講演情報
[T13-O-7]FAに富むケロジェンの堆積過程と石油地質学的意義
*安藤 卓人1、八代 喬介1、Sulhuzair Burhanuddin Muhammad1、千代延 俊1 (1. 秋田大学)
キーワード:
ケロジェン、蛍光顕微鏡、石油根源岩、アモルファス有機物
堆積岩中の有機溶媒および酸・塩基に不溶なケロジェンは,一般的にType IからIVに区分することができる。そのうち,Type I/IIケロジェンは石油指向な水素に富む水生生物由来の有機物, TypeIIIケロジェンはガス指向な酸素に富む陸源有機物であるとされている。蛍光顕微鏡を用いたパリノファシス分析では,アモルファス有機物 (AOM) をFA (fluorescent AOM),WFA (weakly fluorescent AOM),NFA (non-fluorescent AOM) に区分する。高分子の場合,芳香族化合物より脂肪族化合物を多く含む場合の方が紫外線照射時の自家蛍光が強い。WFAの大部分は,水生生物由来の糖やアミノ酸がメイラード反応で再度縮重合したことにより生成するとされ,第130年学術大会の発表者らの講演では,これらの反応が河川水中などの低温下でも進行していることを示した。一方で, FAは脂質に富む植物のクチクラ組織由来のクチン (Cutin) や微細藻類由来のアルジナン (Algaenan) など,NFAは芳香族化合物に富む高等植物由来のリグニンなどの分解されにくい抵抗性高分子が「核」となっている。興味深いのは,陸上高等植物には部位ごとに有機高分子の成分に違いがあり,輸送過程や保存性もそれぞれで異なることである。したがって,選択的にFA,すなわちクチクラなどの脂質に富む成分・部位が堆積した場合には,陸起源物質に富む堆積岩であっても石油を多く排出する (Type I/II的である) ことがある。本発表では,ケロジェンにおけるFAの濃集機構の例として,チュクチ海バローキャニオンの過去40年間の堆積物,インドネシア・スラウェシ島南東部中生界堆積岩に関して議論する。
バローキャニオンBC2 siteで2022年に研究船「みらい」のHAPPI航海によって採取された堆積物コア試料(全長:29cm)を用いて,パリノファシス分析を行なった。BC2 site試料はNFAとFAがあわせて95%以上,表層付近ではNFAが60%以上,FAが約20%を占め,海洋底堆積物であるのにも関わらず陸源有機物がほとんどであることがわかった。また,FlowCam®(フローイメージング顕微鏡)を用いた分析から,FAは輸送過程で5-20µm径まで細かくなったクチクラ組織であることがわかった。加えて,1980年から2000年にかけて,FAの割合が約10%増加していた。大陸縁辺部に堆積していたFAに富む陸源有機物が,1980年から2000年に海氷減少をもたらした急激な気候変動に伴ったアラスカ沿岸流の強化によって再懸濁し,BC2 siteにより堆積しやすくなったと考えられる。したがって,再堆積によるケロジェン粒子の密度に依存した再分配の結果,クチクラ組織が選択的に保存される過程が示された。
インドネシア・スラウェシ島南東部中生界堆積岩は,Rock Eval分析によって,TypeIIケロジェンに分類される高いHydrogen Indexで特徴づけられ,石油根源能力が高い。この試料に対してパリノファシス分析を行なったところ,陸源有機物の寄与が大きく,そのうちFAとクチクラ組織が30%以上を占めた。岩石チップ試料の蛍光顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察から,これらのケロジェンは粘土鉱物中に多く含まれ,陸源砕屑粒子とともに輸送されたことが示された。また,個別ケロジェン粒子の顕微FT-IR分析から,クチクラ組織とFAに富むAOMがC-H結合に富むこと,バルクATR-FTIR分析ではより高いC-H結合のバンドが検出され,分解・再縮重合過程における更なる脂質成分の濃集が示唆された。以上のことから,中生代においても陸源砕屑粒子の(再)堆積と同時にクチクラ組織が選択的に保存されたこと,続成作用によって更なる濃集過程が生じた可能性が示唆された。
これらの結果は,陸源有機物の再配分の石油生成における重要性を指摘し,陸源有機物に富む海成堆積岩における石油根源岩能力の有機地球化学・堆積学的な再検討の必要性を示す。
バローキャニオンBC2 siteで2022年に研究船「みらい」のHAPPI航海によって採取された堆積物コア試料(全長:29cm)を用いて,パリノファシス分析を行なった。BC2 site試料はNFAとFAがあわせて95%以上,表層付近ではNFAが60%以上,FAが約20%を占め,海洋底堆積物であるのにも関わらず陸源有機物がほとんどであることがわかった。また,FlowCam®(フローイメージング顕微鏡)を用いた分析から,FAは輸送過程で5-20µm径まで細かくなったクチクラ組織であることがわかった。加えて,1980年から2000年にかけて,FAの割合が約10%増加していた。大陸縁辺部に堆積していたFAに富む陸源有機物が,1980年から2000年に海氷減少をもたらした急激な気候変動に伴ったアラスカ沿岸流の強化によって再懸濁し,BC2 siteにより堆積しやすくなったと考えられる。したがって,再堆積によるケロジェン粒子の密度に依存した再分配の結果,クチクラ組織が選択的に保存される過程が示された。
インドネシア・スラウェシ島南東部中生界堆積岩は,Rock Eval分析によって,TypeIIケロジェンに分類される高いHydrogen Indexで特徴づけられ,石油根源能力が高い。この試料に対してパリノファシス分析を行なったところ,陸源有機物の寄与が大きく,そのうちFAとクチクラ組織が30%以上を占めた。岩石チップ試料の蛍光顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察から,これらのケロジェンは粘土鉱物中に多く含まれ,陸源砕屑粒子とともに輸送されたことが示された。また,個別ケロジェン粒子の顕微FT-IR分析から,クチクラ組織とFAに富むAOMがC-H結合に富むこと,バルクATR-FTIR分析ではより高いC-H結合のバンドが検出され,分解・再縮重合過程における更なる脂質成分の濃集が示唆された。以上のことから,中生代においても陸源砕屑粒子の(再)堆積と同時にクチクラ組織が選択的に保存されたこと,続成作用によって更なる濃集過程が生じた可能性が示唆された。
これらの結果は,陸源有機物の再配分の石油生成における重要性を指摘し,陸源有機物に富む海成堆積岩における石油根源岩能力の有機地球化学・堆積学的な再検討の必要性を示す。
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