講演情報
[T13-O-4]古土壌が記録したチベット高原南部ムスタン地方における中新世~更新世の気候区の変遷
*葉田野 希1、吉田 孝紀2、Gyawali Babu Ram4、杉山 春来3、島田 誠明3 (1. 長野県環境保全研究所自然環境部、2. 信州大学理学部、3. 信州大学大学院総合理工学研究科、4. ポカラ大学)
キーワード:
南アジア・モンスーン、雨陰、古土壌、堆積相解析、中央ネパール
はじめに:チベット高原・ヒマラヤ山脈の隆起は,アジア・モンスーンの成立と変動に影響を及ぼした.特に,チベット高原南部は,中期中新世から高い標高を維持したとされ [1],南アジア・モンスーンの成立や降水の地域的な偏在を生じさせた.チベット高原南端のムスタン地方には,新第三系から第四系までの一連の陸成層が分布する [2].このうち,中部中新統Tetang層および上部中新統~更新統Thakkhola層には,複数の古土壌が挟まれ,山脈配置の変化に伴う地域的な気候区の変遷やモンスーン気候の成立を記録していることが期待される.本研究では,ムスタン地方のTetang層とThakkhola層の古土壌タイプを区分し,チベット高原南部での中新世以降の気候区の変遷を追跡した.
地質概説:ムスタン地方は,チベット高原とヒマラヤ山脈の間に位置する標高約1,500~5,000 mの高地であり,現在はステップ・ツンドラ気候下にある [3].当地域には,インド・ユーラシア大陸衝突後の東西性引張応力場で形成されたタコーラ―ムスタン地溝が分布し,ジュラ系~白亜系の基盤岩上に中新世以降の陸成層が堆積する [4].本研究では,Tetang セクションに分布するTetang層とCheleセクションに位置するThakkhola層を対象に調査を行った.古地磁気年代からは,Tetang層で11~9.6 Ma [5],Thakkhola層で8~2 Ma [6]の堆積年代が報告されている.
古土壌タイプの区分:Tetang層は,層厚最大200 m以上を示す.本層は下位より,礫岩が卓越する扇状地性堆積物,礫岩,砂岩,泥岩,石灰岩から構成される蛇行河川性堆積物,石灰岩を挟み泥岩が卓越する湖沼性堆積物に区分される.扇状地性堆積物では,赤錆色の土色,漂白された根痕,鉄酸化物被覆,粘土集積構造,有機物や易風化鉱物の欠如に特徴づけられるOxisol (熱帯性の土壌)に類似する古土壌が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,A,B層への土層分化,有機物の残存,斑紋,菱鉄鉱ノジュール,粘土被膜に特徴づけられ,グライ化したInceptisol (若い土壌)やUltisol(塩基に乏しい森林土壌)に相当する.湖沼性堆積物の古土壌は,鉄・マンガンノジュール,鉄酸化物によるリゾリスを産し,土層分化に乏しく,グライ化したInceptisolに区分される.
Thakkhola層は,層厚最大600 m以上を示す.本層は,基質支持礫岩と斜交層理礫岩からなる扇状地性堆積物,斜交層理礫岩からなる網状河川性堆積物,斜交層理礫岩・砂岩,泥岩,石灰岩からなるファンデルタ性堆積物・蛇行河川性堆積物,泥岩と石灰岩からなる湖沼性堆積物より構成される.ファンデルタ性堆積物には,青灰色の土色,斑紋,ドラブ・ハロー状の根痕に特徴づけられるグライ化したEntisol (最初期の土壌)が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,カリーチの存在からAridisol (乾燥域の土壌)に区分される.また,斑紋やリゾリスを産するグライ化したEntisolが識別され,地下水位の季節的な変動が示唆される.湖沼性堆積物には,リゾリスにより古土壌の存在が認識できるが,上位にのる砂層の侵食作用によって古土壌層上部が欠如している.
議論:中期中新世のTetang層では,亜熱帯~熱帯気候下で形成されるOxisolから,温暖湿潤気候下で形成されるUltisol,高い地下水位を示すグライ土壌へと,古土壌タイプの変化が認められる.中期中新世では,現在の当地域と比べて温暖湿潤な気候が卓越していたと考えられる.前期中新世~更新世のThakkhola層では,Aridisolの存在から乾燥気候の卓越が支持される.こうした気候区の変遷の要因として,チベット高原・ヒマラヤ山脈の隆起による雨陰の出現や当地域の高度上昇,モンスーン気候の強化が考えられる.
