講演情報

[G-P-3]ジルコン年代学と化石相からみる蝦夷層群函淵層の層序対比の再検討

*久保見 幸1、長田 充弘2、仁木 創太3,4、平田 岳史4 (1. 北海道博物館、2. 日本大学文理学部地球科学科、3. 名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部、4. 東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)
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キーワード:

蝦夷層群、函淵層、凝灰岩、ジルコン、白亜紀

はじめに
 蝦夷層群函淵層は,東北日本の白亜系~古第三系の前弧海盆(蝦夷堆積盆)の最上部層を構成する地層の一つである.函淵層は宗谷丘陵,中頓別,天塩-中川,大夕張,夕張および穂別地域などに分布する.函淵層の模式地は,大夕張地域の大夕張ダム・夕張シューパロダム周辺である(Ando, 2003).模式地の函淵層は,礫岩,砂岩および凝灰岩からなる浅海成~河川成堆積物であり,本層最上部にK/Pg境界の不整合が存在すると解釈される(安藤ほか,2007).各地域の函淵層からアンモナイトやイノセラムスが産出し(例えば,Ando and Tomosugi, 2005;西村,2018),模式地の函淵層最上部からは古第三紀暁新世を示す渦鞭毛藻化石が産出する(鈴木ほか,1997).
 近年,各地域の函淵層の凝灰岩や砂岩のジルコンU–Pb年代が報告されている.石坂ほか(2021)は大夕張地域北部の函淵層上部の砂岩から64.3 ± 1.1 Ma(k = 1)の加重平均値を,Kubomi et al.(2023)は夕張地域の函淵層の凝灰岩から64.1 ± 1.1 Ma(k = 2)の加重平均値を報告した.これらの年代や渦鞭毛藻化石から,大夕張・夕張地域の函淵層上部は古第三系下部暁新統ダニアン階に対比される.一方,模式地の函淵層下部からは数点のアンモナイト化石の産出のみであり,信頼できる放射年代,特にジルコンU–Pb年代に基づく堆積年代の制約には至っていない.そこで,著者らは模式地に露出する函淵層下部の凝灰岩層に注目し,地質調査を進めてきた(久保見・長田,2024).本発表では,模式地の函淵層下部の凝灰岩のジルコンU–Pb年代と化石相から堆積年代を整理し,各地域の函淵層の層序対比について再検討する.

地質概説・年代測定試料
 模式地の函淵層下部の凝灰岩層の層厚は約28 m,走向・傾斜はN10°E・54°–62°Eで逆転構造を示す.凝灰岩層は一枚の単層でなく、凝灰質シルト岩、珪長質シルト岩、珪長質凝灰岩、およびガラス質凝灰岩の複数の単層から構成される.年代測定した試料HOY-2は白色~灰色を呈し,極細粒の石英や斜長石を主体とし,約50 µmの微細な火山ガラスを含むガラス質凝灰岩である.火山ガラスはバブルウォール型や繊維状である.

結果・考察
 試料HOY-2の最も若いジルコン206Pb/238U年代は78.2 ± 2.4 Ma(k = 2),この粒子と包含係数k = 2で重なる粒子で構成するコンコーダントデータの206Pb/238U年代の加重平均値は79.8 ± 0.8 Ma(N = 7,k = 2)となった.この値は大夕張地域の蝦夷層群上部および函淵層最下部から産出する下部カンパニアン階上部を示すアンモナイトCanadoceras kossmati(Saito et al., 1998)と調和的であり,函淵層下部の堆積年代は下部カンパニアン階上部に相当すると解釈した.よって,模式地の函淵層の初の放射年代が明らかとなり,古第三紀後期暁新世の渦鞭毛藻化石(鈴木ほか,1997)や放射年代値(石坂ほか,2021)とあわせて,大夕張地域の函淵層の堆積年代は,前期カンパニアン期(約80 Ma)~後期暁新世セランディアン期(約60 Ma)に相当することが明らかとなった.また,大夕張地域(模式地)と他地域の函淵層のジルコンU–Pb年代や化石相を整理すると,大夕張・中頓別地域の函淵層下部は下部~中部カンパニアン階に対応する.また,天塩-中川地域の蝦夷層群上部オソウシナイ層最上部の凝灰岩のジルコンU–Pb年代(80.2 ± 0.8 Ma;Shigeta and Tsutsumi, 2018)は試料HOY-2の加重平均値と不確かさ範囲で重複し,C. kossmatiが産出する点で共通するため,模式地の函淵層下部とオソウシナイ層最上部は対比可能である.各地域の函淵層の年代や化石相のレビューによる層序対比の詳細はポスターで発表する.

引用文献 Ando, 2003, J.Asian Earth Sci., 21, 921–935. / 安藤ほか,2007,地質雑,113, S185–S203. / Ando and Tomosugi, 2005, Cretaceous Res., 26, 85–95. / 石坂ほか,2021,地雑,130,63–83./ 久保見・長田,2024,北海道博物館研究紀要.9,53–61. / Kubomi et al., 2023, J. Geol. Soc. Japan, 129, 453–460. / 西村,2018,第125回地質学会講演要旨,R5-P-2. / Saito et al., 1998, Bull. Mikasa City Mus. 2, 17–26. / Shigeta and Tsutsumi, 2018, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. C, 44, 13–18. / 鈴木ほか,1997,第105回地質学会講演要旨,p62.

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