周辺が凹地となっている.その形状から,これらは北西―南東方向の流れによって形成されたと推察される.中心部の高まりは海底映像から,地震前約1 km離れた片岸川河口に設置された消波ブロック(約2 t)であり,津波によって運搬されたことが明らかとなった.この特徴的な地形は,地震津波前および地震後設置の構造物周辺には見られないことから,通常の海況では形成されないと考えられる.したがって,2011年東北沖地震津波時に形成され,引き波によるものと考えられた.
2020年の再調査からもこれらの特徴的な地形は確認された.しかし,水深約20 m以浅の多くの地点では見られなくなった.これらの地形に対し,2013年と2020年の地形変化量を求めたところ,水深15~20 mでは変化量(~約±55 cm)が大きく,水深20~30 mでは小さい(~約±25 cm)ことが明らかになった.一般に,水深20 m付近は,晴天時波浪限界と考えられ,それ以浅では常時波浪の影響を受けることにより,カレントマークが消失したと考えられる.水深20 m以深では,今後も海底に保存される可能性が高いが,時間経過とともに,どのように変化するのか,引き続き確認する必要がある.
地層探査記録からは,2012~2015年および2020年の結果に大きな変化は認められなかった.次に,2012年と2020年にほぼ同地点(水深約17 m)で採取したコア試料の比較を行った.2012年採取試料は,上位から砂質堆積物層(Unit1),泥~泥混じり砂質堆積物層(Unit2)からなり,両者は明瞭な境界で区分され,岩相特徴からUnit1が2011年津波堆積物,Unit2が津波前湾内堆積物と推定した.2011年津波堆積物層は,厚さ65 cm,極細粒砂~礫からなり,3回の級化構造と最上位の極細粒砂層に区分された.
2023年に採取した同地点の試料も,同様に上位から2011年津波堆積物(Unit1),津波前湾内堆積物(Unit2)に区分された.層厚は76 cmと2012年試料よりやや厚いものの,粒度は粗粒シルト~礫からなり,3回の級化構造と最上位のシルト層に区分され,全体としての粒度パターンは2012年に類似した.したがって,海底地形で見られたほどの変化は堆積物からは確認されず,浅海底は津波堆積物をよく保存していると考えられる.しかし,最上位層に関しては,粒子特性から2023年は2012年よりやや細粒な傾向を示し,2012年最上位層よりも下位のUnit2と類似する特徴を示し,津波直後から10年間に渡る堆積作用の結果,それらの組成は津波以前の湾内堆積物に戻っていったと考えられる.
以上より,2011年東北沖地震津波後の10年間で,水深約20 m以浅は海底表層の地形変化が認められたが,海底下の津波堆積物層は,極表層以外には大きな変化は認められなかった.したがって,浅海底は津波による堆積物をよく保存する可能性が推察された.今後は,場所・水深による違い,より長い年月が経った際の変化ついても検討する必要がある.これらの結果は,浅海底における津波時堆積過程・堆積物移動メカニズムの解明および,海底から津波履歴を探査する上での重要な知見となると考えられる.
[引用文献]横山他(2021)堆積学研究,79(2)47-69.横山他(2023)堆積学研究,81(1/2)27-41.
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