文献 [1] Currie, B.S. et al., 2005. Geology 33, 181–184. [2] Adhikari, B.R., 2009. Ph.D. Thesis, Vienna Univ., Austria, 158p. [3] Karki, R. et al., 2015. Theor. Appl. Climat. 125, 799–808. [4] Coleman, M., Hodges, K., 1995. Nature 374, 49–52. [5] Yoshida, M. et al., 1984. Jour. Nepal Geol. Soc. 4, 101–120. [6] Garzione, C.N. et al., 2000. Geology 28, 339–342.
地質概説:ムスタン地方は,チベット高原とヒマラヤ山脈の間に位置する標高約1,500~5,000 mの高地であり,現在はステップ・ツンドラ気候下にある [3].当地域には,インド・ユーラシア大陸衝突後の東西性引張応力場で形成されたタコーラ―ムスタン地溝が分布し,ジュラ系~白亜系の基盤岩上に中新世以降の陸成層が堆積する [4].本研究では,Tetang セクションに分布するTetang層とCheleセクションに位置するThakkhola層を対象に調査を行った.古地磁気年代からは,Tetang層で11~9.6 Ma [5],Thakkhola層で8~2 Ma [6]の堆積年代が報告されている.
古土壌タイプの区分:Tetang層は,層厚最大200 m以上を示す.本層は下位より,礫岩が卓越する扇状地性堆積物,礫岩,砂岩,泥岩,石灰岩から構成される蛇行河川性堆積物,石灰岩を挟み泥岩が卓越する湖沼性堆積物に区分される.扇状地性堆積物では,赤錆色の土色,漂白された根痕,鉄酸化物被覆,粘土集積構造,有機物や易風化鉱物の欠如に特徴づけられるOxisol (熱帯性の土壌)に類似する古土壌が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,A,B層への土層分化,有機物の残存,斑紋,菱鉄鉱ノジュール,粘土被膜に特徴づけられ,グライ化したInceptisol (若い土壌)やUltisol(塩基に乏しい森林土壌)に相当する.湖沼性堆積物の古土壌は,鉄・マンガンノジュール,鉄酸化物によるリゾリスを産し,土層分化に乏しく,グライ化したInceptisolに区分される.
Thakkhola層は,層厚最大600 m以上を示す.本層は,基質支持礫岩と斜交層理礫岩からなる扇状地性堆積物,斜交層理礫岩からなる網状河川性堆積物,斜交層理礫岩・砂岩,泥岩,石灰岩からなるファンデルタ性堆積物・蛇行河川性堆積物,泥岩と石灰岩からなる湖沼性堆積物より構成される.ファンデルタ性堆積物には,青灰色の土色,斑紋,ドラブ・ハロー状の根痕に特徴づけられるグライ化したEntisol (最初期の土壌)が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,カリーチの存在からAridisol (乾燥域の土壌)に区分される.また,斑紋やリゾリスを産するグライ化したEntisolが識別され,地下水位の季節的な変動が示唆される.湖沼性堆積物には,リゾリスにより古土壌の存在が認識できるが,上位にのる砂層の侵食作用によって古土壌層上部が欠如している.
議論:中期中新世のTetang層では,亜熱帯~熱帯気候下で形成されるOxisolから,温暖湿潤気候下で形成されるUltisol,高い地下水位を示すグライ土壌へと,古土壌タイプの変化が認められる.中期中新世では,現在の当地域と比べて温暖湿潤な気候が卓越していたと考えられる.前期中新世~更新世のThakkhola層では,Aridisolの存在から乾燥気候の卓越が支持される.こうした気候区の変遷の要因として,チベット高原・ヒマラヤ山脈の隆起による雨陰の出現や当地域の高度上昇,モンスーン気候の強化が考えられる.
文献 [1] Currie, B.S. et al., 2005. Geology 33, 181–184. [2] Adhikari, B.R., 2009. Ph.D. Thesis, Vienna Univ., Austria, 158p. [3] Karki, R. et al., 2015. Theor. Appl. Climat. 125, 799–808. [4] Coleman, M., Hodges, K., 1995. Nature 374, 49–52. [5] Yoshida, M. et al., 1984. Jour. Nepal Geol. Soc. 4, 101–120. [6] Garzione, C.N. et al., 2000. Geology 28, 339–342.
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