講演情報
[T10-P-4]X線光電子分光法(XPS)を用いた断層破砕帯中の酸化グラフェンの同定と化学状態の解析★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*島田 知弥1、長濱 裕幸1、武藤 潤1、中村 教博2 (1. 東北大学大学院理学研究科地学専攻、2. 東北学院大学高等教育開発室)
キーワード:
酸化グラフェン、ラマン分光法、X線光電子分光法(XPS)、断層ガウジ、酸素含有官能基
断層中のグラファイトは、摩擦係数が0.1程度(通常の岩石は0.6程度)であり、断層の摩擦強度を下げる重要な要因の一つであると考えられている (Cao & Neubauer, 2019Earth Sci. Rev.)。Oohashi et al. (2012J. Struct. Geol.)は跡津川断層系でグラファイトが最大12 wt%含まれ、幅広いすべり速度で断層の摩擦特性に影響を与えるのに十分な量であることを示した。それに対して、日高変成帯では断層運動によりグラファイトが粉砕され、グラファイトの積層構造が剥離するプロセスが報告されている(Nakamura et al., 2012J. Struct. Geol.)。グラファイトの積層構造が剥離されると,より低摩擦なグラフェンが生成されることが実験で確かめられている(Geim & Novoselov, 2007Nat. Mater.)。さらに,グラフェンが酸化し酸素含有官能基を持つ酸化グラフェンが生成すると,摩擦係数が0.01以下(Bouchet et al., 2017Sci. Rep.)に低下するため,これまで考えられてきた以上に断層の摩擦強度を著しく下げる可能性がある。
そこで、本研究は、酸化グラフェンがグラファイトを含む断層に存在するのかを調べ,酸化グラフェンが摩擦強度を下げる可能性があるかどうかを調べるために、ラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を使用して、跡津川断層系茂住祐延(もずみすけのべ)断層のガウジ試料中に含まれる炭質物の構造解析を行った。その結果,世界で初めて活断層中に酸化グラフェンを発見したので報告する。
本研究のラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を用いた分析は、ガウジ試料の黒い炭質物と考えられる部分をスポット測定した。ラマン分光分析による酸化グラフェンの同定において、ラマンスペクトルの見かけのGピークと、2D‘ピークのラマンシフトを半分にして推定されたD’ピークのラマンシフト差が、負の値の時、酸化グラフェンに分類(King et al., 2016Sci. Rep.)した。また、X線光電子分光法(XPS)分析は、物質に弱いX線を当て、原子を励起させ、そこから放出したX線を検出する方法である。XPS分析より酸化グラフェンの同定を行い、さらにカルボキシ基やヒドロキシ基、炭素結合などの化学結合状態や酸素含有量を調べた。
ラマン分光分析の結果、跡津川断層系の断層岩試料は多くの測定点で酸化グラフェンの存在が認められた。また、ラマンスペクトルの波形分離解析(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)から、酸化グラフェンの酸素含有量は10~20 wt%と推定できた。XPS分析の結果、跡津川断層系の岩石試料にはヒドロキシ基やカルボキシ基などの酸素含有官能基が約33 atm%含まれ、酸素含有量が31.3 wt%(O/C比が0.34)であった。また、XPSスペクトルの解析により、sp2の炭素の二重結合(グラフェン構造)とsp3の炭素の単結合の比がおよそ7:3であり、酸素含有官能基の中でヒドロキシ基が最も多く、エポキシ基やカルボニル基は微量であった。
グラフェンの剥離メカニズムの研究(Stankovich et al., 2006Nature) によると、本研究のXPS分析で得られた酸化グラフェンの酸素含有量から、グラファイトが酸化と共に層間距離が大きくなり、剥離して酸化グラフェンになっていると考えられる。しかし、XPS分析で得られた酸素含有量はラマン分光分析の推定値よりも大きい。この原因として、ラマン分光分析の先行研究(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)は熱還元中に酸素含有量を測定したため、跡津川断層系の断層岩試料は熱還元以外のプロセス(断層運動や酸化反応など)がラマンスペクトルに影響した可能性がある。
酸化グラフェンのsp2に富んだ領域では摩擦係数が低く、面構造が潤滑効果を引き起こすと考えられている(Lee et al., 2016Nanoscale)。また、酸化グラフェンの酸素含有官能基の種類が潤滑メカニズムに与える影響に関する研究(Liang et al., 2019Appl. Surf. Sci.) よると、他の酸素含有官能基に比べ、ヒドロキシ基は水との水素結合を形成し、低摩擦性能をより向上させると考えられる。したがって、本研究で分析した試料に含まれる酸化グラフェンは、面構造とヒドロキシ基の水素結合相互作用によって断層を潤滑して、グラファイトよりも効果的に断層の摩擦強度を下げると考えられる。以上から、酸化グラフェンの低摩擦特性は、跡津川断層系のクリープ(非地震性の断層すべり)を説明できる可能性がある。
そこで、本研究は、酸化グラフェンがグラファイトを含む断層に存在するのかを調べ,酸化グラフェンが摩擦強度を下げる可能性があるかどうかを調べるために、ラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を使用して、跡津川断層系茂住祐延(もずみすけのべ)断層のガウジ試料中に含まれる炭質物の構造解析を行った。その結果,世界で初めて活断層中に酸化グラフェンを発見したので報告する。
本研究のラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を用いた分析は、ガウジ試料の黒い炭質物と考えられる部分をスポット測定した。ラマン分光分析による酸化グラフェンの同定において、ラマンスペクトルの見かけのGピークと、2D‘ピークのラマンシフトを半分にして推定されたD’ピークのラマンシフト差が、負の値の時、酸化グラフェンに分類(King et al., 2016Sci. Rep.)した。また、X線光電子分光法(XPS)分析は、物質に弱いX線を当て、原子を励起させ、そこから放出したX線を検出する方法である。XPS分析より酸化グラフェンの同定を行い、さらにカルボキシ基やヒドロキシ基、炭素結合などの化学結合状態や酸素含有量を調べた。
ラマン分光分析の結果、跡津川断層系の断層岩試料は多くの測定点で酸化グラフェンの存在が認められた。また、ラマンスペクトルの波形分離解析(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)から、酸化グラフェンの酸素含有量は10~20 wt%と推定できた。XPS分析の結果、跡津川断層系の岩石試料にはヒドロキシ基やカルボキシ基などの酸素含有官能基が約33 atm%含まれ、酸素含有量が31.3 wt%(O/C比が0.34)であった。また、XPSスペクトルの解析により、sp2の炭素の二重結合(グラフェン構造)とsp3の炭素の単結合の比がおよそ7:3であり、酸素含有官能基の中でヒドロキシ基が最も多く、エポキシ基やカルボニル基は微量であった。
グラフェンの剥離メカニズムの研究(Stankovich et al., 2006Nature) によると、本研究のXPS分析で得られた酸化グラフェンの酸素含有量から、グラファイトが酸化と共に層間距離が大きくなり、剥離して酸化グラフェンになっていると考えられる。しかし、XPS分析で得られた酸素含有量はラマン分光分析の推定値よりも大きい。この原因として、ラマン分光分析の先行研究(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)は熱還元中に酸素含有量を測定したため、跡津川断層系の断層岩試料は熱還元以外のプロセス(断層運動や酸化反応など)がラマンスペクトルに影響した可能性がある。
酸化グラフェンのsp2に富んだ領域では摩擦係数が低く、面構造が潤滑効果を引き起こすと考えられている(Lee et al., 2016Nanoscale)。また、酸化グラフェンの酸素含有官能基の種類が潤滑メカニズムに与える影響に関する研究(Liang et al., 2019Appl. Surf. Sci.) よると、他の酸素含有官能基に比べ、ヒドロキシ基は水との水素結合を形成し、低摩擦性能をより向上させると考えられる。したがって、本研究で分析した試料に含まれる酸化グラフェンは、面構造とヒドロキシ基の水素結合相互作用によって断層を潤滑して、グラファイトよりも効果的に断層の摩擦強度を下げると考えられる。以上から、酸化グラフェンの低摩擦特性は、跡津川断層系のクリープ(非地震性の断層すべり)を説明できる可能性がある。
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン